説話114 元魔将軍は狩りをする
暗黒の森林へ狩猟をするためにやってきたんだ。
今日の午前中はイザベラが聖女組の模擬授業をするために、フィーリたち女の子は出席しているはず。
セクメトは相変わらず居間のソファーでラノベを読みながらゴロゴロしていて、もうそこで寝ろとボクは言いたくなっちゃうね。
――マーガレットはって?
あの子は現在逃亡中だよ。たぶんだけど香辛料になる果実を採って来るとか、魚を獲って来るとかしてるじゃないかな。
ボクの食糧を出さずに食卓が豊かになっているのはあの子が頑張っている証拠だよ。
ボクについてきたのはアールバッツとエルネストにコンラッドという9才のエルフ族で勇者組。ダライアスは10才のドッグ族で戦士組。ギディオンは8才の人間で賢者組さ。
さらに後ろで遊びながらついてくるのはクームという男の子は5才のライオン族で戦士組。
いつものようにミールとエリアスが仲良く走ってる。それを見守ってるのは年齢不詳のデュラハンのデュー何号さんだね。
――おかしくないかな? 狩りに行くはずなのにデュー何号さんがなんでついて来ているんだ? それの前にミールたちには声をかけていないはずだが。
「ミール、エリアスとクーム。なにしているの?」
「ミールも行く」
「いくなの」
「ぼくはごえい!」
『わっはっは。クームは勇ましくてよろしいぞ。』
わっはっはじゃないし、勇ましいはこういう時に使うものじゃないよ。護衛する役に護衛がついてどうするのさ。
でもね、ボクも成長したよ? ここでミールを諭そうとすると必ず泣く。これはもうパターン化しているのね。
だからここはあえて何も言わずに連れて行く、それがいいよね。
狩猟をするときは気配を消す。
動物はとても敏感で、ちょっとでも殺気を発したのならすぐに逃げていくんだ。だからね、ボクとアールバッツたちが弓を構えていても、獲物となる動物がちっとも来てくれないんだ。
だって、デュー何号さんがね、先から後ろで剣を振り回しているからだよ。
『ミール、動くな!
そこにいる蚊を切り落とすぞ! ハッ!』
「ありがとう、デューさん」
『エリアス、じっとして。
ホッ! このアリめえ! エリアスに這いつこうと近寄るはなんたる不届き者』
「ありがとなの」
『クーム、足元に大きな枝があるぞ。
今切り払うからな。ハヤーッ!』
「デューさん、ありがとうな!」
『ハハハハ、拙者にお任せあれ』
デュー何号さんがね、両手の拳を腰に当てながらこれまた豪快そうに大声で笑ってるのね……
――ボクはね、狩りに来ているんだ! こう邪魔ばかりされたらいつまで経っても獲物が来ないじゃないか!
「デュー9号さん、ちょーっとこっちに来て」
『むむ。拙者はデュー16号だ。
まあ、確かにデュー9号とは似て――』
「もうそういうのはいいから、こっちに来てよ」
『むっ。ムッとする言い方だが……まあ、拙者は心は広いからいいだろう』
デュー16号はムッとするけどボクはムカッってなったの。
「あの子たちをほかの所へ遊びに連れて行ってくれないかな?」
『仲間外れは良くないぞ。行動するときはだな――』
「向こうにお花畑があるよ。デュー16号がミールたちを連れて行くと絶対に喜ぶと思うけどねえ。
――デュー16号はなんて素敵なのって」
『ミールぅ、エリアスぅ、クームぅ、あっちにお花畑があるよ。
素敵な拙者と向こうへお花を見に行こう!』
デュー16号がさっそくミールたちをお花畑のほうに連れて行ってくれようとしてるね。
――バカめ、デュラハンは昔からおだてに弱いのはボクも知ってるよ。
まあ、デュラハンに守られているミールたちも大丈夫だろうし。
さあ、狩りの再開だ。
せっかく来たのにワイルドボアくらいは狩って帰りたいものさ。
お疲れさまでした。




