説話115 魔将軍は泥棒を捕まえる
アールバッツの狩猟術はハッキリ言ってボクの上をいくものだね。
すでにマーガレット一緒に狩猟に同行している彼は気配の消し方、忍び足の使い方、解体の仕方など総合的にボクよりうまいと思うんだ。
今後はアールバッツを中心に暗黒の森林での狩りは彼に任せようとボクは考える。護衛役はデューさんたちにお願いするつもりさ。
明日になればアダムスが来る。
明日一日はアダムスと子供の親交を深めるように、食事会を準備するようにマーガレットに言付けてあるのさ。昨日狩ってきたワイルドボアもすでにマーガレットに渡したよ。
「スルト様、今は宜しいですか?」
「うん、なにかな」
マーガレットはボクに頭を一回だけちょこんと下げて、恭しく一礼してから両手をエプロンの前で揃えて、少しだけ困った顔で話しかけてくる。
「数日前から野菜の畑が誰かに荒らされています。
よろしければスルト様のほうで調べてもらえませんか?」
「ああ、それはいいけど。
そんなのマーガレットのほうですぐにできるじゃないかな?」
「いいえ。あたくしは夜のお勤めがございますので、お体を清潔にす――」
「ああ、夜にでも張り込んでおくよ。ボクに任せてね。
それと夜のお勤めはできれば今日で終わりということで頼むね」
変な方向に話が逸れないようにボクは早足で寮を出て、会社の倉庫でポーションの木箱を見てくることにした。
ポーションを見ていると気分が落ち着くのよね。早く売れないかなの期待感も楽しいしさあ。
売った代金のほうは財務担当のマーガレットに管理してもらってるからボクは知らないよ。
気配はどの生き物にしろ、生きてさえいればそれは自己主張しているかのように個体から発するものさ。
だから、気配を断つことは特に夜の戦闘で欠かせることのできない大事な技の一つであることは間違いないんだ。
なぜそんなことを言うのはボクは今、野菜畑の中で石像がごとく気配を全遮断して立っているからだよ。
こうして何もしないで立っていることは苦痛じゃない、長い間を生きてきたボクにはでもないことなんだ。
今は魔王軍序列二十五位のヴァンパイアであるアイケンバーガはこうして、やつの巣窟の前で三ヶ月ものあいだ立ち続けて、あいつがやっと外に出ようとした瞬間に仕留めたんだ。
仕留めたと言っても殺してないよ? ただ捕まえて魔法で囲んでやったのさ。なんだってあいつが逃げる時は霧となって消えるから。
だから森の中からごそごそとゴブリンの子供たちが現れてもボクはまだ動かないのさ。泥棒というのはねえ、犯行中に捕まえないとね。冤罪になっちゃ可哀そうと思うから。
――あ、いまゴブリンの子供が野菜を引き抜いたね。これは現行犯逮捕ってやつだね、行くか。
「ダメでしょう? 勝手に野菜を盗んじゃ」
『ひっ!』
『逃げろみんな! オレがこいつを引き止めるから!』
お? 見上げた根性があるゴブちゃんだね。そういう性格は嫌いじゃないよ。
でもね、逃がさないよ。
『ダメ、なんか当たって逃げられないわ、バルクス』
『くっ……食らえ!』
ほかのゴブリンの子供の前で身体を張ってるゴブリンの子供が太い枝でボクに殴りかかってきたんだ。
――いい根性だよね、褒めてあげたいよ。
だから、ボクは彼の腕を掴んださ。
「きみ……」
『放せよ、放せ!』
ゴブリンのを見たけどこれは珍しいどころじゃない。こんなところで会えるなんて奇跡ものだよ。
――このゴブリンの子供、ゴブリンファイターじゃないか!
お疲れさまでした。




