説話138 元魔将軍はピクシーを助ける
ピクシーは妖精、小さな体をしてもその魔力量は人間を上回る。
だけどベアトリスから見せられた妖精はほとんどの魔力を失い、気を失ってぐったりしている。
「あのね、エリックとベアトリスがポーションを売ってる時にね、ユナは森で遊んでたの。
そしたらね、この子を見つけたの。スルトに見せたら治るかなあって」
「見てみるね」
ベアトリスからピクシーを受け取ると魔法を通してみたが原因はすぐにわかった。この子は魔脈が千切れていて、そのために魔力が体内を循環していない。
よくこんな状態で生きてたね。
「ねえ、治るの?」
「ああ、任せて」
放っておいてもこの子はいつか死ぬんだ。
だってね、魔力がないとピクシーは飛べない。飛べないピクシーなんて野良犬のいいエサだよ。でも僕ならこの子を簡単に治すことができる。
ピクシーのちぎれた魔脈をつなぎ、同時に魔力を少しずつ送り込んでいく。
よし、これでこの子も魔力を生成できるはずだ。
「治ったよ」
「やったあ、さすがスルト。なんでもできるね」
「よかったわね、ユナ」
ボクがなにをしてもエリック夫妻は驚かないらしく、ピクシーが治ったことにベアトリスとユナがすごく喜んだ。
「……う、うん……ここは?」
目が覚めたピクシーは見たことのない場所を確認するかのように、キョロキョロして辺りを見まわしている。
「やあ、起きたね」
「あなたは?」
「この人はスルトだよ。
ユナはユナなの。それであなたはだれ?」
ボクが答える前にユナが先にピクシーの質問に返事した。
まあ、ボクはユナに頼まれて死にかけのピクシーを助けただけだから、あとはもうどこへ行くなり好きにしてくれていい。
「ナルはナル、飛べないピクシー」
「もう飛べるはずだから飛んでみて」
ナルというピクシーはボクのことを訝しそうに見ていたが、急になにかわかったようでびっくりした顔で自分の身体を触ってる。
「ユナがね、ナルを助けることをスルトにお願いしたの。
スルトはなんでもできるからナルのことを助けたはずよ。
ねえ、飛んでみてよ」
ユナに言われたナルはちょっとだけ体を浮かしてみたり、ユナに支えられて空中で少しずつ移動してみたりしたが、自分が飛べることを確認してから、今は大喜びでユナと一緒に居間の中を飛び回っている。
よかったね。
「あとでマーガレットが来るからその時に売上金を渡せばいいからね」
「わかりました」
用事を済ませたボクはエリックの家から出た。
この時間なら寮に帰ってたらすぐに夕食だね。この頃はフィーリたちがメリルとマーガレットと一緒に食事を作ってるので、料理の腕が上達してるのさ。
別にボクは食事を取らなくてもいいけど、子供たちが作る食事は食べるようにしているんだ。
「ところでナルはどこまで付いてくるのかな?
治ってるから好きなところへ行っていいよ」
ナルがね、ボクの真後ろで付いてくる。この子はなにがしたいのかな。
「ナル、スルトに助けてもらった。スルトといる」
うーん、ピクシーに取り付かれると離れないのよね。
好きなところへ行っていいってボクも言ったからさ、付いてくるならそれはこの子の勝手だよ。
「いいよ。じゃあ、おいで」
ナルはボクの返事に微笑むと、ボクの肩に乗ってから機嫌よく妖精の歌を口ずさんでいる。
お疲れさまでした。




