説話137 元魔将軍はポーション作りを指導する
ポーション作りはボクの手から離れつつある。
なぜかというと今はおもに子供たちがポーションを作っているから。ボクはその手直しというか、商品になれるようにチェックしているのさ。
煮詰めの作業も子供たち、これは賢者組と聖女組にやらせている。
アダムスから聞く話によると、賢者は将来的に自分で工房を構えることが多く、それでポーション売りは収入になれるらしい。
また、ポーションを作る技能を聖女がいれば、貧しい人々を治療するために色んな街や村の神堂へ聖女を派遣できるということらしい。
これについてもボクは異論がない。それで人々に役立つことができるならそれでいいと思う。
ポーションに使うビンだが、今はエリックたちに空のビンを仕入れしてもらってるんだ。
ボクが魔法で作るビンは人気が高く、いつも売り切れの状態。だけどボクがいなければそれはなくなってしまう。それにこれ以上ボクがビンを大量生産してしまうと、ビンを作る職人さんの仕事が減るとエリックから聞いた。
だからね、今のボクがポーションに関わる仕事と言えば畑仕事とポーションの最終チェックくらいかな? 別にいいけどね。どうしてもポーションが作りたいときは、作った分だけ専用である大容量の異空間のカバンに入れてある。
これは将来的にイザベラや子供たちにあげるつもりさ。
「園長、これでどうですか?」
うん。聖女組の子たちが煮詰めの作業を終えたので、ボクはそれを見に行く。
……本当はまだまだなんだけど、でもこれならエリックのいう一本1銀貨のポーションになれそうだね。
子供たちの自信を無くさせないためにもこのくらいでいいかな。
「お疲れさん。まだ改善する余地があるけどね、これででいいと思うよ。」
「やったあ!」
聖女組の子たちが喜んでいるよ。
この後は魔法を込める作業である仕上げだけ、もうすぐ授業が終わりそうなので煮詰めを弱火にして、明日に続きをやればいいと思う。
「みんな、後片付けして、今日はここまででいいよ。」
「はーい。」
子供たちに毎月銀貨三枚のお小遣いを支給しているのよね。
エリック夫妻の店で自由にお買い物させてる。貯めている子もいれば、そのまま使い切る子もいる。それはそれぞれの個性でいいと思うが、他人からお小遣いを借りることだけは厳禁してるんだ。
それもね、アダムスからの提案で受け入れた。
お金を使うのは自己管理の訓練になるから、上手にお金を使う経済感覚を養ってほしいとアダムスはボクにくどくどと言ってくるのよね。
まあ、人間の国々に長く住んできたアダムスなら、こういう教育方針はボクより上手だから反論するつもりがない。
「久しぶりに帰って来るとやっぱり我が家が一番と思いますなあ。」
「あら、久しぶりって言ったって一月もないじゃない。でも、我が家が一番というのは確かですわ。」
エリックたちは行商から帰ってきて、売り上げを清算するためにボクを家に招待してくれた。
それにユナからボクに話があるみたいで、清算し終わったらそれを話すらしい。
「知人に頼まれたスルト様が作ったポーションは無論ですが、聖女組のポーションは銀貨1枚で売れました。
賢者組は銀貨1枚と大銅貨2枚で完売です。あと勇者組と戦士組のポーションは言われました通り、神堂や貧困している人たちに無料で譲りましたよ。
いやあ、大変喜ばしてね、私どもが作ったものじゃないからもうこそばゆくて。」
「ありがとう。」
「いいえ、こちらがお礼を言いたいくらいですよ。
それでですね、寄付した分を省いて今回の総売り上げは私どもの四割を差し引くとですね――」
「いいよ。いつものように売上帳と一緒にマーガレットに渡せばいいよ。」
ポーションについては前のようにエリックたちがボクから買うのではなく、エリックにポーションを預けて、エリックの経費として総売上金の四割を渡すことにしているのさ。
だって、お金をもらうってのは面倒だよ。ボクに使い道なんてないしさあ。
「ねえ、お話終わったの?」
「うん。ユナはボクになんの用かな?」
「あのね、この子を見てほしいの。」
「うん?」
ベアトリスは毛布の敷いてある籠から眠っているピクシーを手のひらでそっと取り出した。
――ん? このピクシー、魔力が枯渇してるよ。
お疲れさまでした。




