説話103 元魔将軍は魔法を教える
「――魔法は四大系列があるということをしっかりと覚えるように。
火系列、風系列、水系列、雷系列の四つだね」
「はーい」
「ほかにも水系列を極めたのちに派生する氷系列やドワーフがよく使う土系列。
今は使われいていない天界に住む天使が使う光系列、地獄に住む種族が使用する暗黒系列などがある」
「……」
「きみたちに教えるのはあくまで四大系列であり、それぞれの才能に合わせてこれから伸ばしてもらいたいと思う。
ここまでは問題があるかな?」
子供たちは一生懸命にボクが渡したノートというものに授業の内容を書き記していく。
ミールとエリアスは目をパチクリさせるだけで、なんもわかってない顔をしていたね。
――うん、とても可愛い。
それからボクは模擬授業に参加した子供たち一人ずつの持つ潜在能力を見て回った。
例えばアグネーゼは太古の時代に人魔混合種と人間たちから蔑まれたエルフだけであって、その魔力の量がとても11才の子供とは思えないほど多かった。
しかも彼女は四大系列どころか、今からでも氷系列や土系列が使えそうだね。いい子と巡り会えたよ。
アグネーゼは間違いなく賢者候補だね。
フィーリは風系列と水系列に適性があり、なによりも回復の魔法などの補助系魔法が伸びそうだね。
フィーリ、きみは聖女にするつもりだからセクメトと距離を取るように。色んな意味で染まっちゃダメだからね。
エルネストは人間だから雷系列しか適性が見られなかったが、回復の魔法などの補助系魔法を取り入れることで強化していきたい。
ボクがエルネストを買っているのはその聡明な頭脳、彼ならパーティの司令塔というやつになれるはず。
ボクはね、魔将三人衆の中でも唯一将軍という名を魔王様からもらい受けた。
それはボクが魔族を集団としてまとめて、その戦闘集団を率いることができたからなんだ。その役割をボクはエルネストに期待しているのよね。
オリアナというベア族の女の子は全くと言っていいほど魔法の才能がない。
だからと言って魔法が使えないわけじゃないよ? 彼女みたいに戦士向きの子には強化の魔法と回復の魔法を教えるつもり。
自己強化と自分を傷から回復することで、賢者と聖女の仕事を減すというのがボクの考えなんだよね。
ここから先は一歩ずつ子供たちと向き合って前へ歩んでいきたい
「……」
「……」
うん。ミールとエリアスがすごくものほしそうな顔をしているし、魔法を使いたい気持ちが手の仕草に現れてるよ。ワキワキと二人して指を動かしているね。
切り傷を治す程度の回復の魔法なら、二人とも使えそうだからそれを教えてあげようかな。
「ミールもエリアスもこっちに来て、魔法を教えるから」
「いやったあっ!」
「やたなの」
足元にまとわりつく二人の小さな女の子が満開の笑みを浮かべているから、ボクはなでなでしてあげようと思うんだ。
「――これでサクッと」
「さくなの」
「かいふくぅ!」
「かいふくなの」
ん? ミールとエリアスはなにをしてるんだ? ちょっと見てみようか。
「なにしてるの?」
「あっ!」
「……」
二人が小さなナイフを持って、どこかで捕まえてきたネズミに傷を入れてから回復の魔法をかけてた。
おぼえたての時に魔法を試したいと思う気持ちはわかる。
だけどボクは生き物を傷つけさせるために教えているわけじゃない。魔法は自分を守るために教えてるという意識を持ってるからね。
だからここは二人のためにも叱ることにする。
「ダメでしょう? ネズミさんだって痛いんだからね」
「ごめんなさい……」
「ごめんなの……」
うん。悪いことをしている自覚さえあればいい。それがあればいつだって間違えた道から引き返せるからね。
フッとこっちに視線が注がれていることに気付いたので、そこに目をやるとセクメトの視線と合ってしまった。
逃げ去るセクメトの背中からミールとエリアスのほうに目を向けると、二人ともセクメトのことを見てたんだ。
うん、悪戯の入れ知恵をしたのはセクメトだったんだね。
あいつを取っ捕まえて対太陽防御装備を外させてから、太陽の下で三時間焼却の刑はこれで決定だよ。
お疲れさまでした。




