いつも通りの、通学路
看板を見つけた。
今通っている道、即ち、この看板を見つけた道なのだが、ここは俺の通学路だ。学校のある平日や土曜ならば、必ず通ることとなる。
それで、この看板なのだが、俺は立ち止まって眺めていた。内容を読み取り、上から下まで視線を動かした。
気が済んだところで、再び歩き出した。周りは同じ様に登校する児童達の騒ぐ声で、大変賑やかだ。それにつられて歩き出したとも言える。
しばらくした後、十字路の横断歩道に差し掛かった。そしてふと、看板のことを思い出した。しかし、思い出したのは『看板があった』ということだけで、その内容については一切合切、綺麗さっぱり忘れていた。
ということは、あの看板の文面は、読まれはしたものの、意味をなさなかったということだ。それほどまでに興味の持てない内容だったか、そもそも本気で持たせる気がなかったのかもしれない。何にせよ、あの看板は、存在こそすれ、そこに意味はないのである。
と、少女に語りかけた。すると、彼女はこう答えた。
「その看板は、まるで私たちのようですね」
俺にはその言葉の意味が分からなかった。今は、まだ。
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朝。目覚めの時。始まりの時。
憂鬱なのは皆同じであるだろう。俺自身何度朝を迎えたか分からない。特に、今日は月曜日である。それの意味するところは言わずもがなというものだ。
「おはよう」
「おはようございます」
家を出れば、当たり前のように少女がいた。何から何まで、昨日と変わらない。
ただ、道行く人々が、彼女に目もくれないということに、俺は疑問を抱いた。
「お前のことが見える人間はいないのか」
「どうでしょう?見えていても、見えていないふりをしているだけかもしれません」
彼女の言葉の意味を理解しても、彼女の懐の思いは読み取れない。
「では、参りましょうか」
「お前も学校に行くのか」
「いえ、学校に行くというのは結果です。あなたについて行った、その先の」
そういって、少女は俺の斜め後ろにすっと移動した。
気味の悪い思いをぐっと押し込めて、歩き慣れた通学路を進む。
今までと何ら変わらないはずの景色が、やけに歪んで見える。すぐ前を歩く同級生の姿が、まるで虚像のように映った。
突然何かに酔ってしまったかのように激しい吐き気に襲われる。重たい何かがむせ上がってくるような、そんな感覚に、思わず立ち竦む。今にも何かを吐き出してしまいそうな口を手で塞いだ。
「大丈夫?」
背後からかけられた声に振り向くと、そこには梨田萌香がいた。俺の将来の嫁であり、何度も死に際を見た、あの彼女が。