説話95 元魔将軍はポーションを卸売りする
熱いお茶入れなおしてから、ボクは行商人夫婦に飲むようにすすめたんだ。
二人は緊張を解かないまま淹れたてのお茶を飲んだけど、エリックは顔をしかめてしまい、しきりと舌を突き出してる。たぶん熱さに気付かないで飲んだのだろうね。
「話はよく分かった。ボクが作るポーションはきみたちにしか売らない。
これはさき約束した通りだよ」
「ありがとうございます」
エリックとベアトリスは二人揃ってボクにお礼を言ってきた。二人が口を閉ざしたのでボクは話を続ける。
「ポーションをきみたちにビン込みで売る価格だが」
二人は真剣な眼差しでゴクッと唾を飲み込み、これからボクがいうことに耳を傾けているのよね。
行商人と限らず、商人ってこういうもんだろうか。
「一般的の販売価格である銀貨1枚できみたちに売るよ」
「は、はああああっ?」
――え? だって、全部タダみたいなもんだし、ボクの手にかかればちょちょのチョイで出来ちゃうもん。
「いやスルト様? それはわたしたちには大変ありがたいのですが、このような品でしたらビン込みで最低でも銀貨5枚、いや、金貨1枚で売れるかもしれませんよ?」
「そうですよ、スルト様。
私どもはスルト様とはいい取引相手でいたいと考えておりますので、商品は適正の値段でお取引きさせて頂きたいと思います!」
「そんなの知らないもん。
ボクはポーション一ビンに付き銀貨1枚をもらえればいい。きみたちがいくらで売ろうとボクは関知しないよ」
「いや、関知しないと言われても……」
「困ったわ、どうしようあなた」
二人が混乱しているけど、ここは別に二人を待たなくてもいいよね。
売値も決まったことだし、商品を引き取ってもらおうかな? 倉庫に積んであるから邪魔でしょうがないや。
「ついて来て」
二人を待たずにボクは応接間からでた。
ユナはボクの肩に乗ってきて、足をブラブラさせながらなにか小さな声で妖精の歌を歌ってる。これはボクを褒め称えてる歌だね。
ユナが退屈しないで楽しんでてよかったよ。
倉庫の中にあるポーションの木箱詰めにエリックとベアトリスは絶句してたね。ユナは木箱を飛び回って、その匂いを嗅いでるんだ。
うん、気付いてくれたんだ。あれはアズナの木材、香りがとてもいいんだよ。
「ス、スルト様……たとえ銀貨1枚でお買い上げしても私どもにそれだけの資金がありませんよ……」
あ、そっか。なんせここには1万本のポーションがあるもんね。でもその心配はいらないよ、エリック。
「いいよ、いくらになるかは面倒だから任せるね。
その金で今度来るときに必要なものを買ってもらえればそれでいいからね? 残りの金はそのままきみたちに預けるよ。
それでね、買い物はみんなの希望があるから食堂に寄ってくれるかな?」
「は、はああ……」
行商人夫婦が動けなくなったから、ポーションの納品はユナにお願いしようかな? ユナが持つ異空間なら十分に入るはずさ。
「ユナ、全部収納して」
「はーい」
木箱の近くでユナが可愛く身体を一回転させると、ポーションを詰め込んだ全ての木箱がこの場から消えてなくなった。
うん、さすがはピクシー。能天気だけど頭はいいのよね、出し入れ自在の異空間はすぐにわかったみたいだよ。
行商人夫婦はって? ああ、彫像になってるからしばらく放置。
そう言えばそういうプレイがあると賢者のタキがニヒヒって笑っていたね、どんなプレイなんだろうね。
お疲れさまでした。