説話125 行商人は家を欲しがる
勇教園が運営されてから数ヶ月がたち、今や子供たちも日々の生活に慣れてきた。
アールバッツたちは戦士組とよく組んで狩猟に行ってるんだ。ボクからの食事提供は毎月に一回となったのはマーガレットの発案、なんでも子供に贅沢を覚えさせてはダメとのことでボクからの異論はなかった。
でもねえ、イザベラがねえ、ボクが出すものが食べれなくて泣いていたよねえ。
まあ、ペットには飼い主としての責任はあるから、イザベラだけは週に一回は食べさせているんだ。腹回りが太くなってきたら、いつも森の遊園地へ遊びに連れて行ってるから問題ない。
エリックたちは一月に一回はこっちに来てる、ポーションの補充のためにね。
最初に戻ってきた時は面白かったのよねえ。五つの倉庫に積まれているポーションに、ベアトリスは大興奮でエリックが硬直してたね。その時にユナが言うには襲ってきた盗賊やエリックたちを嫉んだ悪徳商人もいたらしいが、全部ユナが退治したらしい。
よかったよ。ユナを強化したのはやはり正解だったんだ。
今は食堂のほうでお茶を飲んで話をしてるだけどさ、エリックたちが五人の獣人の子供を連れてきてくれたんだ。
なんでも盗賊に襲われた獣人の集落で見つけてきたらしい。
「ごめんなさいね。この頃はスルト様のお蔭様でわたしたち夫婦もお金には困らなくなりましたが、まだどこで落ち着こうかと迷っているんです。
わたしたちみたいな行商人は街から街へと全然落ち着きませんから、この子たちを引き取ってもまともな生活をさせてあげられそうにありません。
本当はどこかで居を構えたいですけどね」
「ボクはいいよ……
ねえ、きみたち、ここで暮らす気はないか?」
ボクが声をかけてみると、フォックス族である銀色の髪した子供たちがベアトリスの後ろに隠れてしまったね。
まあ、知らない人は怖いのでしょうね。
「やあ、こんにちは」
食堂で、エリックたちと話していたボクの横にいたアールバッツが、優しい声音でフォックス族の子供たちに声をかけた。
「……こ、こんにちは」
消え入るような声だが、フォックス族の子供たちはアールバッツにちゃんと挨拶を返した。
「ねえ、ここにいてもつまらないでしょう?
良かったらぼくらと毛玉で遊ばないか?」
毛玉というのはアダムスのことじゃないよ。
前にエリックたちがフィーリたちのために買ってきた玩具のことさ。それを見たときにボクも納得したんだ、なるほどこれはアダムスそのものだと。
フォックス族の子供たちはコクッと頷いてから、アールバッツのほうにおずおずと近付いていく。そんなフォックス族の子供たちを、アールバッツはその歩調に合わせながら食堂から出て、居間のほうに連れて行った。
そこからミールとクームの声も聞こえたので、きっと子供たちは仲良く遊んでくれると思うんだ。
アールバッツもさあ、勇者になりたいと言ってから自覚というか、本当にみんなの良き兄貴分になったのよね。なんだかガルスみたいだね。この二人は合わせてやりたかったなあ。まあ、無理だけど。
だって、ガルスは魔王軍の序列一位の最高幹部。魔王領から出られるはずがないさ。
「スルト様、宜しければ私どもをここで休ませてまらえないでしょうか?
いやあ、長旅で疲れてしまいまして、馬車で寝るのはちょっと遠慮したいものですな」
「ユナもね、ここでみんなとお遊びしたい」
エリックから宿泊のご要望がきた。ユナも羨ましそうに居間のほうに目をやってるよ。
まあ、こういう時のために部屋は多めに作っておいたんだ。全然かまわないさ。
「いいよ、あとでマーガレットに部屋へ案内させるね。それより」
「はい? ほかに何か御用がありますか?」
エリックとベアトリスがボクの言葉に反応して、二人して顔を向けてくる。
「先ね、ベアトリスはどこかで住みつきたいって言ったけど。ここにするつもりはないかな?
家くらいならすぐに建ててあげるけど」
「ご迷惑でなければそれで宜しくお願い致します。
できれば一階は店舗にして、二階を家にしてほしいです。それで立派な倉庫も作ってほしいです。あとはわたし個人はスルト様ほどじゃないけど薬草学を研究しております。お花を植えたいので、薬草とお花の畑もついでにお願いしたいです。」
「お、あ、うん……作ってあげるね」
「ありがとうございます。あ、あとは家のほうに露台なんかあると日向ぼっこができていいですわね」
「はい……」
猛烈な勢いで即答したベアトリスは、横で引きまくるエリックとユナを置き去りにして、ボクに自分の要望をまくし立ててきた。
――それは別にいいんだけど目が怖いよ、ベアトリスさん。
お疲れさまでした。




