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ミネリア~最後の聖妃~  作者: 花岡 和奈
第一章 世界の鍵を握る少女
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1.皇国神殿の朝

 ミアが皇国神殿に来て六年が経つ。

 六歳で大好きな両親の元を離れ、見知らぬ土地で暮らし始めた。状況が理解できないまま、幼かったミアは寂しくて毎晩のように泣いた。

 十二歳になった今も寂しい気持ちはある。しかし、「神官は感情を表に出してはならない」と何度も諌められ、いつに日か泣かなくなった。


【いつか大好きな両親の元に帰れる】


 その日を信じて強く生きてきた。



 ミアは新興国キエナ王国で育った。家は王国の中でも指折りの貴族であるフォルスト家だ。

 指折りの貴族であるが故に、ミアは人質としてこの神殿にやって来たのだと感づいていた。

 泣いていたころは「何故両親に会えないのか」「何故ここで暮らしていかなければならないのか」自問自答を繰り返し、幼心に誰も答えてくれないこともなんとなく理解していた。

 時が経つにつれて、自然と「人質」の意味がわかっていったように思う。



(おそらく私は、王国の為もしくは、フォルスト家の為にここにいるのだ)



 そう考えると、寂しさがまぎれる気もした。そこには使命感があるように思えたからだ。今ではその使命を全うできるなら、ここで暮らす日々も悪くないと思えるようになった。




 今朝はよく晴れているようだ。

 寝所の窓を開けなくても、ミアの耳に心地よい鳥のさえずりが聞こえてくる。その窓から入る光の強さが、今の季節を物語っていた。今日も暑い日になりそうだと思った。



(早く支度をしなければ、アーネス様に叱られるわ)



 ミアはベッドから起き上がり、昨晩用意しておいた神官装に着替える。紫色はここ皇国では神官にだけ着用が許されている特別な色だ。淡い紫色をしたシンプルなロングドレスは、腕、首、足が一切出ないようデザインされている。そして、神官の位によって色の異なる腰帯を巻くのが規則だ。


 神官の位は五段階。

 下から、白色の腰帯を巻く「神女」。主に幼い少女達の位で、神官にさえなれていないという意味で、神女と呼ばれている。

 次に黄色の腰帯を巻く「三等神官」。神女を数年過ごし、神殿の規則を覚えると誰でもなれる位だ。

 中間に位置するのが、緑色の腰帯を巻く「二等神官」。三等神官の中でも勤勉で、上官から認められた者がこの位に昇格出来る。

 そして、薄紅色の腰帯を巻く「一等神官」。50年以上神殿に仕えている者か、最高位の神官に認められた者だけが昇格できる位で、神官の中で権力を持つ者たちだ。

 最後に、約200人いる神官達の頂点に君臨するのが、朱色の腰帯を巻く「大神官」だ。最高位神官になれる者は、仕えている期間の長さでも、貢献度でもないらしく、現大神官アーネスは40歳くらいに見える。

 しかし、その威厳はすごいもので、他を寄せ付けない品格と佇まいは、気軽に話しかけられるようなものではない。ミアが最も恐れ、それと同時に最も尊敬しているのがこのアーネスだ。


 ミアは急いで着替え、緑色の腰帯を巻く。

 神殿に来たばかりの頃はミアも白色の腰帯だった。8歳の時三等神官に昇格し、昨年の花の季節に現在の二等神官に昇格したのだった。ミアの昇格の速さはどうやら記録的なものらしい。神女の時は、誰かとすれ違うたびに最敬礼をしなければならなかったが、二等神官となった今、逆に礼をされることの方が多くなった。ここでは厳格に階級制度が保たれ、それによって一等神官と大神官の権力が維持されているのだ。

 淡い紫色の上に巻かれる腰帯の色は、遠目からでもすぐにわかる。この腰帯は位を明確にするために導入されたに違いない、とミアは思っていた。



「ミネリア様。お目覚めでいらっしゃいますか」



 ミアが腰帯に関してあれこれ考えていると、少女の声が扉の向こうから聞こえてきた。ミアの補佐をしてくれている神女リオナの声だ。二等神官以上になると、その補佐をする神女または三等神官が付くことになっている。ミアはあわてて腰帯を巻き終えると返事をした。



「起きています。入りなさい」



 ミアのその言葉を聞いて、寝所の扉が開きリオナが軽くお辞儀をして入室する。

リオナの腰に巻かれている帯を見て、ミアは自分が神女だった時のことを思い出してしまう。


 ミアはこの神殿に来た日から、神女としては異例ながら大神官アーネスの世話係を任された。

 キエナ王国フォルスト家では一の姫として育ち、世話をするどころか、される側だった。

 そんなミアにしてみれば、誰かの世話をするなど未知の領域だ。最初は数え切れないほどアーネスや一等神官達から叱られた。親元を離れた寂しさと相まって、毎日悲しく悔しかったのを覚えている。

 しかし負けず嫌いなミアは、一度叱られたことはすぐに修正し、同じことで叱られることはないように努めた。その為の勉強も惜しまず、ミアは瞬く間に成長した。

 滅多に褒めてくれないアーネスから「よく頑張っている。その調子で励みなさい」と言われた時は、嬉しくて涙が出そうになったこともある。

 リオナを見ていると、かつての自分をよく思い出す。リオナも勤勉で、気立てのよい少女だ。きっとそう遠くない日に、この少女も三等神官に昇格するだろうとミアは思っている。



「リオナ、おはよう。今日も良い天気ですね」

「おはようございます、ミネリア様。少し風もあり、気持ちの良い朝です。暑いのはあまり得意ではありませんが、この季節の朝は好きです」



 ミアが話しかけると、リオナはいつも楽しそうに答えてくれる。神殿の規則は厳しく、辛い事も多い場所だが、リオナがふさぎこんでいるのをミアは見たことがない。



「今日から大礼式の準備です。私の衣装の準備は出来ていますか」



 大礼式は四年に一度行われる、皇国最大の行事だ。


【この世界は太陽神と月神によって創られた。海、大地、植物、動物の順に創造され、最後に人間が創られた。その人間に二神は知恵を与え、この世界の守り手とした】


 というのが世界創造神話の一節だ。

 人間を創り、知恵を与えてくださった二神に感謝を込め祀る行事が大礼式だ。

 この一節にある「人間が創られた」

 その最初の人間が、この皇国を治め、全世界から畏敬の念を抱かれている一族、皇家の始祖とされている。

 皇家の方々の前で、神官から選ばれた少女が舞うのが式のなかでも一大行事なのだ。

 そして、今回舞手に選ばれたのは他でもない、ミアだった。

はじめまして。

花岡和奈はなおかかずなと申します。


別名義で作詞家として活動していますが、小説に関してはほぼほぼ初めての挑戦です。


第一話から壮大な様相を呈している物語ですが、一人の少女の成長の記録でもあると思っています。成長の過程で、友情、親子愛、そして男女の愛を丁寧に紡げていけたらと息巻いています(笑)そんなに重く悲しい物語ではないはずなので、お楽しみ頂ければ嬉しいです!!


個人的な話ですが、私自身が社会人学生ですので、更新は遅いと思われます。

何分、執筆しているのは電車の中、それもスマホで下書きして週末書き起こすという日々です。


私の頭の中では、ミアをはじめ、たくさんの登場人物がすでに物語を繰り広げてくれています。

遅くても、しっかりとした物語を織っていきますのでよろしくお願いします!


2016年10月9日  花岡和奈 拝

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