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説話116 勇者候補は森からやって来る

 ゴブリンファイター。それはゴブリンという弱い種族の中で極めて少ない特異種。


 長い時を生きてボクだって会った回数は十回を超えてない。太古の時代に人間の間ではゴブリンキングとか呼ばれているらしいけど、そんな種類のゴブリンはいない。特異種以外のゴブリンはゴブリンでしかない。


 ほかに珍しい特異種があるとすれば、それはゴブリンメイジくらいなもんさ。



 成長したゴブリンファイターはとにかく強い。


 オーガすら足下に及ばない強靭の肉体、ギガンテスを上回る持久力、ベヒーモスを受け止められる力強さを誇ってるのがゴブリンファイター。


 今はもう死んだけど、ボクと知り合いだった魔王軍の元東北方面軍のゴブリンファイターは一人でファイアドラゴンを殺したからね。鍛え上げられたゴブリンファイターは優れた天性の戦士であるんだ。


 もっとも、滅多にお目にかからないのはゴブリンファイターが弱い子供の時に死んじゃってる気もするけどね。



 それはさておき、目の前でゴブリンの子供たちはボクが出した料理をガツガツと食べてるよ。よっぽどお腹を空かしたのだろうね。まだまだあるからもっと食べなさいね。


 ――ん? うそ? そんなことってあるのかな?



「ちょっとごめんね」


『いやっ!』


『なにするんだ! レイミーを放せよ!』


 ボクは肉を食べているゴブリンの女の子の目を見たんだ。隣で子供ゴブリンファイターが木の枝で叩いても全然気にならないね。



 ちょっと待て? このレイミーと呼ばれているゴブリンの女の子はまさかのゴブリンメイジじゃないか。さすがにボクもびっくりだよ! ゴブリンファイターとゴブリンメイジというゴブリンの特異種が一度に集まるなんてありえないよ。



 そうだ。まずこの子たちに聞いてみよう。


「きみたち、勇者候補になる気はないかな?」


 ゴブリンの子供たちはボクの言葉で固まった。それは衝撃を受けたというより、なにを言ってるのかがわからないって顔だね。そりゃそうだよね。ボクもいきなりなにを言い出したんだ。



 でもね、ここで感じたのが天意。



 神意では魔王様は倒せない。


 すでに男神により魔王様を倒すための聖剣は作られているし、異世界より勇者の召喚という邪道ですら魔王様を倒すに至らない。だから神の意思だけでは魔王様を消滅させることはできないんだ。



 ボクは魔王軍を去り、特に行き先もなくただ人間側を見たかっただけの旅。旅の途中でイザベラを助け、アールバッツたちとめぐり会い、暗黒の森林でフィーリたちに出会った。ここに来てゴブリンファイターとゴブリンメイジの巡り合わせ。



 これはもう天が、世界そのものが魔王という存在を受け入れられないとしかボクには思えないんだ。



 そもそも、転移勇者の起因は魔王様にある。魔王様がいなければ男神もそういう手を使わないと思うとともに、あのなりふり構わない男神はこの地上にいないほうがいいことに気が付いた。



 ボクの勇者養育計画はこれまでの確信からゆるぎない自信に変わったさ。世界そのものがボクについてくるのならボクは必ず魔王様を倒す。それと同時に世界が変わっていけるようなきっかけを作っていきたい。勇者候補たちが人々を導けるような人材に育てる。


 このゴブリンたちと出会って、ボクは初めて感じる使命を手に入れたんだ。




「ねえ、きみたちの親はどこにいるのかな? できれば会って話をしたいんだ」


『親はいないよ。ほかのゴブリンの集団と戦って負けたからみんな死んだ。

 残っているのはオレら子供のゴブリンがここにいる9人だけだ』


「そうか……じゃあ、住む所と温かいご飯があるけど、きみたちは来てくれるかな?」


『……あんたは強そうだ。ご飯と寝る所があるなら行くよ』


 判断の速い子供だね、素質は感じる。先ほどレイミーは確かに彼のことをバルクスって呼んだのよね。



「バルクスって名前でいいのかい?」


『おう、オレはバルクスだ。そういうあんたは?』


「ボクの名はスルトだよ」


『スルトか、よろしくな』


 ボクは深夜の野菜畑でゴブリンファイターの子供と握手を交わした。


 バルクスとレイミー以外のゴブリンでは勇者候補になる才能はなさそうだね。たとえ勇者候補じゃなくても子供たちと一緒に勉強したり、色んな生活技能を学んだりして、子供たちと一緒に暮らしてもいいと思う。



お疲れさまでした。

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