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説話96 元魔将軍は現状に焦る

 寮の食堂はいつもとても賑やか。


 子供たちがね、ユナと一緒に遊んだおかげですっかりエリックとベアトリスに懐いてる。フィーリとか年上の子たちはまだ夫婦に警戒してるけど、それは時間が解決してくれるだろう。


 覚えられないくらい長生きしてきたボクがいうんだから間違いないね。



 それとイザベラ。わけのわからないことを言ってエリックを困らせるじゃないよ。


 ――アラクネの糸で作ったドレスがほしいだと? 


 それは暗黒の森林に連れて行くからアラクネさんから糸をもらいなさい。ドレスは作れないこともないけど、ボクは機能(防御)重視だから、見栄えなんて悪くなければそれでいいんだ。


 今ここにいる全員の中で服を作れる人はいないから、ボクが作ってあげたもので我慢なさい。



 外から人が来たときは大人しくさせなさいとボクはセクメトに伝えてあるので、玄関で飾り物のように突っ立ているリビングアーマーたち。たとえユナが興味津々そうにその周りを飛び回ったり、兜の中へ入ろうと頑張ったりしても、リビングアーマーが動きに出ることは一切なかったんだ。



 ボクからのプレゼントということで夫婦がお気に入りのお茶の葉をあげたのさ。


 水の補給も済ませた行商人夫婦はボクたちに見送られて、ワルシアス帝国のほうへ旅立っていく。なんでもフィーリたちが希望しているものは帝国の品物が多く、ポーションを販売しながらまたここに戻って来るってボクたちに言ってくれたよ。




「どう、イザベラ。教科書作りはもう終わりそう?」


「まあスルトちゃんったら、ワタクシをだれだと思ってますかしら」


「そうなの? じゃあ、終わったら持ってきてね。複製するからさ」


「なにをいってますのよ、まだ終わってませんわよ」


「……」


 はあ……そだね。ここはイザベラの言った通りだね。イザベラはイザベラだもんね、期待したボクのほうが悪いもんね。


 でもねえ、それだと開校ってやつが遅れてしまうのよね。困ったことだ。



「イザベラ、ボクになにか手伝えることはないかな?」


「そうですね、ワタクシはものを書くときは最高の気分でないと筆が進みませんのよ」


「へええ。じゃあ、ボクはなにしたらいいのかな?」


「そうですわね……

 まずはですね、ワタクシが呼んだときにすかさず美味しいお茶を入れてちょうだい。あっ、勿論茶菓子は忘れないでくださいまし。

 それでね、ワタクシが肩がこりそうなときにいつでも揉んでもらえますと、こう、気分がグッグーンと上がりますわ。

 それとですね――」


「はーい。ご飯になったらちゃんと降りてきてね? じゃあね」


「あ、あら? ちょっとお待ちになって、スルトちゃん。ねえったら」


 冗談じゃないよ、それじゃ侍女さんじゃないか。


 いや、一応ついてるからボクだと侍男さんになっちゃうのかな? そんなのどうでもいいや。まったくイザベラに係わると頭が悪くなりそうで気が滅入るよ。




 子供たちがデュラハンとなんか剣術をやってますけどこれどういうこと?


『みなさーん、ちゅうもーく!』


「はーい!」


 あれ? アールバッツまで木製の練習用の剣を握っているけどあの構えは明らかに変だよね?



『暗黒剣奥義……消神滅聖っ!』


「ショーシンメッセーイえええっ!」


「はいっ!ストーップっ!」


 ストップというのは異世界の言葉だよ。


 今はどうでもいいよ。勇者なのに神を殺して聖気を滅してどうするんだよ! まあ、男神は殺してほしいけど殺せないけど。あーっ、言葉が変になっちゃうよ!


 とりあえず暗黒剣奥義の消神滅聖は名前がすごいだけで神なんて殺せないからね。



『おお、これはスルト殿ではないか。』


「えっと……デュー1号さん?」


『いや、われはデュー18号だがデュー1号とも仲良いのですぞ。』


「あーそうかい」


 激しくどうでもいいよそんなこと。それよりこれどういうこと? なんでデュラハンが剣術を教えているわけ? それも暗黒剣術を。



「なんでデュー18号さんが子供たちに剣を教えてるの?」


「それはぼくがお願いしました。勇者になるために早く強くなりたいです」


『見上げた意地ですぞ。我ら一同は感服致したぞ』


 まずいなあ。アールバッツがやる気を出すのはいいけど。だが暗黒剣術はダメだ。



「デュー18号はちょーっとこっちに来てくれる? アールバッツたちは待っててね」


『なんの用ですかな?』


 アールバッツたちがきょとんとして見てる中、ボクとデュ18号は運動場の真ん中に来た。




「暗黒剣術を子供に教えるのはやめなさい」


『なんとっ! われはあの子らに乞われて、我らの最強にして最大の剣術を教えているのですぞ!』


「あのねえ、暗黒剣術は暗黒闘気を纏う死者の剣。デューさんたちはあの子たちを死者にしたいわけ?」


『あっ』


「あっ、じゃないよ。まったくもう」


『我らではあの子らの役には立てぬと申すか……』


 肩を落とすデュラハンなんて初めて見たよ。珍しいことが起きるんだね――って、どうでもいいよ、そんなこと。



「基本的な剣の形でいいんじゃないかな? とにかく暗黒剣術は禁止だからね」


『了承……』


 トボトボと歩み去るデュラハンさん、背中が小さくなってすすり泣いているね。



「どうしようか……」


 先へ進められないと焦り出すボクたちの日々に、唐突に()()()がやってきた。



お疲れさまでした。

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