説話143 元魔将軍はポーションを寄付する
「それで今回の戦争はどっちが勝ったの?」
エリックの家はボクが作ったのだが、間取りはほぼベアトリスの要望通りに作ってあげた。応接室だけはエリックの強い希望で広めに作ってあるのよね。
ボクは今、その応接室でエリックから人間の国々のことを聞いているんだ。
「毎回のことながら、どっちが勝ちというのはありませんよ。
いつものようにまずは貴族の騎士団が形式だけの戦いをして、そのあとは徴兵された平民の歩兵部隊が死に物狂いで戦わされるだけです」
「そう」
「しかも今回の戦争は特にひどいです。相手の国力を奪うと言って、国境にある村々にお互いの騎士団が襲ったんですよ。
聞くにたええない話でね、道には難を逃れようと難民が溢れています。
それをさらに盗賊どもが襲い掛かるもんだからたまったものじゃありませんよ」
「ふーん」
弱い者が強い者からなにかを奪われるなんて、それこそありふれてる話でボクはエリックが激しく憤っても特に思うことはない。
魔王領を魔王軍で征服していく中、そんな光景を当たり前のように見てきたからね。
それを無くそうとして、魔王様がボクたち魔将三人衆に魔王領の征服を命じたわけだから、ボクたちもそれに従ったわけさ。
ボクは将来において勇者候補たちに人々を救ってほしいけど、今のボクが先頭に立って人々を救うことはしない。
それはボクの使命じゃないからね。
ただね、もしここに難民が流れてきたらボクはそれを受け入れようとは思ってる。
土地はあるのだから村や街を作って、畑を耕すことは何の問題もない。でもそれも難民がここに来ればの話だから、今はそれに思考を巡らすことはしない。
「それでですね。できればポーションを増産してもらえると助かるんです。
騎士団は切り傷でもポーションをふんだんに使うが、徴兵された兵士が大怪我をしてもポーションを使おうとしないんですよ。
だから街には置き去りにされた怪我人が多くてね、ポーションを扱う私どもとしてはどうにかしたいと思っているんです」
「持って行ってくれていいよ。
聖女組も賢者組もこの頃はポーション作りの技能が上がってね、倉庫に子供たちが作ったポーションが積まれているんだ」
「ありがとうございます。
代金のほうは私どもエリック商会持ちとい――」
「そういうのはいらない。ポーションは全部持って行ってくれていい。
なんだったらエリックたちの儲けはボクが負担してもいいよ」
「スルト様っ!」
「うおっ!」
エリックは目じりに涙を滲ませてボクの右手を両手で強く握りしめてくる。
なにが起きたのかな?
「私、いま猛烈に感動しております! スルト様はお優しい方だと思ってましたが失礼ながらここまでとは思いませんでした!
街のほうで今でも治療を待っている怪我人が大勢います。
私どもはユナが収納しだい、すぐに出発したいと思います!」
「あ、うん。頑張ってね」
エリックに勘違いされていると思うけどここは誤解を解く必要ないよね。
ポーションを寄付するのは優しさからじゃなくて、ただ必要としている人がいるからあげただけ。お金は使いきれないほどいっぱいあるし、使い道があるのならどんどん使ってくれたらそれでいいさ。
授業中に子供たちにも一応は声をかけておくか。
自分たちが作ったポーションはなにに使われたのか、子供たちも知っておいたほうがいいよね。
――うん、そうしよう。
お疲れさまでした。




