説話123 森の賢者は神話を語る
今日の授業はアダムス先生の神学だけなんだ。神々を敬うのにその歴史を知らなければ間違った方向で邪神にお祈りを捧げてしまうのよねえ。
――まあ、うそだけどね。
この世界に邪神なんてものはいないのさ、あるとすればそれは男神のやつだ。
『この世界は今はお姿をお隠しになられた男神フレー様と女神フレーア、それに名が失われた暗黒神様によって創り出されたと言われておるじゃ。
その折に世界に住む様々な生き物が創り出され、神々は我ら生き物にに生きる源となる生命力、生きる知恵となる魔力、生きる術となる技能力を授けてくれたのだ』
神々の像が神々しく輝く神堂の中でアダムスによる神話の解説が始まったんだ。子供たちは耳を傾けて、真面目にその話を聞いている。
『神々は我らが大地に住み着いたことを見届けると、まずは暗黒神様が暗闇の中に御身をお隠しされたと言われておる。
どこにいるのかは誰も知らぬのだが、人々が生きているときの善い行いをしていたら、その死後に暗黒神様がその魂を慈しんで、再び生を受けられるのじゃ。
生きてるときに悪い行いばかりしていたら暗黒神様がその魂を捕らえて、苦しい罰を受ける地獄に送られるのじゃ!』
子供たちは地獄という言葉にビクッと身体を震わせているよ。あはは、可愛いね。
『男神フレー様と女神フレーア様は天界という神が住まわれる場所から我ら全ての種族を見守り、生みの親のように恩恵を授けてくださるのじゃ。
たとえその御身がお隠しになられても、心を込めてお祈りすれば男神様と女神様は変わらずの愛を我らに降り注いでおる』
まあねえ。お隠しになって、行方がわからなくなったとは言え、男神と女神の神力は今でもこの地上にあるのよね。
だから聖剣は輝きを放つし、呼ばれしのオーブと送還のナイフは今でも使えるんだ。
『男神フレー様と女神フレーア様は我ら全ての種族を愛して下さった。
だが男神フレー様は特に人間を偏愛し、太古の時代にその神力は人間に多く振舞われたと言われておるのじゃ。
等しく愛を分け与えることをしない男神様に、そのことで嘆き悲しんだ女神フレーア様は、御身を暗闇の中にお隠しになられてからその行方は今でもわかっておらぬ』
「……」
『男神様は女神様がいなくなったことに驚き、世界中をお探しになられたがその時に今の魔王領で出会ったのが魔王だ。
男神様は魔王の恐ろしさに全ての種族が脅かされるとお考えされ、魔王と天地を揺るがす戦いを幾度なく繰り広げられたと言われておるのじゃ』
なるほど、さすがは自称森の賢者であって、アダムスの持つ神話の知識はかなり正しいだね。
『だが、神の御力もってとしても男神様は魔王を倒すに至らず。その戦いで天が裂き、大地が割れ、これ以上の戦いは全ての種族に被害が及ぶとお考えになられた男神様は魔王領より離れられ、人間に魔王の打倒を託したのじゃ。
その時にお作りになられたのが聖剣であり、神の御力である聖剣を手にした魔王を討伐する人間が勇者であるのじゃ』
今の人間が作っているのはミスリル製の偽物さ。
転移勇者たちが持つ偽聖剣はボクの異空間に沢山あるよ? だって、魔王領から出られなかったし、わざわざ返しに行くのって面倒なのよねえ。
『しかし、幾度も送られる人間の勇者は魔王軍によって退けられたのじゃ。
魔王軍には魔将三人衆という恐ろしい魔族がいて、そいつらが魔王の討伐に向かう勇者たちを撃退したと言われておる』
アダムスはチラッとボクのほうを見てきた。
いまわかったことなんだけどさ、アダムスがボクの名乗りを聞いて、平伏したのはその歴史を知ってたからなんだね。でもね、ボクたちに勝てない勇者なんて、魔王様に勝てるはずもないよ。
『そのうちに人間から勇者が出なくなり、男神様は力無き人間を憐れんで、違う世界から素晴らしい力を持つ人間を呼び出せる、神の憐みと言われる呼ばれしのオーブを人間にくださったのじゃ。
男神様は人間に神の憐みを下された後に、女神様と同じように御身を暗闇にお隠しになられたと言われておる』
なにが神の憐みだよ、拉致監禁の元凶ってやつじゃないか。
お疲れさまでした。




