説話136 元同僚女はポーションを作る
今日は子供たちの学園行事。
セクメトとイザベラに連れられて、みんなは行きたかった森の遊園地へ仲良く二泊三日の林間学校。だから寮には大掃除したいマーガレットと休暇を取りたいメリルしかいない。
せっかくなのでボクも休暇を取らせてもらったよ。
エリックとベアトリスは行商から帰ってきて、ボクが作った店舗付きの家を見たときは大喜びしてくれた。家具も作ってあげようとしたがベアトリスに丁寧に断られたんだ。
これから各地を回って、夫婦で好きなものを選びたいらしい。
ユナのほうは嬉々として林間学校のほうに同行したよ。
「いやあ、本当にありがとうございます。
もうベアトリスがわがままばっかり言って、それでも希望をかなえてくれたスルト様に大感謝ですよ」
「あら、わたしばかりがわがままっていうけど、あなただって応接室はこうしてほしいとか、ああしてほしいとか言ってたじゃないの」
「気にしなくていいよ。片手間でできただからさ」
放っておいたらケンカしそうだからそこでとめた。そうしないとボクは貴重な休暇の時間がこの夫婦に潰される。
「いやあ、申し訳ありませんな」
「すみません。恥ずかしい所を見せちゃって」
「気にしてないよ」
ベアトリスがチラチラとボクのほうを見ているけど。どうしたのかな?
「あのう……スルト様。よろしければ今回はスルト様にポーションを作ってもらえませんか?
実は昔にワルシアス帝国でお世話になったお方がいて、品質のいいポーションがほしいとお願いされましたもので、わたしたちはできれば応えてあげたいです。
ガラスビンならすでに用意してますけど」
「うん任せて。すぐに作っちゃうよ!
あ、空のビンは倉庫に置いてね」
ボクのポーションにご注文が入ったんだ。
これで徹夜してもマーガレットになにも言わせないよ。すぐに行こう! さっそく行こう! フフフ~ン
ボクを指名した注文があるということで薬草の畑に来ているのだが、なんでメリルがここにいるんだよ。
「なにしてるの?」
「いやあ、暇だからね。スルトにポーション作りを教えてもらおうかなって」
フッ……甘いな、メリル。ポーション作りは奥深いよ?
回復薬作りの達人であるボクじゃないといくらなんでもできるメリルとは言え、簡単にポーションは作れないさ。
でもね、どうしてもというなら教えてやってもいいよ。
「いいよ。このポーション作りの達人であるボクが親切丁寧に薬草の収穫から魔法を込めるまで教えてあげる。
よく見てから同じのようにやってね」
「はいよ」
じゃあ、行くよ。
あー、ヌキサクヌキサク――
え? ちょっとお……なんで薬草の収穫と苗植えがもう終わったの?
「終わったよ。次はなにをすればいい?」
なっ! ボクより速いじゃないか……まあいいさ。ここから先が難しいからね。
「次は薬草をきれいに洗ってからすり潰すよ。
ボクがやってみせるからよく見てから同じようにやってね」
「はいよ」
あー、ゴリゴリゴリゴリ――
え? なんで薬草のすり潰しがもう終わったの? しかもこのきめ細かさはなに? そんなの見たこともないよボク。
「終わったよ。次はなにをすればいい?」
「……」
……ま、まあ。ポーション作りはここから先が達人の領域だからね。
「薬草の煮詰め作業だよ。
均一にかき混ぜるにはコツが必要なんだ。難しいからここはちゃんと見てね」
「はいよ」
あー、カキマゼカキマゼ――
え? なんで薬草の煮詰め作業がこんなに早く終わったの? しかもその薬草液はなに? 光り輝いているってどういうこと? 薬草の香りが作業室に充満しているし……
「終わったよ。次はなにをすればいい?」
「……」
この女はああ。いとも簡単にボクの100年の修行を越えてええ……
フゥゥ……いい。次が一番難しいんだ。完璧なポーションは決まった魔法の量でしかできないさ。
これは認識固定という神も羨むはずの技を持つボクだけができるのよね。いくらメリルと言え、完璧なポーションなんて作れるはずもないんだ!
……どうしよう……ボク初めて見たよ。メリルが作ったポーションは黄金色に光り輝いている。
それはもうポーションという名のなにかだね、ポーションじゃないよねそれ。
泣きそうになってきた。魔法以外にポーション作りだけがボクの誇りなのに……
「……あーあ、100本の内に7本がハイポーションになっちゃったよ。失敗しちゃったね」
――なにっ! 失敗だって? フ、フワハハハハっ! もうびっくりしたじゃないか。
「まだまだだね、メリルは修行が足りないね!」
「そうね。これってさあ、単純作業だから飽きちゃった。もう行くね」
それだけを言い残してメリルは会社の作業室から出た。
バカだね、ポーション作りは奥が深いんだ。にわか仕込みのメリルごときにできるはずがないっ!
そうそう、失敗作ならメリルのポーションはベアトリスに売れないね。ボクがちゃんと一から作りなおさなくちゃ。
フワハハハハっ!
「よろしいのですか? あたくしちょっと覗かせてもらいましたけど、メリル様はこれ以上ない完璧なポーションをお作りしましたよね?
それにわざと手を抜いてませんか?」
会社の外で立っていたマーガレットの疑問に、メリルは微笑みながら答えてあげた。
「いいのいいの、あの子をからかいたかっただけなの。スルトの泣き面が見れたからもう満足したわ。それよりご飯を作ろっ、ね?」
「はい、畏まりました」
未だに作業室で高笑いしているスルトを残し、夕日を背にしたメリルとマーガレットは雑談しながら寮のほうへ向かった。
お疲れさまでした。




