説話127 元魔将軍は森で魔族を拾う
暗黒の森林は一人で歩いていて気持ちがいいね。
木漏れ日が降り注ぐ中、魔王領のことを思い出させてくれるんだ。よくこんな景色の中で魔王様と一緒に歩いて、ボクたち魔将三人衆はその後ろについて行ったね。
懐かしいなあ、魔王様は元気かな? ちゃんとご飯は食べてるのかな。
今日は森に住む魔族たちと話し合いをしに行ったんだ。
もしかして人がボクたちの近くで住むかもしれないことを、ちゃんと先に言ってあげないとね。いきなり森の中に人が現れたら魔族たちもびっくりするのでしょう。
こういうのはね、事前協議が大事だと賢者のヨシダは言ってたよ。
本当、ヨシダは歴代の賢者の中でももっとも賢かったと思うね。
ちゃんと刺して帰しちゃったけど、どうもボクが魔族だってことはとっくにヨシダにはバレてたみたい。魔王様と対峙した時でもずっと後ろのほうへ注意はしてたからね、ヨシダは。
魔族たちからお願いがあったんだ。
森の魔族は紛争が絶えないため、ボクにこの森の魔族を取りまとめてほしいってさ。それは勇者養育計画があるから断ったけど、アラクネのアリシアにこの森の族長として推薦したのさ。
彼女はとても強そうだし、話し方も物腰柔らかいし、アダムスから人間の言葉も教えてもらっているし、きっと適任だと思うのよね。
どうやらボクが推薦したからということで、アラクネのアリシアが森の族長になることが決まったんだ。よかったよかった。たまにはどうすればいいのかは教えに来ることを約束したさ。
さてと、遅くなったらマーガレットがうるさいから帰ろう。今日はイザベラにご飯をあげる日だね、遅れたらまた泣かれちゃうよ。
目の前に死にかけのアルラウネの子供がいるね。
魔力が切れかけて人化の変化も解けて、身体中に虫が湧いているよ。
魔族はね、誕生したての頃が一番死にやすい。自分を守る力がまだないから。この子はたぶん、森を彷徨ううちにこの光が当たらない薄暗い場所に来てしまって、太陽の光が当たらないから魔力を生成することができなくなったと思うんだ。
アルラウネは成体になれば別に太陽の光がなくても大丈夫けど、子供のうちはそれが必要なのさ。
この子はもうすぐ死ぬだろう。
それでも最後の力を振り絞るように、遠くある日がさすところへいこうとして、懸命に細い枝を伸ばそうとしているんだ。
――そうか、生きていたいんだね。じゃあ、生かしてあげるよ? ボクが。
まずは虫の駆除。えいっ、消えちゃえ。
次は生命力を回復させるために魔力の注入さ。えいっ!
よしっ、人型に戻って、スヤスヤと寝ているようだね。これなら心配はないはずさ。
――頑張ってね? アルラウネちゃん、じゃっ。
森の中に毒消し草が生えているのよね。
ポーションだけじゃなくて、新商品を開発しないとお客様が飽きてくるって、戦士のウエハラが言ってたね。毒消しポーションというのはいかがかな?
回復が出来て毒も消せる。うん、これで開発してみようかな。
――その前に。
「どこまで付いてくるのかな?」
「……」
先のアルラウネちゃんがボクから少し離れたところで立っている。ちゃんと後ろについてきてることは知ってたよ?
どうしたいのかが知りたかったからさ、好きにさせておいただけ。
「ボクになんの用かな?」
「……助けてくれてありがとう」
「それはいいよ。たまたま通ったらきみがそこにいた、助けてあげられるから助けたさ。通ってなかったらきみはそのまま死ぬだけ。
だからきみには運があったんだ、それはボクの力じゃないからね」
「……」
じゃあ、この子をそのままにして、毒消し草を摘みながら帰ろうかな? 毒消し草用の畑も作らないとね。
「ねえ、また付いてくるの?」
「……」
アルラウネちゃんはずっとボクの後で歩いてくるんだ。
ちょっと早足で歩いてみたけどね、こけても泣きながら懸命に立ち上がって、ボクから離されないように走って来るのよね。
「じゃあ、一緒に来る?」
「うん!」
――あ、笑った。ミールたちみたいに可愛いね。
「でもね、ボクと来ると勇者になって魔王と戦うんだよ?」
「一緒に行っていいならたたかう」
「じゃ、一緒に行こう」
「うん!」
「きみの名前は?」
「お名前、ないの……」
アルラウネちゃんは泣きそうになったよ。
生まれたての時に親が見捨てたか、親が殺されたかだね。だから名前を付けられていない。
「じゃあ……今日から名前はアウネ」
「うんっ! アタシはアウネ!」
アウネと名付けたアルラウネちゃんは、すごく嬉しそうに小さな手でボクの手を掴んでくるんだ。
――さて、帰ってマーガレットをびっくりさせようかな。
お疲れさまでした。




