説話153 不死者は激怒する
「な、なんだこれはああっ!」
「なんだと言われてもリビングアーマーだけど」
先からうるさく話している馬上の男にボクは優しく答えてあげたね。
一応全員がここで死ぬなんだからさ、知る権利ってやつはあいつらにもあると思うんだ。
「なんでこんなところに魔物がいるんだ! お前は何者だ!」
「うるさいなあ、静かに喋ったらいいじゃないか。そんなに怒鳴ってもきみたちは死ぬよ?
もうね、シツケられるかどうかはどうでもいいなの」
こいつらは見てすぐにわかったんだ。
血に染めれている汚れた魂、こいつらは暗黒神が喜びそうな浄化が必要なクソどもだね。地獄に長くいそうだよ。
それはいいとしてアールバッツたち遅いね。このさき、戦うことになるかもしれない相手は知っておいたほうがいいよ。
「スルト兄さん!」
「アールバッツか。みんなはちゃんと来た?」
「スルトさま。フィーリはここにいます」
「みんな来たみたいだね。リビングアーマーのそばでいいからよく見てね?
これから死んでいくこいつらが将来きみたちの行く手を阻む者たちさ」
うん、年長組はちゃんとリビングアーマーの後ろに隠れているね。
こいつらをヤるのはリビングアーマーじゃないよ? 魂が腐ろうと心が汚れていようと一応は騎士なんだからさあ、そこを尊重してこっちも騎士を用意してあげるんだ。
ボクってさあ、やっぱり優しいのよね。
「全員抜刀っ!」
お? こいつらは震えながらも剣を抜いてきたね。じゃあ、こっちも来てもらおうかな?
「デュー1号さん、お願いね」
『わしはデュー117号さんじゃ。以後、間違わんようにな』
ボクの呼びかけでこの場に躍り出たのはデュラハン。
自己主張するのはいいけどね、ボクにはだれがだれだかさっぱりわからないからね? だからそんなことはどうでもいいよ。
「はいはい。こいつらも騎士らしいからデュー117号さんに頼むね。
せめての情けに首だけはこいつらの家に送り返してあげるからさあ。
斬首ってやつをやっちゃってね?」
『承知』
「なんなんだこいつはああっ!」
あーもう、うるさいよ。騎士ならそれなりの作法もあるでしょう?
それをサッサとやっちゃいなよ。
『わしは地獄の暗黒騎士団セクメト分団のデュー117号じゃ。
通り名は愛の使者だ。ぬしらも名乗られよう。』
『こらあっ! デュー117号!
その愛の使者はこのデュー251号の通り名だ。勝手に使うな!』
なんだその気が抜ける通り名は。
愛の使者ってなんだよ? なんの愛だよ。しかも競争相手までいるとはデューさんたちも侮れないね。
「化け物風情に名乗るヴァツルス辺境伯の名などないわ!」
おお、慄いているのに言うことだけは勇ましいね。
でもそれは逆効果だよ? 心の美しい騎士の魂が暗黒神に誘われて、地獄の暗黒騎士団に所属したのがデュラハン。
たとえ死んでいても彼らは礼儀正しく騎士道を重んじる騎士様。
『ならば貴様らはゴミくずも同様、わが暗黒剣を使うまでもない。
とっとと死んで暗黒神様のところへ逝けいっ!』
ほーら、言わんこっちゃない。デュラハンを怒らせるといいことなんてないからね。
――じゃあ、全員ここで死んで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
怒りを見せる化け物に首を刎ねられていく雇われ者の手練れたち、抵抗することすらできねえ。
おれが見たかった血煙も聞きたかった慟哭もそれは村人たちのもんであって、てめえらのではないぞ。
すでにブルクハルトのやつも首を刎ねられた。おれはあいつに言われてこんなド田舎にきてやったんだ、おれはなんも悪くねえ。
くそっ! 逃げようにもこのリビングアーマーって魔物が邪魔してくる。
――どけっ! おれはビルンバッハ公爵の九男のディートヘルム子爵様だぞ。道を開けろ! おれは死にたくねえ!
なんだ? なんでこんなに静かなんだ?
『残るは貴様だけだな。』
「ヒッヒーー!」
近寄るなっ! あっち行け化け物! もうブルクハルトのやつを殺したからいいだろう。
全部あいつがやったことなんだ、おれはあいつにこうしたほうがいいとしか言っていない。だからおれは悪くねえ。
「こ、殺さねえでくれ。悪いのは全部ブルクハルトのやつだ。あいつの首を刎ねたからもういいだろ?
おれを逃がせばビルンバッハ公爵からたんまりと報酬がもらえるぞ?
なあ、おれを逃がせよ」
『薄汚く卑しい魂だな!
地獄の奥底で積み重ねた罪を悔やむがいい!』
え? なんだその振り上げた剣を持つ手は?
おれはビルンバッハ公爵の九男のディートヘルム子爵様だぞ! 高貴な血筋だぞ! こんなところで死んでい――
お疲れさまでした。




