説話112 天使は元魔将軍に共感する
「遠慮なく勇者候補たちをここに連れて来なさい。
あー、楽しみだなあ。なにを作ろうかなあ……
そうだ! ジェットコースターみたいなんてのはどうだろうか?」
「手加減してよ。
異世界のことはあんまり知られたくないのよね」
「はっはっは。心配性だな、スルト君。君らしくないじゃないか? もっと前みたいに無関心でいこう。
なんせ見るだけでは理解できるはずがないから、ワタシが作り出した物は人間や魔族では作り出せないよ。
はっはっはー」
「とにかくほどほどにね」
ルシェファーレに言われたことは、実はボクも自覚しているのさ。
太古の時代以来、ボクは自分から自発的に何かをすることがほとんどないんだ。
自覚を持って決めたことと言えば魔王様に降ること、男神側に付くフリすること、召喚勇者を帰還させること、そして魔王軍を退職したことくらいなんだ。
勇者養育に関連する計画はボクが意識を持つようになってから、自分で初めてなにかしようと決めたのよね。
それに子供たちと関わるようになってから、生き物を見下すような見方が無くなってきたのも知っているんだ。
でもね、どんなに考えても果たしてそれが自分にとっていいことか悪いことかが今でもわからない。
だからそれ以上は考えないようにしているの。
とにかく、ボクは勇者を育てる。魔王様を倒す。世界をあるべき姿に戻す。この三つが今のボクを支えていることだけは間違いないんだ。
たとえ、目の前にいるイザベラがキラキラした目で、ボクに食事をねだってきたとしても決意は変わらないんだ。
変わらないのだが、この二人が結合するとこんな破壊力になるとは思いもしなかったよ。
破壊されるのはボクの精神力なんだよね。これが。
「そうか! スルト君は美味な食べ物をたくさん所持しているのにケチケチして出さないのか!
それは頂けないなあ。なんならぜひワタシもご一緒したいものだな」
「そうですのよ。身体の成りも小さいですけれど、心まで小さいのはどうかなとワタクシも日頃常々思っておりますわ。
それはそうとダンジョンのジャンクフードというのは飽きましたわ。
スルトちゃん、なにか美味しいお食事を用意して下さること?」
「……」
ボク、バトルってやつをこいつらに挑んでもいいのかな?
元魔王軍序列三位の魔将軍して通り名は地獄の水先案内人である、このアーウェ・スルトの真の力を見せちゃうよ?
――はああ、疲れたよ。
もう帰ってポーションを作りたいから、エリックたちも早く帰ってこないかな。
それはともかく、アダムスにも会えたし、このダンジョンは子供たちを鍛えるのに最適だということがわかっただけで大豊作なんだよね。
「イザベラ、もう帰るよ?」
「あら、そうですの。
じゃあ、ワタクシは最後にもう一回だけ回ってきますわね。宜しいこと?」
「はいはい、行ってらっしゃい」
イザベラがあっという間にダンジョンの中へ消えた。
腹回りはスマートになって、だいぶ痩せてきたと思うんだ。これなら連れてきた甲斐があって本当によかったよ。
「ねえ、ルシェファーレ。
なんできみがこんな人知れずのダンジョンにいるのかな?」
これがボクの確認したかったこと。
なんで暗黒神が堕落したとは言え、天使をダンジョンボスにしたかを知りたかったんだ。
「はっはっは。勿論、暗黒神には散々と怒られたよ。
でもなあ、君が言ったことじゃないけど、ワタシもこんな世界を嘆かわしく思っているよ。だからここを見つけたときは嬉しかったのだよ。ここに引きこもりをやろうとな。
暗黒神は結局ワタシの美しい土下座に根負けして、元いた部下のダンジョンボスを連れて帰って、ここをワタシの住処にしてくれたのだ。
はっはっはー」
「ああ、そうかい」
それは暗黒神もさぞかし困ったんだろうね。
天使に土下座でもされたらボクもどうしたらいいかわかんないよね。
しかも天界の一角であるルシェファーレにだよ? ボクでも承諾するしかないのよね。
「世界を正したい君の思いにワタシは共感する。
しかも勇者を育てることに正道を見出す。素晴らしいことじゃないか。
スルト君、ワタシにできることがあればなんでも言いたまえ。
神々が望んでいた地上の楽園を全ての種族が手を携えて、築き上げるための道を示してやろうじゃないか」
「ありがとう、ルシェファーレ」
堕落の天使ルシェファーレの言葉はボクの心を軽くさせてくれる。やはり太古の時代から神々を知る者は見てるところはほかと違うよね。
――だけどね! それがラノベを笑いながら見てるときの言葉じゃなかったら、ボクももっと感動できたのに。
この天界を代表するノウタリンバカ自堕落天使が!
お疲れさまでした。




