説話120 元魔将軍は名前を悩む
バルクスたちゴブリンの子供たちはアールバッツがよく面倒を見てくれてるのよね。
アールバッツもさあ、ボクに勇者になりたいと言ってから意識が高くなった。なんていうかな? みんなに率先して色々とやってくれるのさ。
――その姿に勇者のヌマダを思い出すねっ!
まあ、ヌマダは勇者としては弱かったけどね。
それはそれとしてアダムスが来た日に正式な授業をしようと思っただけどさ、結局その後は女の子たちが、毛玉遊びでアダムスと楽しく遊んだからうやむやになっちゃったんだ。
イザベラもうずうずしてたけど、アダムスと子供たちが打ち解けるためにボクはペットを取り押さえたのよね。
それはいいとして、明日はアダムスに来てもらうことにした。正式な授業をするためにね。それに当たって思うことはあるのよね。
「名前をどうしようかなあ?」
「なんの名前でございますか?」
子供たちが昼寝して、静かな食堂でマーガレットがボクとイザベラにお茶を入れてくれた。この頃はこういう習慣もつけているのさ。お茶を飲むと考え事がなぜか進むのよね。
「うん。あっちの世界じゃ、学問を学ぶ場所を学校と呼んでいるらしいけど、小学校とか中学校とか高校とか、色々と名前があって面倒なのよね」
「あら、それでしたら王立勇者育成学院なんてのはいかがなのかしら。」
「却下。大体、王立ってなんだよ。
だいたいだれだよその王様ってのは」
「あら、そうですわね。ワタクシとしたことが。
オホホホ」
本当、ペットはお気楽でいいよな。
「あたくしにいい案があります……
スルト様は勇者を育てるために日々努力してスルト様は侍女のマーガレットと子作りに励みながらスルト様が学問を子供たちに教えていくためのそういう場所。
――というのはいかがでございますか?」
「どういう場所だよそれ。長いよ、長い上になんでボクとマーガレットが子作りに励むのさ。勇者の教育とまったく関係ないよね?
しかもなんでボクの名前が三回もそこに入ってるんだ。」
「お気に召されなくて残念でございます」
「しっかりしてよマーガレット。
これでも一応ボクは真面目に考えいるからね」
あーもう。この子らはボクの邪魔しか考えていないのかな。
「魔族が聖女を育てて魔王を倒しちゃうよ? ~聖女と侍女とペットと美しい不死者とエッチで戯れて、ボクだけのワイワイハーレム~。
そういうのはどうかなあ?」
「それだとラノベのタイトルになっちゃうよね? 学校も育成もまったく関係ないよね?
それに勇者はどこへ行ったのさ、聖女だけで魔王様は倒せないよ。
あとハーレムってなに? そんなものは作らないっ! 断固反対するよボク。
だいたいね、タイトルのネーミングセンスが最悪だよ」
「だってえ、早く新作を出さないからスルト様が悪いのよお」
「わかったよ、出してあげるからセクメトは黙っててよ」
ソファーの上で寝転がってるセクメトにボクは異空間から書き上げた最新作を放り投げると、やつは嬉々としてそれを読み始めたんだ。
ダンジョンの奥底で待っている読者もいるから、ボクもこの頃は時間があるときにまた書き始めたんだ。
「幼稚園? ダメだね。あれは幼児が通うところって言ってたもんね。
大学? これも違うみたいのよねえ。エリアスも行くからさあ、四才児が通う大学って、彼女が天才児になっちゃうよ。うーん。」
「スルトちゃん、国立戦闘魔法学問技能習得学院は――」
「はいはい、却下。国じゃないからダメ」
「あたくしに別の案がございます。
スルト様のスルト様によるスルト様のための学校というのは――」
「ボクだらけだね。しかもボクのための学校ってなんなの?
全然関係ないからダメ」
「ボクが魔王を倒すんだ! ~その前にハーレムを作っ――」
「セクメトもそれ以上なんか言ったら新作は見せないからね」
絶対にこの子らは面白がっているだけだよね。
これ以上この子らに口を出させるといい流れにはならないから、パッパッと決めちゃおう。
「勇者パーティ教育学園、略して勇教園。
はい、これで決定。異議は認めないよ」
フッと見ると彼女全員がボクのことを微笑んだ表情でボクを見てる。
――なーんだ、気にしてくれていたのか。言ってくれればいいのに、ありがたいことだね。うん。
「スルトちゃん、ここはやっぱりちゃんとお名前を入れたらほうがよろしくてよ。
こんなのどうかしら? バラの勇者とスミレの聖女育成イザベラ聖学院は――」
「はい、却下ねえ」
なんなのさその頭の悪そうな学校は。それに賢者と戦士はどうするんだ。
まったくもう、イザベラはやっぱりイザベラってことだよ。
お疲れさまでした。




