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閉塞破砕  作者: KILO
5/7

招待

 レアズという生き物が最初に現れたのは二十年前の1992年、ちょうど湾岸戦争直後のロサンゼルスだった。その最初の個体に接触したのは巡回中の市警察官で、路上でうずくまっていた個体に職務質問を行おうとしたところで殺された。その個体は大追跡の末に市警察SWATに追い詰められ、一千発にのぼるといわれる量の弾丸を撃ち込まれて死んだ。

 それをきっかけにそれらは世界中に現れた。アルゼンチン、ジブチ、ドイツ、インド、韓国。とにかく世界中至るところだ。そして世界中がその生物の解明に乗り出した。しかし未だになぜ彼らが発生するのか分かっていない。他のレアズと身体的接触を持った場合変異が発生するという事例が多く見られるから、なんらかの遺伝子操作を彼らは行えるのかもしれない。

 彼らについて分かっていることを書き出す方が容易だ。彼らと現生人類の間に遺伝子差異が認められるが、別種の生物ではなく突然変異体と言われている。繁殖能力は無いと言われている。骨密度、筋肉の密度は“人間では考えられないほど”高く、特に頭蓋骨と胸骨は小口径高速ライフル弾の直撃にも耐え、現生人類をはるかに凌駕する身体能力を持っている。色素は薄く、金か銀の髪と青、灰色もしくは赤い瞳を有している。外見上の最大の特徴は背中から生える白い毛に覆われた羽だが、飛行能力はない。



 レアズは二種類に分けられる。端的に言えば、それらの特徴が顕著で、知能が退行したV型と、V型程の特徴は持たず、現代の社会でも問題なく溶け込めるS型だ。

 世界の軍隊、警察が対レアズ戦に投入する“天使さま”は後者だ。反社会的ではなく、若くあるいは幼く、従順で社会保障を必要とする者たち。周囲にレアズであることを見抜かれ、まともな暮らしを送れない者たち。


 目の前に立つ少女はそうは見えなかった。記章のついていない綺麗なブレザーを着て、本来は金色であろうセミロングの髪は黒く染められている。青く大きな目は今しがたまで路上生活者をやっていたみちるを興味深げに見ていた。身長は165を越えており、十五、六の少女にしては背が高いだろう。端正な顔立ちをしていて、顔自体アイドルのように小さい。美人だが、暗そうだった。


「ツバキ。都筑さんにご挨拶なさい」


 少女はツバキというらしい。ちょこんと首をさげて小走りに去ってしまった。


「すまないね。社交的な子じゃないんだ」


 お気になさらず、と心の中で呟いた。SGTにも二十近いレアズが所属していたが、皆あのような調子だった。誰とも多くの言葉を交わさず、殻に閉じこもっている。

 三木に連れてこられたのは霞が関の首都警察本庁舎だった。庁舎内を歩く人間のほとんどが制服姿という中で茶色い汚れが点々とついた黒いセーターにジーンズという格好のみちるは浮く。すれ違う者全てが警戒心を剥き出しにした視線を向けてくる。三木がいなければ庁舎に入る前にMP5を持った門衛に拘束されていただろう。みちる自身もこんな場所を歩きたくはない。

 三木が案内した先は二階の二人で使うにはもったいない会議室だった。


「少し待ってろ。なにか飲みたいものがあるなら言ってくれ」


 みちるが首を横に振るとそうか、と素っ気なく言って三木は出て行った。

 部屋大部分は丸いテーブルで占められ、二十人分の席が用意してある。入口の正面に大きな窓があるが、ブラインドが降りている。あの窓を割って逃げたらどうかという考えがふと浮かんだ。実行するつもりはないが、不可能なことではない。三木は追ってくるだろうか。もしかしたら割った窓の修理代を請求するために追ってくるかもしれない。

 浮遊しかけていた意識は三木が扉を開けた音によって戻された。


「まあ座れよ」


 三木は厚いファイルを二、三冊脇に抱えていた。みちるが手近な椅子にかけるとその隣に座る。


「ようこそ首都警察へ」


 三木の声は事務的で歓迎の色は認められなかった。

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