説話121 勇者候補は園生を代表する
「おはようございます! スルト園長!」
「はい、おはよう」
勇教園が始まって、今日が初日になるんだ。あとは体育館というところに集まって、みんなに挨拶するだけさ。
子供たちは新しく作った勇教園の制服を着用して、元気よくボクに朝の挨拶を交わしながら自分の教室に行く。
「ギャーはよギャー」
「レイミーたちもおはよう」
ちょっとずつではあるが、ゴブリンの子供たちは人間の言葉を学び始めている。
ゴブリンたちの先生になったのはアールバッツ、コンラッド、エルネスト、フィーリにオリアナたちさ。偏見を持たないで根気よく教える子供たちが魔族と仲良くなっていくその姿に、ボクは心が和んでることを感じていんだ。
いつの日か、全ての種族が分け隔てなく生きていけるといいなあ。
さて、そろそろ始業式ってやつを始めるか。
「えんちょー、はよーです」
「はよーなの」
「おや? お寝坊さんはどうしたのかな?」
まだな眠たそうな目をこすりながらミールとエリアスが新調した制服を着て、マーガレットに連れられてきた。
「おはようございます、スルト様。
申し訳ございません。この子たちが起きられなくて」
「いいよ、別に。
それよりも体育館に連れて行ってあげなさい。みんなが待っているはずだからね」
マーガレットが二人を抱きかかえると、早足で体育館のほうへ急いだんだ。
――ボクも行こうっと。
体育館が静まる中、子供たちがステージの上にいるボクたちを見上げてる。アールバッツが子供たちを代表して、これから演台で式辞を発表する。ここは温かく見守ってやらないとね。
しかし、ちょっとアールバッツが困惑そうな顔でメモ書きを見ているよ?
どうしたのかな。昨夜はあんなに遅くまで考え込んで書きあげたのに。
「え、えっと……我々は、誠心誠意を持ってスルト様に身命を捧げて――」
「はい、そこまで――違うよね」
アールバッツが助けを求める目でボクを見るから、ボクはサッとマーガレットのほうに鋭い視線を送り込んだ。
マーガレットはパッと顔を背けたが、彼女から紙切れ一枚を受け取ったセクメトがアールバッツのほうに手渡してあげた。
ホッとしたアールバッツはメモを見ながら自信を持って語り始める。
――マーガレット、あとでお説教だからね。
「ぼくたちはこの勇者パーティ教育学園で学問を学ぶこととなりました。
勇者というのは、魔王を倒すことを目的としています。しかし、その技能を学ぶとともにぼくたちはこの世界の人々が幸せになれるように、剣術や魔法はもちろんのこと、世の中の役立つような学問をしっかりと身に付くように学習していきたいと思います。
先生たちから色々と教えもらい、時にはお叱りを受けることと思いますが、ぼくたちはそれに応えられるように頑張っていきたいと思います。
園生代表、勇者候補アールバッツ」
子供たちから割れんばかりの拍手を受けたアールバッツは、ボクたち先生が座る席にに一礼してから自分の席へと戻っていく。
次はボク、一応はこの勇者パーティ教育学園の最高責任者である園長だからね。
勇者のことはすでに子供たちには伝えたから、ここは手短に済ませようと思うんだ。
「みんな、おはよう。
みんなに魔王の打倒を託したいためにこの勇者パーティ教育学園で学んでもらうことにしたんだ。
でも、それだけじゃないさ。死ぬためじゃなくて生きていくために、この学園で必要な技能をきみたちにしっかりと身に着けてほしい。
そして、人々を導くんだ。世界に無数の可能性が秘められていることを全ての種族に知らせてやってほしい」
「……」
「ここ勇者パーティ教育学園はそんなきみたちを育て上げるためにある場所。
ボクたちはきみたちに生きることをしっかりと学んでほしい。
以上だよ」
子供たちの拍手の中、ボクは自分の席に着いた。
この次は是非自分が話したいと言った森の賢者であるアダムスが演台の上に乗る。
『ウオッホン……
諸君! 思えば長い道のりであった。あれはわしがまだ妖精として意識を持ち始めた頃だ。
この世界はどうもおかしい。なにがおかしいことはまずはだな……』
――あ、これダメなやつだね。
魔王軍でもたまにはこういう演説し出したら止まらないやつがいるのよね。ボクは素早くイザベラのほうに目配りする。
ボクからの合図を受けたイザベラは、大喜びしてアダムスのそばまで忍び足で接近。
『そこで若きわしは思ったんだ……へ?』
「ケダマン、遊びましょうね? えいっ!」
――ドカンッ
『グハッ』
――よーし、ペットのナイスアシストってやつだよ。
それはそうとぐったりしてるアダムスに回復の魔法でもかけに行くか。
お疲れさまでした。




