説話130 元同僚女はすぐに馴染む
疾風迅雷の妖光将と呼ばれるナシアース・メリルは、その名に雷系魔法の迅雷魔法がついてるのはわけがあるんだ。
メリルが戦闘移動時に最大速度に達すると迅雷魔法が勝手に起動するのさ。
彼女にその意識はなく、出るものは出ちゃうって笑うけど、敵対する側にしたらたまったものじゃないのよね。
なんせ、雷系魔法は麻痺がついてくるのでとても厄介なのさ。
魔王軍が魔王領を征服してからでも、最初は各地で反乱が多発したんだ。
服従を良しとしない魔族なんてそれこそわんさかといたからね、そのほとんどを鎮圧させたのがメリル。彼女は魔将三人衆の中でも、移動の速度はもっとも速かったんだ。
反乱する勢力によって捕らわれた魔族も沢山いて、それらを救出した彼女に魔王様は最大級の称賛を送ったのさ。
もちろん、ガルスとボクもそう思った。
それ以来、魔王領の巡回はメリルが一任した。
今では彼女を慕う魔族たちに会いに行くみたいな慣例ができ上がってしまった。そもそも平和な魔王領で反乱を企む輩を見つけることのほうが難しいんだよ。
そのメリルは今、すでに子供たちと戯れてるね。
これねえ、メリルの良さの一つでもあるのよね。
彼女はだれとでもすぐに仲良くなれるんだ。
「ほーら、お姉さんにそれを投げてみて」
「はーい」
『ほっほ、軽く投げるのじゃぞ』
ほっほ軽く投げるじゃぞじゃないよ、アダムスは。
なに嬉々と玩具の毛玉役を務めているのさ。昨日もほかの毛玉に嫉妬して隠そうとしたよね? それで散々マーガレットに怒られたんだから、まったく懲りない爺さんだよ。
「今夜はねえ、お姉さんが自慢の料理をみんなに食べさせちゃうぞ!」
「やったあ!」
「それは愉しみですわよ。オホホホ」
子供たちに囲まれているメリルは柔らかい笑みを浮かべていて、懐いてくる子供たちの頭を撫でている。
ボクのことになると面倒な性格なんだけど、魔王軍一を誇るその人望は遺憾なく発揮しているのよね。
それとイザベラ、なんできみまで子供たちに交えて、メリルから頭を撫でてもらってるのさ。飼い主を切り替えるつもりなら、ボクは大歓迎してあげるからね? どうぞ遠慮なくいつでも行っちゃいなさい。
「マーガレット、ご飯を作る時は手伝ってね」
「はい、畏まりました、メリル様」
よかったね、子供たちよ。
魔王軍が誇る二大料理人がきみたちの夕食を作ってくれるってさ。こんなの滅多にないからね? 魔王軍の幹部であっても食べていないやつが多いのさ。
美食に満足した子供たちが寝静まった後、居間ではボクとメリルだけがテーブルについた。
今日だけは、セクメトも自分の部屋で読書に耽ってるし、マーガレットはイザベラの腕を掴んでから、早々とここから退散した。
「一つだけ聞くね。
マーガレットからも聞いたけど魔王様を倒すつもり?」
「そうだよ」
まあ、食事の時に将来の夢はと聞かれたアールバッツたちが勇者になりたいって答えたからさ。
ボクもメリルに隠すつもりなんてないし。
「そう、わかったわ」
「うん」
太古の時代に魔王様と戦ったことがあるボクたちは知っている。魔王様を倒す術は当時のボクたちにはになに一つなかった。だから、魔王様に降ることで少なくても彼女を戦いから遠ざけることができる。
当時はそれだけよかったんだ。
だが、今のボクには魔王様を倒すきっかけを作ることができる。それが勇者養育計画さ。
あとは子供たちに勇者としての最高な技術をつぎ込んでいくだけで、これでやっと五分五分の勝負に持ち込める。
そのくらい、魔王様は恐ろしい。
ボクに計画があるのならメリルはなにも言ってこない。ボクたちは以心伝心できるほど、長い時を一緒に過ごしてきたからね。
「手伝ってほしいは言ってちょうだい」
「頼りにしてるよ」
「じゃあ、先に休むね」
「うん、ゆっくり休んでね」
メリルは自分に割り当てられた部屋へ向かった。ボクも顔を洗ったら、今夜は眠るとしよう。
「ねえ、マーガレットもイザベラもセクメトもそれは慣例になってるのは知ってるけど、メリルはいきなりなに参戦してるの?」
ベッドの上でもうそれは脱いでって言いたくなるくらいのスケスケの薄い寝間着を着たマーガレットとイザベラとセクメトとメリルが寝そべっていた。
いつも思うけどボクのフカフカ布団はどこに隠したのかな?
「さあ、いらっしゃい坊や……
ねえメリル、こういう言い方でよろしいですの?」
「スルト様あ、新刊ちょーだいぃ」
「今日はあたしがちゃんと大人にしてあげるからね? スルト」
「メリル様、お頭に気を付けて」
スタスタスタ……スパンッスパンッスパンッバシッ
「ふふふ、甘いわね。スルト」
「くっ……」
ほかの三人が頭を抱える中、ボクの打つハリセンをメリルは自前のハリセンで素早く受け止めて、今の二人が激しくハリセンで競り合っている。
さすがは疾風迅雷の妖光将メリルといった所だけど……
――技の使いどころが間違っているよね、これ。
お疲れさまでした。




