説話110 元魔将軍は森のダンジョンを行く
案内をしてくれたオーガさんが逃げ去るようにボクとイザベラから離れていくけれど、その気持ちはよくわかる。
だれだっていきなり襲われたらそりゃ怖いよね。
――オーガに襲いかかったのはだれがって? そりゃイザベラしかいないじゃないか。
彼女はオーガを見るなり、トンファーを持って空を舞い上がったのさ。唖然と突っ立ててるだけのオーガさんの頭を守るため、ボクは手でトンファーを受け止めたんだ。
このペットはきっとダンジョンモンスターと魔族の見分けることができないのよね。トホホ
暗黒の森林にあるこのダンジョンは入り口からしておかしい。
「ようこそ森の迷宮へ! きっと素晴らしいアトラクションがあなたの御来訪をお待ちしておりますって……
なんですのこれ? どういうことなのかしら、スルトちゃん」
「……」
入り口に掲げられてる看板は魔法で虹色で光っていて、描かれている笑顔がいっぱいの翼が生やした人物にボクは見覚えがあるんだよね。
なんか一気にテンションってやつが下がってきたんだけどこれどうしよう。
まあでも、ダンジョンは暗黒神の管轄なんだ。
いくらあいつとは言え、好き勝手にはできないはず、ここはダンジョンを下りていくべきさ。
「行くよ、イザベラ。用意はいいのかな?」
「いつでもお好きにかかってきなさいな! スルトちゃん!」
――いや、トンファーを構えるその姿はさまになるんだけどさあ、ボクと戦ってどうするんだよこのペットは。
もうね、なんでみんなしてボクのやる気を削ぐのがよくわかんないよ。ここに移り住んでから、本当に愉快にして滑稽な日々を送ってるような気がするのよねえ。
よしっ、ダンジョン探索はペットだけに任さないでボクも久々に本気を出そう!
「魔装変化っ!」
ボクは戦うに当たって、魔力で流動体防具を作ることができるのさ。
魔法攻撃は通らないし、これに斬り込もうと思ったら、神の剣と言われるオリハルコンの剣を持ってくるべきだね。
この魔装はボクが自慢する最強の防御さ。
「スルトちゃん。それは洗ったほうがいいですわよ?
汚れがいっぱいついてるみたいで、とても汚らしいですわ」
「……」
――はい。ペットからボクが自慢する魔装にダメ出しが出ましたね。
あのね! 魔法を極限に上げたら灰色になるのっ! そんなことも知らないの? このペットは!
……はあ、知らないでしょうね。きっと。
まあいいや。イザベラのいうことを気にしてたら、トウフってやつのかどに頭ぶつけて死んだらほうが早いや。
トウフってなにかは知らないけど、たぶん転移勇者のだれかが言った言葉と思う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
——おかしい。なにがおかしいって聞かれれば、もうこのダンジョンの全てがおかしいよ。
動く床に踏んだら違う場所に飛ばされる転移陣。それに振り出しだよってなんだよ。いきなり入口まで飛ばすんじゃないよ。
ダンジョンの宝箱を開けてみれば、大きく書かれているハズレだよ残念だねというくだらない落書き。
ダンジョンモンスターもちゃんと出たよ? でもね、なにあれ。
魔法使いであるネクロマンサーがなぜ格闘技で接近戦を挑んできたのさ。
――死霊を呼べよ! 暗黒魔法を使えよ! しかもイザベラに一撃で消される弱さじゃないか、ええ?
これはもうね、こんなくだらないことを考えるのはあいつしかいないからね。
「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております」
「中々美味しかったですわよ。また来ますわね」
ダンジョンの中の売店で軽食中、ハンバーガーショップという名のね。
グールの店員さんは愛想よくハンバーガーとポテトフライに飲み物を出してくれた。それを完食したイザベラが大満足しているのよね。
もうね、なにかいう気にもなれません。
でもこんなダンジョンなら、きっと子供たちも楽しんでくれるんだ。
これはこれでアリかもしれないから、あとはいくつかの階層でちゃんと戦えるようにしてもらえればいいか。
――さあ、久しぶりに会ってこようかな?
ボクたち魔将三人衆に引けを取らない実力者。魔剣ルシェファールの作り手にして、古は天界の天門を守護した強者。
その名は堕落の天使ルシェファーレ。
お疲れさまでした。




