説話135 元魔将軍は魔法を見せる
ダンジョンの遠征を終えたアールバッツたち年長組の顔から達成感と満足感を伺うことができたんだ。
メリルの指導のもとでダンジョンモンスターと闘い、その合間にアトラクションをいっぱい楽しんできたはずさ。
その体験を羨ましそうに聞いた子供たちは、ボクに自分たちも行きたいとせがんでくる。主にミール、エリアスとアウネなんだけど。
「ミール、ゆうえんちで遊びたい」
「あそぶなの」
「ととさん、アウネも行きたい」
「いいよ。じゃあ、次の遠足は遊園地にしようか」
「やったー!」
「やたなの」
「ありがとう、ととさん」
ボクは子供たちが喜んでくれればそれでいいさ。
子供向けのアトラクションもルシェファーレがちゃんと考えてくれると思う。
それはいいとしてアウネ、そのお父さんの設定はまだいきてるんだね。マーガレットに言わされてるのならボクがきつく叱ってあげるから言ってね。
魔法実技の授業はボクが作り出した授業用の異空間で行っているんだ。
園生たちに魔法を好きなように撃たせてあげたいからね。
勇者組にもれなく雷系魔法を教えている。
勇者のカガが勇者ならイカヅチがお決まりの魔法だと言ってたが、自分が使えないことに落胆してたんだ。
カガ、きみの夢は勇者候補たちが叶えてるからね。
聖女組は回復の魔法に補助系魔法全般、自分を守るために水系魔法を伝授してる。
戦士組にはパーティの魔法負担を減軽させるため、最低限の回復魔法と自己強化などの補助系魔法を覚えさせているのさ。
勇者パーティの魔法の要は賢者。
それぞれの才能に応じて、得意とする攻撃魔法を伸ばすのがボクの賢者組に対する育成方針さ。
例えばアグネーゼはエルフ、彼女は風系魔法を駆使する。
人間であるエルネストは火系魔法が得意のように、使える魔法を長所として伸ばしてあげたいとボクはそう考えてる。
ギディオンという男の子は水系魔法の使い手、それを極めさせてから氷系魔法へ発展させるのが彼の育成方針だ。
アウネはね、種族の特性である風系魔法は勿論のこと、彼女は全ての魔法が問題なく使えるのよね。この子はとても優秀なんだよ。
今日は合同授業の日、全ての先生と園生が授業用の異空間に集まってもらってるんだ。
「みんな、よく聞いてね」
「はーい」
うん、元気があってよろしい。
「今からボクが特別の魔法を見せるよ。
ただし、きみたちがこれを使うことはできない。
この魔法はね、とてつもない魔力が必要なんだ」
「へええー」
「ボクはね、魔法は無限の可能性が秘めていることを知ってほしいからみんなに見せるのさ。
メリル先生もマーガレット先生も見たことがないんだよ。
今からみんなを守るために魔法防御の膜を張るから動かないでね」
「おお……」
ボクに見たことがないことを言われたメリルとマーガレットはその両目を輝かせてる。
イザベラとアダムスは子供と同じ、ボクが使う極大の攻撃魔法をみたことがない。
さて、みんなを覆うようにして最大限の魔力遮断の膜を張った。
これでみんなを守れるはずさ。それを維持するために移動することが出来なくなるからボクも緊急時以外は使わない。
「よく見てね」
「……」
授業用の異空間が静かになっていて、みんながボクのほうに注目しているんだ。
これはカガから聞いたゲームの魔法。
ボクに想像することが出来たので、一回だけ異空間で試し撃ちしたんだ。ただそのあまりの威力に驚いたボクは即座にこの魔法を封印した。
これを止められるのは世界が広いとは言え、神か魔王様、それにガルスとメリル、天界の上位十位の天使くらいなもんさ。
手を上にかざす。イメージは空から降って来る燃える石。
そう、それは流れ星。
「――衝突魔法ミーティアっ!」
異空間の上方から赤く燃え上る巨大な石が降り注いでくる。
魔力遮断の膜の外では猛烈な熱風が押し寄せてきたはず。異空間の中でも立っている平面から大きな震動が伝わってきた。
ちょっとチラ見したけど、子供たちは怖がって抱き合ってるけどまだ終わらないよ?
この魔法は地面に激突してこそが最大の攻撃を誇るのさ。
眩い爆発の光が辺りを飲み込んでいき、衝撃の風と熱が吹き荒れている。
これがボクの持つ奥義魔法の一つ、ミーティア。異世界の知識より創造された衝突魔法さ。
ようやく辺りがいつもの授業用の異空間に戻った頃、周りにいるのは泣き叫ぶ子供たち、呆けているアダムス、拍手してはしゃいでるイザベラ。
立ちこもって来るのは子供たちが失禁した匂いみたい。
――うん、やっちゃったね。
「あぶない魔法を作るんじゃないよ! このすっとこどっこいがっ!」
「今度この魔法を使ったら魔王様に言いつけますからね!」
ボクはいま、メリルとマーガレットから厳しい折檻を受けてる。
こんな魔法でも魔王様を倒すことができない。
だからボクは勇者を育てるんだ。
お疲れさまでした。




