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説話146 元魔将軍は難民と会談する

 難民たちはだいぶ落ち着いてきたので、ボクとイザベラは彼らのこれからについて話し合うために迎賓館まで足を運んだ。



「やあ、こんにちは」


「皆様、ごきげんよう!」


 男女老若の難民たちはどこか不安そうな様子でボクたちを注視する。


 その中から一人の中年の男が前に出てきて、ボクたちに話しかけてきた。



「おれはジャックだ。

 ここのお偉いさんが話をしてくれるってメリルさんが言ってたから……」


 ジャックという男はボクとイザベラを交互で確かめるように視線を送ってくる。どちらがおえらいさんであることを推測中と思うね。


 でもこれは事前にイザベラに話して決めてるんだ。



「ワタクシ、イザベラ・ジ・エレガンスがあなたたちを導く村長でありますわよ。

 オホホホ」


「は、はあ……」


 イザベラをね、難民たちが作る村の村長にするつもりなんだ。


 難民たちの中から選んでもいいが、ボクたちとはどうしても心の距離が出来ちゃうと思うのよね。その点、イザベラは適任。


 イザベラが村長ならボクも安心してできる限りの援助をしてやれるのさ。



「じゃあ、ボクから説明するけどいいかな」


「は、はい……」


 ジャックは戸惑ってるようだけど気にしないよ。


 ここはボクの考えを述べながらジャックと意見を交換する。



「きみたちは大変だとメリルからは聞いてる。

 当面の間はここで寝泊まりしてもいいから、気を使わなくてもいいよ。

 それでね、これから話すのはきみたちの将来のこと。

 どうする? 故郷へ帰りたい?」


 難民たちはボクの言葉を聞くと全員が隣の人と話したりして騒めいてる。


 ジャックさんは先と違って、しっかりした口調でボクのほうに口を開く。



「あんたの名は?」


「スルトだよ」


「スルトさん。おれたちに帰るところなんてない。

 村と畑がが焼かれ、親兄弟を殺された。しかもそれが敵とは言え、れっきとした騎士団だからな。

 おれはカラオス王国の生まれだ。お国の騎士団はおれたちを守るのじゃなくて、ワルシアス帝国の村を略奪するのに夢中だ。

 実際、この中にもワルシアス帝国の人もいる。

 敵国の民と言っても、俺達と同じように畑を耕し、家族と苦しいけど、ささやかなではあるが幸せの生活を送ってきたんだ」


「……」


 ジャックさんが涙ながら語っているので、彼の邪魔をしないようにボクは黙ったまま聞いてあげる。



「それがなんだ? くだらない戦争のせいでなぜおれたちは家を失わねばならない。

 ここ来るまでに盗賊に襲われて、半分近くの人が攫われたか、殺されたかです。

 そんなおれたちはどこへ帰ればいいか教えてくれ!」


「それならここに居ればいい。ここに新しい家を作ればいい。家族と暮らせばいい。

 ここならきみたちが作物を作る畑もできるし、家を作る木材だって暗黒の森林にはあるさ」


「しかし、言い伝えによると暗黒の森林には怖い魔物がいるじゃないか」


「きみは暗黒の森林の魔物に襲われたかな?」


「いや……でも……」


 ボクに問われて、ジャックは口ごもってしまってる。



「ジャック。確かに暗黒の森林にはきみたちが魔物と呼んでる魔族はいる。

 だけどうまく付き合えば仲のいい隣人になれるんだ。

 今じゃなくていいんだ。少しずつ慣れていくと種族こそ違うけど、心を込めればきっと話し合えると思う。

 きみたちを助けたゴブリンのバルクスも暗黒の森林の出身だよ」


「で、でも……」


 まあねえ。ボクもいきなり慣れろとは言わないのさ。


 だれだって、慣れ親しんだことや長い間に刻み込まれた認識を急には変えられないもんね。イザベラなら別だけど。



「ジャック。きみたちが望むならまずはここで住んではどうかな。

 ここは国じゃないし、きみたちから税を取り上げることもない。きみたちは怖がるだろうがここは魔族たちが守っているから、盗賊などの輩が近付くはできない。

 住みつくかどうかはきみたちがよく話し合った上で決めるといい、そこは強制するつもりないからね。

 もしここで住むつもりなら、必要な物があれば村長のイザベラに言ってくれたらいいのさ」


「ワタクシ、イザベラ・ジ・エレガンスがあなたたちを導く村長でありますわよ。

 オホホホ」


 難民たちが見ている中、イザベラはいつものように高笑いしていた。


 ――うん。イザベラはイザベラだね。



お疲れさまでした。

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