受付嬢の移籍
私の前にはギルド長ことギルバート・ロックスォーム御年75歳。
私は父の遺品の槍をカウンターに立て掛けて普段着にしているギルド正式メイド服の埃を払い、60°のお辞儀を決める。
「お父さん。今までお世話になりました。」
頭を下げる私。
「わし、お父さんかの?」
首をかしげるギルド長。
「これからもよろしくお願いします。」
さらに頭を下げる私。
「ほっほっほ。よろしくのう。」
顔をクシャクシャにして笑うギルド長。
「まずはお風呂にしましょうか。ご飯にしましょうか?それとも」
「レミーナさんやメシはまd」
「いわせるかぁ!」
割り込むダズさん。
「アガサさん、だめだよ!この二人に会話させたら!話が進まないよ!!」
「はっはっはっは。良いじゃないか。ウチのギルド暇だろ?良いドラマが展開されるじゃないのさ。」
「アガサさんは大物すぎる!さすがお母さん。」
「あっはっは」
「ひゃっひゃっひゃ」
私と長もつられて笑う。
「そこの二人は人ごとみたいに笑ってんじゃないですよ!このやろう!」
「私女なのに(嘘泣)」
「ひどいのう(ジト目にしたいけど目が見えない程細い)」
「なにこの面倒なメンツ!!きちんとして下さいよ!」
私「シャキーン」
ギルド長「キリ」
「口だけ言ってもダメです。」
「「ショボーン」」
「良いですから!!もうわかりましたから、さっさとレミーナさんの登録終わらせましょうね!!」
「「はーい」」
私は胸元のエプロンポケットから書類を取り出し提出する。
「はいはい。確認しますね。」
名前:☆レミーナ☆
履歴:フォレストサイド支部ギルド看板娘的受付9年
有資格:ギルド職員C級 算術C級 槍術B級 体術B級
備考:住み込み可。おさわりはOKですが、それ以上はダメ。玉の輿に乗りたい。目指せ一攫千金。処女☆
「かきなおせぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
仕方ない。今度は胸元のポケットから書類を出す。
名前:レミーナ
履歴:フォレストサイド支部ギルド9年(退社理由はダズ職員からのセクハラ)
有資格:ギルド職員C級 算術C級 槍術B級 体術B級
備考:セクハラでの退社。トラウマの解消の為、法廷にて審議中。絶対勝ち取ってやります!
「俺が社会的に死ぬので勘弁してください!!!」
「仕方ありませんね。」
「(俺ここでは先輩職員のハズだよな。。。)」
「いえ、ダズさんは私が10歳の頃にギルド職員として雇用になったので私の方が上ですよ。資格も経歴も。」
「(心の声読まれたーーーー!?しかもけなされてる!!)」
「ダズさん顔に出すぎです。」
「(マジ?)」
「マジです。」
さてダズさん弄りもこれくらいにして、登録しましょう。
胸元からギルド職員カードと登録用紙をアガサさんに渡す。
「アガサさん、登録お願いします。」
「はいよ。ちょっとまってな。」
ハンコぺったん カードリーダーでピッ しゃかしゃかしゃか~かりかりかり~
さすがアガサさん。速いわ。仮受付終了。
「長、ここにハンコと術印お願いします。」
ハンコぺったん かりかり ぺかーっ
「うむ。終了じゃの。」
「ありがとうございます。」
かりかりかり しゃしゃしゃかーしゃっ カードリーダーぴっ
「これがレミーナの書き換えたカードだよ。なくすんじゃないよ。」
「はい。ありがとうございます。」
受付工程全終了である。
カード確認。
氏名 レミーナ
職種:槍術士/体術士
免許:槍B 体B 解体D 短剣E 剣E 盾E 騎乗F
特技:特になし
前職:ギルド受付(特記:ギルド職員C級所持)
賞罰:なし
備考:なし
間違いないこと確認。
「早っ!!!!!ってか、もしかしてオレいらねぇ!!!?」
「え、ダズさん、受付やったことありますっけ?」
「ねぇよっ!よく考えたらオレ受付とか入ってやったことねぇよ!!今気づいたよ!!!」
「やれやれですね。」
「まじぃ。レミーナ今日で受付側じゃなくなるって事はもしかして俺もこっちまわる可能性あるんじゃねぇ???」
「え、もちろん?」
「まじかぁぁぁぁぁぁ!!!」
もちろん別の子が王都ギルドから派遣されるんですけど。
ギルド受付嬢。華やかな容姿のお姉さんやロリっ子、お母さん、変装ギルド長や鬼畜眼鏡執事等ギルドの花形職である。しかしながら受付に座ることの出来る人間は少ない。
必須資格:算術C級・ギルド職員D級以上の人間であること。
算術は当然の話。
経理なめんな!笑顔でお客対応しつつ手は課税対象比率計算と素材売価相場・予想売上・支払い計算を勝手に解けないとギルド受付はやってられない。ミス、すなわちその職員への給与より天引きである。高額素材でミスをすると最悪その冒険者への奴隷化もありえる。恐ろしい話。
そして、ギルド職員D級。
ギルド職員D級で守秘義務と横領防止が契約魔術で強制される。(自由意思で契約魔法は拒否出来るが、D級取得は不可となる。選択機会は最初の1度のみ。以降D級取得試験自体受講不可)
例えば、高ランク免許取得者相手の受付で口を滑らせる「えー!!こんなに若いのにA級!!!」なんて言おうとした瞬間、椅子から転がって床をのたうち回る頭痛がはしる。もちろん第三者(ギルド職員D未満の職員または一般職)への個人情報売買漏洩等は失語症や失明クラスの衝撃が走る。
個人的なプレゼントやお食事へのお誘いなんかは横領にはならない。
でも現金そのままとか、高額商品券とか、超高額商品(貴族クラスからの贈答品)の贈与は嘔吐感+胃に穴があくから個人では受け取ってはいけません。ギルドを通して下さいと言いましょう。
D級必須知識はギルド規定・規則・賞罰・周辺5国法令の特殊項目:ギルドについて。ただし、E級を持っていればギルド関係問題数は半分になる。周辺5国法令は一緒だけど。
ちなみに受付の命よりギルド規定・規則の方が重いよ☆
あ、そうそう。ちなみにだけど戦闘職C級以上が1個以上ないとギルド職員C級は受けられない。
C級職員は支部ギルド補佐クラスの実力が求められる。B級部外秘情報取得可能。もちろん守秘義務契約魔術上書き付き。(情報の売買実行でD級罰則+強制自主退社&各自全裸で自縄自縛状態の騎士団出頭)。王都本部ではC級を取ってから初めて受付に座ることが許されるらしい。信用問題大切ですから!
罰則の契約魔術はギルド職員解雇・退職処分終了をもって解約となる。
ウチのギルドではB級長。C級アガサさん(長補佐兼受付)私(受付兼経理)E級ダズさん(素材受け取り・解体係長兼ぽっち)の4人で回していた。ウチの村多くても1日50人も冒険者一度に来ないからね。
「それでは、改めて。ようこそ。冒険者槍士B級レミーナ。どの依頼を受けるのかしら?」
にっこり。アガサお母さん、いや、ベテランギルド受付のアガサさんの笑顔から私の冒険者生活が始まった。
「私の受ける仕事は決まっています。」
すっとカウンターへ一枚の依頼用紙を取り出す。
「承ります。レミーナさん、事前の依頼用紙の取り置きは注意1となります。次回からは気をつけて下さい。」
「すみません。」
にっこり。にっこり。
「なんか授業参観見に来てるオヤジの気分だ。オレ。」
「ほっほっほ。」
「承りました。依頼内容は
依頼内容:畑開墾
依頼主:フォレストサイド村領主アーガリア・ナンセ・フォレスト騎士爵
期間:2月~3月1日まで
内容詳細:春の種まきの時期までに新たに畑を開墾することにした。場所は去年秋に伐採をした森部分である。我こそはという者は名乗り出よ。そして存分に耕すが良い!
報酬:15ペンド/1日(8時間)時間外超過勤務手当なし。
参加資格:無・農業経験者優遇。成果報酬あり。
募集定員:村人全員までOK
備考:森より魔物の襲撃が予想されます。
倒した魔物の所有権は全て倒した本人に帰属します。また採取品も同様とします。
周囲への被害に関しては、開墾予定地ということで不問(村への被害は別途請求)とします。
村民自警団(全10人)参加済み。
で間違いございませんね?」
「間違いありません。お願いします。」
「オレ、冒険者への依頼としては間違ってると思うんだ。長どう思う?」
「ほっほっほ」
「はい。受付終了です。ご無理をなさらず、危ないと思ったら逃げることも勇気ですよ。いってらっしゃいませ。」
「ご心配ありがとうございます。」
「なぁ、長。あの会話聞いてると背筋ゾクゾクするんだけどさ。オレ、風邪なのかな?」
「ほっほっほ。」
「じじぃ、てめぇ適当に。。。ってはえぇぇぇ!すげぇ速度で書類整理してる!じじぃ!てめぇだけ仕事終わらせて定時帰宅ねらってやがるな!!」
「あたりまえじゃっ!(くわっ)」
そして私は腰ベルトの短剣を確認し、リュックを背負って、カウンターに立ててあった槍(穂先にはカバー&リボン付き全長2m)を肩に担いでギルド館から出発する。
「みんな行ってきます。」
「「「いってらっしゃい。」」」