説話132 元魔将軍は元悪役令嬢とお出かけする
今日の寮はガラガラさ、子供たちはみんな出かけてて誰もいないんだ。
年長組はメリルの引率で森の遊園地もとい、森のダンジョンへ五日間の遠征に出かけてる。
以前からルシェファーレには言ってあるからさ、メリルたちが着いた時にダンジョンの構造を遠征用に変えてくれるだろう。
ほかの子供はマーガレットとセクメトとアダムスに連れられて、暗黒の森林へ一泊二日の林間学校ってやつへお出かけした。
デューさんたちの護衛もついているから、危険はまったくないと安心できるね。こういう楽しい思い出はたくさん作っておくべきと思うね。
魔王様に連れられて、ガルスとメリルとボクは征服という名の観光に楽しい時をいっぱい過ごしてきたんだから。
だからね、迷宮都市ラーゼンバルク以来、久しぶりにペットと二人きりなんだ。
「スルトちゃん、ワタクシは暇ですのよ」
「それ、ボクのせいじゃないよね?」
「いいえ、スルトちゃんはワタクシに養われてますの。
ワタクシを楽しませてくれるという義務をスルトちゃんは負ってますのよ」
「え? そうなの?」
あれれ? 未だにイザベラはボクを養っている感覚なんだ。
これはいけないね。ペットの教育も飼い主の責任だから、ボクがしっかりと教えてあげないといけないね。
よしっ、このペットをどうしてくれようか。
「イザベラはなにかしたいことあるの?」
「できればですけどね。ワタクシ、子供の時に住んでいたメリカルス伯爵領……
いいえ、元メリカルス伯爵領を見に行きたいですわ」
「いいよ。連れて行ってあげようか?」
「え? ここからだとすごく遠いですのよ?
子供たちの授業がありますから、そんな長い間ここを離れることがでませんわ。
ワタクシはただ言ってみただけですの……」
うんうん、イザベラはちゃんと子供のことを考えているんだね? ご主人様として鼻が高いよ。
それにそんな寂しい顔をしないでよ、きみのご主人様はだれだと思っているの?
元とは言え、魔王軍序列三位の魔将軍して通り名は地獄の水先案内人のアーウェ・スルトだよ?
きみが望むなら魔王領以外に行きたいところがあればどこでも連れて行ってあげるよ。
「おいで、イザベラ。
きみが住んでいたところに連れて行ってあげるさ」
「え?」
ボクの飛空魔法を甘く見ないでよ、イザベラ。
使う魔法量に応じてボクの飛行速度が変わるから、元メリカルス伯爵領なんて、あっという間に着くのさ。
ところでさあ、元メリカルス伯爵領はどこにあるかな? それだけは教えてね、イザベラ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ボクはただ立っているだけ。
すでに人が住んでいない廃村の広場で、大泣きするペットを見ているだけ。
そこら中に燃えて崩れた家、あっちこっちに散乱している白骨。なにが起きたかはもう、想像しなくてもいいよね。
イザベラは泣き続けているから、ボクも待ち続けるだけでいい。
ペットが泣き止むまではご主人様として見守ってあげることが義務なんだよね、勇者のヨシタニ。
お疲れさまでした。




