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ミネリア~最後の聖妃~  作者: 花岡 和奈
第一章 世界の鍵を握る少女
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5.廻り始めた運命

「というわけですから、早速皇国大書庫に行きます。リオナはその衣装を片付けたら、通常の業務に戻ってください。ソフィに教えることもたくさんあるでしょう? 」



 ミアは謁見の間を出て、自分の執務室に着くと、神官装に着替えた。さすがに舞の衣装のままだと、目立ちすぎて、動けなかったからだ。しかし、リオナはミアの指示に反対のようだ。



「私もお供いたします。書物を探したりなど、お手伝いをさせてください」


「大丈夫です。皇国大書庫には専門の書官がいると聞いていますから、その方達に手伝ってもらいます。アーネス様が私の業務は免除してくださったけど、あなた達は業務があるでしょう」



 リオナはやや考えた後、これ以上反対するべきではないと思ったのか、「かしこまりました」と言って引き下がった。そのやり取りをソフィはオロオロしながら見ているだけで、精一杯のようだ。そんなソフィを見て、ミアは少しだけ和む。


 エトから渡された衣装の中に、ターナも入っていた。頭と顔の下半分が隠れるように布を当て、紐を後ろで結ぶ。ターナも紫色の布で出来ており、神官装、ターナ、額当て、全て着ると統一感が生まれる。

 神殿の外を歩くことになるので、本来ならば正装冠も着用しなければならないが、舞踏譜を読む際に邪魔になるだろうからとアーネスが着用しなくてよい、と言ってくれた。実際、額当てにターナに加えて冠まで付けてしまうと、頭が重くて首が痛くなりそうだと思った。



「では、行ってきます。今日は初日ですから遅くはならないと思います。それまで私宛に来た執務はリオナに判断を任せます。リオナもそろそろ三等神官に昇格すると思いますから、良い勉強になるでしょう。ソフィのこともよろしくお願いします」


「かしこまりました。何かあればお呼びください。御帰りをお待ちしております」



 リオナが一礼すると、それを真似てソフィも一礼する。こうして神官の所作や言葉遣いを学んでいくのだ。神女の中でもリオナは優秀だとミアは思っている。そんなリオナの背中を見て学ぶのだから、きっとソフィも良い神官になるだろう。




 神殿は厳密に言うと、皇宮の敷地内にある。ただ、外部に干渉されないよう塀があり、唯一の門は皇宮武官によって常に監視されている。大神官であるアーネスか、皇家の許しがなければ何人足りとも出入り出来ないようになっているのだ。

 キエナ王国から神殿に来た日以来、ミアは六年ぶりにその門を見る。あの時は六歳で今より身長も低い。この門を超えたらしばらく出てこられないことを知っていたミアは、泣きそうになりながら門をくぐったのを覚えている。この門で母と別れ、アーネスに引き渡されたのだ。

 今こうして改めて門をみると、少し複雑な気持ちがするのは、きっとその時の記憶が蘇るからだろう。

 門番をしている武官がミアが歩いてきていることに気付き、訝しげにミアを見る。滅多に人の出入りのない場所なので、驚いているのかもしれない。

 ミアは謁見の間から帰る時、エトに渡された通行証を門番に見せる。アーネスの印が入っている証明書だ。「一ヶ月間ミネリア二等神官と、補佐官の通行を許可する」そう書かれていた。



「御役目ご苦労様です。二等神官ミネリアです。アーネス大神官様のご命令により、皇国大書庫に一ヶ月間通うこととなりました。ご確認ください」



 門番は通行証を軽く確認し、すぐに通してくれた。ミアが門を通る際は門番は敬礼をしている。さすが太陽信仰の本拠地だ。神官もその信仰の一部なのだろう。門番からは尊敬の念が伺える。その気持ちに恥じない神官でいなければと、ミアは身の引き締まる思いに駆られた。



 皇国に来て六年。神殿しか知らないミアにとって、皇宮の中だとしても神殿の外を歩くのは新鮮だった。何より遠くからではあるが、男性の声も聞こえる。神殿は女性しかいない。外の世界なのだと改めて認識してしまう。物心ついた頃神女になったので、男性と言うものをほとんど知らないと言っても過言ではない。男性の記憶と言えば、ミアの実家フォルスト家の嗣子であり、兄であるディサシードと父ヴィンドだけだ。

 門を出てから歩いて三分ほどで大書庫の入口が見えてきた。大書庫というだけあって、かなり大きく古い建物だ。アーネスからは地上三階、地下五階構造だと聞いている。普段使用する人が少ないのか、書庫の周りには誰もいないようだ。これなら落ち着いて舞踏譜が読めそうだと思った。

 

 大書庫に入ろうとした瞬間だった。

 

 ミアの後ろから何かが風に飛ばされ、ミアの足元に落ちる。どうやら何かの書類らしい。古語がビッシリと書かれた紙だ。ミアはその紙を拾い、周囲を見渡すが、相変わらず人気はない。どうしたものかと思っていると、大書庫のバルコニーから声が聞こえた。



「申し訳ない。それは私の書類だ。今から取りに行くので、拾っていてくれないか」



 ミアは心臓が止まるかと思った。物心ついてから話したことのない人種だったのだ。

 男性というには若く、ミアより少し年上で青年に向かう前の少年といった風情だった。しかしその声はあきらかに普段ミアが耳にしない音域の声だ。だからと言って無視も出来ない。とりあえず、ミアはその紙を拾い、その少年を待つことにした。

 しばらくすると、白い装束を纏った少年が大書庫の扉から出てきた。遠目からは分からなかったが、その白い装束には金糸の刺繍が施されている。

 ミアは昔、アーネスから聞いた話を思い出した。



「この国は色で様々な職を分けています。たとえば、私達神官は腰帯で位がわかりますね。それは皇家の方々も同じです。神官が紫色の神官装を纏う事が決まっているように、皇家の方々も白色の皇族装に金の刺繍が入った装束を着ています。将来、一等神官になれば皇家の方々とお会いする機会があるかもしれませんから、覚えておくとよいでしょう」



 目の前に走ってくる少年は、正に皇族装そのものだった。それに気付いたミアはとっさにその場で両膝をついて礼をする。皇国の中でも神官は位の高い役職だが、皇族はその上をいくのだ。

 一方少年はミアが膝をついたことに驚いたのか「何をしている」と問いかける。



「皇家の方とお見受けいたしましたので…… 」


「そなたこそ、その服装は神官ではないか。神官は神殿からの外出を禁じられていると思うが、どうしてこのような所にいる」


「大神官様からご命令があり、大書庫にて調べ物をする為でございます」


「そうか。ならば手伝うぞ」



 ミアは驚きのあまり、顔を上げてしまった。本来は許しがない限り皇家の方々の顔を直接見てはならない。

 

 その時、また風がふいた。今日は強風がよくふくらしい。ミアが拾った書類がまた吹き飛ばされてしまいそうになり、それを青年がつかもうとした瞬間、ミアの後頭部と少年の足がぶつかり、ミアの額当てとターナの結び目が解けてしまった。

 強風の日は大抵快晴だ。ミアの額に強烈な太陽光が当たったその時、謁見の間で感じた強烈な眩暈がミアを襲った。額に熱が集中し、意識も朦朧とする。



「どうした。大丈夫か」


 

 その少年が発した言葉と、端正な顔つきが見えたのを最後にミアの意識が途切れた。           

皆さま、こんばんは。花岡和奈です。


今回は二話UPさせて頂きました。

異世界の恋愛モノをうたっているのに、一向に男性が出てこないのはマズイと思い急ぎました(笑)

とはいっても、登場だけですね。すみません。


これから登場人物がどんどん増えていきますので、

「わかりにくい」

「もう少し展開はゆっくりにして」

などご意見がありましたら、是非お聞かせ下さい。


では、またお読みいただけるよう、頑張ります!



2016年10月23日 花岡和奈 拝

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