説話142 元同僚男は剣を教える
ガルスは戦士組の担任先生になってもらったんだ。
もちろん、勇者組でも剣術の指導を担当してもらうが、戦士組の技術が向上することで、勇者のパーティにおける戦闘時の威力が上がるはず。
そのガルスはバルクスを一目で見てから、両目を見開いてバルクスの肩を掴んだのよね。
「汝に剣の道ありと見た。われ、汝を鍛える」
「……」
バルクス、震えてないで喜んでいいよ。
ガルスに見込まれるなんて、魔王軍でも指折り程度の達人しかいなかったからね。
その人たちはみんな、魔王軍で上位幹部になっているさ。
ガルスが使う剣は簡単と言えば簡単なもの。
だって、一太刀しか斬らないんだもん。ただその一太刀が避けられないのよね。ボクとメリルでも死ぬことはないが大ダメージを覚悟しておかねばならないんだ。
勇者組と戦士組は今後、剣術科目は合同授業ということになった。
聖女組と賢者組でも剣術科目の授業を受けてはいるが、これはどちらかというと剣術を知って身を守る意味合いが大きいのよね。
「振れ!」
「はいっ!」
ガルス先生の本日の授業内容は素振り千回というもの。
勇者組と戦士組の子供たちは回数が進むにつれ、剣を振るう腕が上がらなくなっていく。それでもガルスに言われた千回をこなそうと、必死になって重たくなっている木刀を頭上に掲げてから振り下ろす。
休憩時間の予鈴が鳴ったけど休む子供は一人もいなく、ひたすら木刀を振り続けていた。
こういう光景を目の当たりにすると子供たちはガルスが来てから、剣術に対する意識が高まったとわかるのよねえ。剣の道を追求する厳しさはボクとメリルでは持ち得ないから、ガルスが来てくれたことに感謝だよ。
さて、ボクも次の授業の準備をしようかな。
今日の授業は聖女組と賢者組がポーションの仕上げで使う魔法の注入、魔力の操作は簡単に見えて実は難しいのよねえ。ボクも観念固定という技がなければ、エクス・ハイポーションやエリクサーを大量生産することになっちゃうよ。
「スルト様、こんにちは!」
「やあ、エリック。帰って来たんだね」
「はい。戦争が終わって、ポーションの需要が高まっていますからね。
なんせ、国がほとんどのポーションを買い占めていますのでどこでも在庫なんてないですよ。
こういうのはおかげさまなんて言いたくもないけど、バカ売れなのは確かですね」
「そう。じゃ、ボクも良かったは言わないでおくね」
エリック夫妻は少しだけ暗めの顔をしていたから、なにか良くない知らせを聞いたのかもしれないね。
あとでエリックの家に寄って話だけでも聞いて来ようかな。
ボクとエリック夫妻が話しているところへガルスがナルを連れて用事を伝えに来た。ナルがね、ガルスにすごく懐いているのよね。
「スルト。前に言った勇者組と戦士組のダンジョン強化合宿を三日後に行う」
「いいよ。それはガルスに任せているから好きにしてくれていいから」
ガルスを知らないエリック夫妻はその威厳のある顔を見て、固まったように動けなくなってるよ。
――あっ、ユナがベアトリスの髪の中に隠れてしまったね。
「ガルス。こちらがエリックとベアトリスさ。
子供たちが作っているポーションを売ってくれているんだ」
「元まお――」
「ガルス!」
「……剣士のアガルシアス。汝らもわれをガルスと呼ぶがいい」
ガルスは放っておいたらなにを言い出すかがわからない。とにかくいろんなことに無頓着なんだよね。
まあ、気持ちはわかるけどさ。ボクもイザベラや子供たちと接するまでは人間なんて犬猫と同じだったからね。
ガルスはエリック夫妻に一礼するとナルとともにこの場から去っていく。
「……なんて言いましょうか。雰囲気のある人ですな」
「ええ。怖いじゃないですけど、逆らえないと言いましょうか……ねえ、あなた」
「ユナ、怖かったよ」
まあねえ、ガルスはあの顔で損しているのよね。
別に本人は怒ってないけど、魔王軍にいる時代でも彼の部下たちはガルスの顔を見るだけで恐れていたね。
お疲れさまでした。




