イノチゴイ
安寧の地なんて、もはや存在しない。
「い、いやぁッ…やめて、やめて!!!し、死にたくなッ……」
バキッと、骨が折れる音が聞こえた。
続いて、ビキビキビキと耳を塞ぎたくなる音。それに混じるように、悲鳴が聞こえる。
やがて、しんと辺りが静まりかえり、隠していた身体を少し乗りだし、状況を把握しようと試みた。
見た途端、胃袋のものが出てきそうになって、抑えた。
そこには、先ほどまで悲鳴をあげていた人間の肉片と、砕け散った骨、そして飛び出た内蔵。そして、それらを包み込むように溜まる血。
ピシャッと血溜まりを踏む音が聞こえて、体を硬直させた。
ソレは人間ではない。かといって、肉食の獣でもない。外見は半分人間、半分獣。
口の周りについた肉片を舐めとったソレは、フゥゥと息を吐いた。
ソレは、亜類と言われている。
人類を唯一食い荒らす生き物、一週間ほど前に急激に増殖した。人類はもう、ソレに勝てる手だてを持っていない。人類の知恵も、武器も、亜類には太刀打ちできなかった。
そして、皆食われた。
亜類がこちらを向く。
すっと生きた心地が退いていった。頭が冷たく、体も凍ったように動かない。
逃げろ、そう思ったが、ふと思う。
どこへ?
もう、安寧の地なんて存在しないのに。平和な場所なんて、もうない。
亜類のせいで、人類の世界は消える。
そこで、ああ、と思い返す。
違う、変わってない。
よく考えろ、何も変わってなんかないんだ。
世界はとうに、このように―――弱肉強食の世界になっていた。ただ、人類がてっぺんにいただけ。そして、てっぺんが変わっただけ。
同じだ、亜類と。
同じように、家畜を食ってきた。命を奪ってきた。世界は何も、変わっちゃいない。
そして俺は、獣のような手に肩を掴まれて―――・・
そう。
世界はいつも、残酷だ。




