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説話16 元魔将軍は最初の村に泊まる

「ぼくちゃんはどこからきたの? こんな田舎の村になんのようかしら」


「ボクは学者。山奥に住んでたけど、おばあちゃんが自由に世界を見てこいって、家から追い出されちゃってさ。それで今は各地を回ろうと思います」


「あら、えらいわね。それでうちの宿に泊まるの?」


「うん……三日ほど泊まっていこうかな」


「じゃあ、ここに記帳してね。お風呂とお食事を用意するから、ぼくちゃん、なにか嫌いな食べ物はないかしら?」


「好き嫌いはないですよ」


「まあ、なんていい子なの。お部屋はあとで案内するからテーブルで座って待ててね」


「うん、ありがとう。きれいな女将さん」


「おやまあ、なんて正直な子」




 ちょっと太っているおばさんは嬉しそうにバタバタと走って行った。


 勇者たちと色々話せて本当に良かった。


 なんでも異世界転移したらなるべく目立たないほうがいいって、戦士のクワダが言ったのが役に立ててる。それで身分も偽ったほうが何かとやりやすいとか言ってたな。クワダはこんな異世界転移なんかしたくなかったと寂しそうに呟いたけどね。


 クワダ、あなたがしたかったことをボクが代わりにしてあげるから大丈夫。クワダは試験勉強というやつをあちらの世界でちゃんとしてよ? 仲間の賢者のキョウコが心配していたからね。がんばれクワダ!




 ボクは食べ物を食べない。


 正確に言うと食べる必要がないのさ、魔力だけで賄えるからね。それでも人間のフリじゃないけど、魔族でも食べることが必要なやつらは大勢いる。宴会とかで食べるフリしておかないと場がしらけちゃうから、食べるフリして口の中に作った食べ物用の異空間に放り込んであるんだ。


 だから、ボクの異空間には魔王軍の料理人たちが作った数々の美味な絶品が今でも山ほど入ってるのよね。



 なんでこんなことを説明しているというと、それは目の前にいる宿の女将、ナタリーさんという人間が目を輝かせてボクを見てくるからなんだ。


 ――この目は知っているよ?


 魔王様もボクにものをくれるときはこういう目をするからね。だから、ナタリーさんにどう言えばいいかということをボクは知っているんだ。



「ナタリーさんが作ったお料理はとても美味しいです。こんなの食べたことがありません」


「まあまあ、この子ったらなんてお上手かしら。こうなったら夜食も腕を振るっちゃうわ、期待しててね」


「ボク、とても楽しみにしているよ。あーあ、待ち遠しいなあ」


「んまあ、旦那がちっとも褒めてくれないから嬉しいったらありゃしないわ」



 うん、なんでおばさんが涙を流しているだろう? 褒められて嬉しいはずなのに泣いてしまうんだね。人間って、不思議だよ。



 でもね、それもボクは知っているんだ。


 聖女のナカタニも料理を褒めてあげたら大声で泣いてたもんね。あの時は絶対にナカタニの作った料理を食べようとしない勇者のヤスダが、物凄く驚いた顔でボクを見てたけど、なんででしょうね。


 フシギダネ。



お疲れさまでした。

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