表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

いつも通りの、通学路

 看板を見つけた。

 今通っている道、即ち、この看板を見つけた道なのだが、ここは俺の通学路だ。学校のある平日や土曜ならば、必ず通ることとなる。

 それで、この看板なのだが、俺は立ち止まって眺めていた。内容を読み取り、上から下まで視線を動かした。

 気が済んだところで、再び歩き出した。周りは同じ様に登校する児童達の騒ぐ声で、大変賑やかだ。それにつられて歩き出したとも言える。

 しばらくした後、十字路の横断歩道に差し掛かった。そしてふと、看板のことを思い出した。しかし、思い出したのは『看板があった』ということだけで、その内容については一切合切、綺麗さっぱり忘れていた。

 ということは、あの看板の文面は、読まれはしたものの、意味をなさなかったということだ。それほどまでに興味の持てない内容だったか、そもそも本気で持たせる気がなかったのかもしれない。何にせよ、あの看板は、存在こそすれ、そこに意味はないのである。


 と、少女に語りかけた。すると、彼女はこう答えた。


「その看板は、まるで私たちのようですね」


 俺にはその言葉の意味が分からなかった。今は、まだ。


 _________


 朝。目覚めの時。始まりの時。

 憂鬱なのは皆同じであるだろう。俺自身何度朝を迎えたか分からない。特に、今日は月曜日である。それの意味するところは言わずもがなというものだ。


「おはよう」

「おはようございます」


 家を出れば、当たり前のように少女がいた。何から何まで、昨日と変わらない。

 ただ、道行く人々が、彼女に目もくれないということに、俺は疑問を抱いた。


「お前のことが見える人間はいないのか」

「どうでしょう?見えていても、見えていないふりをしているだけかもしれません」


 彼女の言葉の意味を理解しても、彼女の懐の思いは読み取れない。


「では、参りましょうか」

「お前も学校に行くのか」

「いえ、学校に行くというのは結果です。あなたについて行った、その先の」


 そういって、少女は俺の斜め後ろにすっと移動した。

 気味の悪い思いをぐっと押し込めて、歩き慣れた通学路を進む。

 今までと何ら変わらないはずの景色が、やけに歪んで見える。すぐ前を歩く同級生の姿が、まるで虚像のように映った。

 突然何かに酔ってしまったかのように激しい吐き気に襲われる。重たい何かがむせ上がってくるような、そんな感覚に、思わず立ち竦む。今にも何かを吐き出してしまいそうな口を手で塞いだ。


「大丈夫?」


 背後からかけられた声に振り向くと、そこには梨田萌香がいた。俺の将来の嫁であり、何度も死に際を見た、あの彼女が。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ