説話107 元魔将軍は午前を過ごす
今は朝六時、起床時間だね。
ボクは寝ていても魔法を身体に循環させて、細胞というやつの活性化を図っているんだ。だからかな、目覚めはいいのよね。
「おはようございます!」
「おはよう」
先に起きた子供がボクに元気よく朝の挨拶してから、仲良くみんなで洗面所へ行く。
200人が同時に洗えるようにボクは作ったから広いよ? みんなは自分の使う洗面台に名前を書いて、自分で清掃してるんだ。えらいね、この子たちは。
「おやすみい」
「違うよね、今は朝だよ? セクメトはなにをしてたの?」
眠たそうにセクメトが居間のソファーに行こうとしてるから、ボクは彼女の肩を掴んだ。
「ええ? 別にい。暇だからあ、朝までスルトさまから借りたラノベを読んでたよお。
ウチも異世界に転移して無双したいなあ」
「十分に無双はしてると思うけどね」
「新しいやつ貸して?」
「いいけどさ、ちゃんと日常の生活リズムを守ってね? 子供が真似するから」
「はーい」
ボクは勇者たちから聞いたラノベってやつを自分で書いたりしてるんだ。
魔王様は勿論のこと、魔王軍で大人気となってラノベ図書館という建物まで作ったんだ。一時期は魔王様がさあ、送還のナイフで刺して異世界に行かせてほしいって言われたとき、さすがにボクも引いちゃったよ。
――魔王様、異世界の日常平和のため、絶対に行かせないからね。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます!」
食事の掛け声してから子供たちが一斉に朝食を取る。
勇者たちがご飯を食べる時はいただきますという言葉を口にするので、ボクはいい習慣と思ったからそれを取り入れたのさ。
意味はよく知らないけど。
食事作りは当番制で、マーガレットが子供たちに調理の仕方を教えてる。
食材のことを聞いてみたけど、なんでもマーガレットが持つ、ボクの作った異空間の大容量カバンにいろんな食材が収納されてるから、献立を考えながら出してるとのこと。
生きる術を学ばせるためにそろそろ子供たちを連れて、暗黒の森林へ狩猟や採取にお出かけしようかな? 引率は勿論マーガレットにお願いするんだけどね。
理由はね、ボクは狩った獲物を上手に剥ぎ取ることができないんだ。
動物の死体をきれいに捌くことができるのはマーガレット、彼女はこういう技をガルスから教えてもらってたからね。
あの大男、見かけによらず意外にも手先が器用なんだよ。
朝食が済んでから十才以上の子は授業を受けに行ったんだ。
ミールとエリアスはもう同行していない。たぶん飽きたのだろうね。あの子たちは同年代の子たちとリビングアーマーに遊んでもらっているよ。
六才以下の子供はなにもせずに遊ばせることにしてる。
六才以上で十才以下の子は、ボクと薬草畑の雑草抜きや収穫で励んでる。雑草抜きというのはね、こまめにしておかないとボクに断りを入れることもなく、勝手に生えてくるんだ!
――そうか、そうなんだね。
お前たち雑草は元魔王軍序列三位の魔将軍、通り名は地獄の水先案内人であるこのアーウェ・スルトにケンカを売っているというんだね。
――よし、そのケンカ、買ってあげるよ!
あー、ヌキヌキヌキヌキ――
ふぅ……雑草軍はこれで全滅さ。
怖かったら二度とボクの前に現れないことだね。まあ、明日の朝にはまた生えてくるだろうけどさあ、しつこいよこいつらも。
でも実のところ、雑草抜きも薬草の収穫と一緒で単純な作業だから、ボクは雑草抜きが楽しくてしょうがないのよね。
授業は午前中だけ、まだ模擬授業だからね。
11時過ぎに寮へ戻った子供たちがマーガレットの手伝いしながら食事を作っているんだ。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます!」
食事のかけ声してから子供たちが一斉に昼食を取る。
昔からボクはマーガレットが作る食事を食べるフリして異空間に放り込んでた。それを彼女はいつも寂しそうな顔して見ていたが今は違うよね。食事の時になればいつもニコニコしてるのよね。
ボクが食べるからなのかな。
だってさあ、子供たちが一生懸命に作る料理だよ? 食べないとなんだか申し訳なくてねえ。
確かなことはマーガレットが一緒に作るようになってから、食事の美味しさが倍増するどころじゃなかった。
フィーリたちもマーガレットが来て以来、だいぶ年相応にはしゃぐようになってきたよ。
時間があればマーガレットにくっついて離れない。この子たちにとって、それはとてもいいことだとボクは思った。
お疲れさまでした。




