説話144 勇者候補は決意を示す
今日はいつものダンジョンへ遠征に行く。ガルスという先生がぼくらを引率してくれるんだ。
ガルス先生は新しく着任した先生なんだけど、とにかく強い。
ボクとバルクスの二人掛かりでも先生には当てられそうにない。先生は木刀でしかぼくらと訓練をしないけど、それが真剣に見えちゃうほどすごい気迫なんだ。
今回は勇者組と戦士組が合同で参加する遠征。
聖女組と賢者組は参加しないから、スルト兄さんが作ったエリクサーというすごい回復薬をたくさん持たされてる。怪我をしたら遠慮なく使えと言われてるんだ。
スルト兄さんはぼくらに対して過保護と思う。
怪我ならスルト兄さんが作ったポーションで十分治るのに。でも、その気持ちはすごくありがたいからちゃんと感謝してもらっておく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遠征の時に行くいつもの道をぼくらが歩いているとガルス先生がフッと手を上げて、ぼくらに停止するようにと命令を出した。
ガルス先生が見ているほうにぼくも目を向けてみたが、そこは何者かに追われて、必死に逃げている人々がたくさんいたんだ。
「先生!」
「なんだ?」
「見に行ってもいいですか!」
「汝、見に行ってなんとする」
「もし、人々がなにかに襲われているのなら助けたいです」
「……よかろう。汝の決意を見させてもらおう」
先生の同意を得るとぼくは強い決意を持って後ろへ振り向いた。勇者組と戦士組のみんなはぼくに頷いてくる。
「アールバッツ。お前ギャ、行くのギャー?」
「ああ。それが勇者の務めだと思う」
バルクスはぼくの言葉を聞いてから小さく頷いた。それからすぐにバルクスは戦士組に向かって声を張り上げる。
「戦士組は勇者組を援護するギャ。いいギャー!」
「おおっ!」
ぼくも勇者組のみんなに声をかけることにした。
「勇者組は速やかに前進せよ。状況を把握したのち、ぼくの指示を待て!」
「おおっ!」
ガルス先生はなにも言わないけど、両手を組んだままぼくらを見守ってくれてる。
この人がいる限り、ぼくらに危険はない。だけどやるからには自分の決心を示さねばならない。必要があれば、剣をだれかに向けなければならないんだ。
襲われてるのは農民と思われる人たち。
足が遅い子供、女性、お年寄りは盗賊たちに殴られ、蹴られ、そして切られている。それを守ろうとする男たちも抵抗する甲斐がなく、やはり斬り殺されてしまった。
――手が震える。視野が霞んでくる。血が騒いでくる。怒りが込み上がる。
こんなのってないよ。
『汝らやめよう。』
大きくはないが魂を揺さぶって来るガルスの声に、ぼくらを含めた全ての人の動きがその一声で止まった。
「アールバッツ。汝、ここで決意を示せ」
ぼくはガルス先生に自分の心を見せないといけない。
今まではスルト兄さん、イザベラ姉さん、マーガレット先生、メリル先生たちに見守られてきたけど、ここから先はぼくが自分で決めて、仲間たちの賛成を得た上でみんなで何かを成し遂げる。
「全員前進っ! 戦士組は敵の撃退に集中。勇者組は難民を敵から守れ!」
今日が最初なんだ。ここからがぼくの勇者としての始まり。
お疲れさまでした。




