説話141 元魔将軍は元同僚男に計画を伝える
ガルスの迫力に怯えていた子供たちは、ナルがガルスの肩に乗ったり、髪の毛で遊んでいるところを見てから、どうにか怖がる気持ちを和らげることができたんだ。
ナルのアシストってやつに感謝だね。
子供たちが寝静まり、そのナルも今は居間の自宅で就寝して、セクメトは部屋へ引きこもってラノベでも読んでると思う。
ボクたちとガルスは応接室で今後について話し合うからね。
セクメトはこういう話し合いは面倒くさいっていつも言ってる。
リビングアーマーやデューさんたちを使いたいとき、だれか殺したいときだけ言ってちょうだいってさ。その気持ちはありがたいけどむやみに命をあやめるつもりはないからね。
今後のことを決めるつもりの会談なのに、どうもイザベラがいると変な方向を行ってばかりだよね。
「いや、こうして三人が集まるのも久しぶりじゃん? 嬉しいね、本当に嬉しい。
そこで提案だけどね? 昔みたいにパーッと騒ごうよ。
魔王領はもう征服したからねえ、今度は人間の国々をちょろっとやっちゃわない?」
「われ、異論は無し。
戦いがしたいと魔剣ルシェファールは嘆いている。明日からでも始めようぞ」
「あたくし、皆様とともに心が躍るなにかを共にしとうございました。
その人間の国々をちょろっとやっちゃうことを是非ともお手伝いさせて頂きとうございます」
「オーホホホ。
ワタクシ、皆様が仰られていることはよくご存じありませんけど、その国々をちょろっとやっちゃうという言葉はなぜか心に響きますわねえ。
ワタクシが同行してさし上げてもよろしくてよ。
オホホホ」
「きみたちはあっ!
メリルは人間の国々をちょろっとやっちゃわないっ!
ガルスも魔剣も嘆かない!
マーガレットにお手伝いはさせない!
そして……イザベラ、そんなもんに同行はさせないからねっ!」
なんなんだよ。
人間の国々をちょろっとやっちゃわないってどういうことだよ。勇者養育計画がめちゃめちゃになるんじゃないか。
「まあ、スルトちゃんったら。
なにに怒ってらっしゃっているかは知りませんけど、かるしうむというものが足りませんのかしら?
お乳を飲まれるとよろしいらしいですわよ? なんでしたらワタクシのお乳をさし上げてもよろしくてよ?
オホホホ」
「イザベラお嬢様、お乳を出されますのはまずご懐妊していただかないとできません」
「あら、そうですの? ワタクシ、どうしたらご懐妊とやらができますのかしら?」
「オークがよろしゅうございます。
オークなら精力に満ち溢れていますから、間違いなくご懐妊されますのでお勧め致します」
「あら、そうですの? マーガレットは本当に物知りですのね。
それでは今からそのオークさんにお会いしに行って――」
「はい、イザベラはオークさんに会いに行かない。
マーガレットもいらないことを言わない。
みんなしてこれ以上ボクを疲れさせない」
マーガレットもイザベラもなにを話し合っているのさ、決めたいこととは全然違うじゃないか。
みんなに話題を任せるととんでもない方向に発展してしまいそうなので、ここはちゃっちゃと本題に入って、サッサと終わらせよう。
――うん、それがいいね。
「ガルス、ボクは魔王様を倒す。きみにそのお手伝いをしてほしい」
「……」
元魔王軍序列一位の不動の魔神である魔王将アガルシアスがボクの瞳を、その射抜くような鋭い目で見つめてきた。
ボクとガルスはメリル同様に以心伝心の信頼でつながっているが、ガルスの場合はボクらの中で武人らしく、魔王様にゆるぎない忠誠を捧げていたんだ。
ほかのみんなが黙り込んでボクたちを見守っているんだ。
気配だけでわかるけど、メリルとマーガレットはボクとガルスが激突する事態に備えている。
「……了承した」
「ありがとう」
ガルスの返事にメリルとマーガレットがホッとして肩に込めてた力を抜く中、イザベラだけは物欲しそうにマーガレットのことを凝視してる。
さては無くなった茶菓子のお代わりがほしいのだね? イザベラはいつも通りだよ。
このペットはきっと大物だとボクは思うね。
「魔王様を倒す手立てがあると見た。それを教えて貰おうか」
「うん、いいよ。勇者養育計画を今からきみに伝えるね」
ガルスが先生になってくれれば勇者組と戦士組の戦闘技能がグッと上がるはず。
魔王将アガルシアスは天下無双である剣の使い手だからね。
お疲れさまでした。




