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~Samon Hearts~  作者: 厄猫
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第8話 「”心解の試練”」

 心に”器”を授かり、俺が挑むは幻想世界の”試練”。

そこで待っていたのは、数多くのイレギュラーであった…。

「ようこそシン様。お待たせして申し訳ありません」

使用人に案内されてやってきたのは城内にあるなかなかの大きさの神殿。

やはりこの国にも宗教とやらはあるようで、案内される途中で祈りを捧げている神官が数人見えた。

…こういう雰囲気は、どうにも好きになれないな…。

「シン様? どうかなさいましたか?」

「…と、いや、何でもない」

…いかんいかん、またどうでもいい事を考えていたみたいだ。

「…で? 俺は何をすればいいんだ?」

ここに来るまでの神殿の内部もなかなかに神秘的だったが、ここはその中でも特にすごい。

巨大な皿のような台座に透き通った水が壁から流れ、台座を満たしており、その中央の壇上へ続くように細い道が淵から伸びている。

周囲は薄暗いが、昨日中庭でも見た水晶のような物が淡い青の光を放っており、それがこの部屋の神秘的な雰囲気を際立たせていた。

「こちらに」

エンフェルは中央の壇上の上から俺を呼ぶ。

俺は興味深く周囲を見渡しつつ、エンフェルの下へと歩みを進めていった。

「これから、貴方の心───”魂”とも呼べましょうか───を具現化させるための”器”を創ります」

そう言って、エンフェルは俺に近寄ると、俺の心臓の辺りに両手をかざし、ゆっくりと眼を閉じた…。

「リラックスして…ただ穏やかな心でいて下されば結構です」


 ポォォ…。


「…これは…?」

エンフェルの両手が淡く輝いている。と、同時に、俺の身体も妙な感覚に包まれている事を感じていた。

暖かな…少なくとも不快ではない。むしろどこか安心感を与えるような、そんな居心地の良さだった。


 「『───彼の者は強き意志を秘めた”選ばれし者”───』」


俺がこの不思議な感覚に身を委ねていると、エンフェルが小さく、だが良く透き通る声で言葉を紡いでいた。


 「『───其は”力”。光と共に、闇を穿つ心の”力”───』」


「…?」

何だろう。

エンフェルの言葉が紡がれると共に、自分の身体の中に、何かが形作られているような気がする。

まだその形も、はっきりと認識できないが…───


 「『───与えるは”器”。”力”を宿し、彼の者に心を振るう”器”を与えたまえ…!───』」


だんだん、その形がはっきりと捉えられるようになってきた。

───あれは…輪のような…───




「シン様? 大丈夫ですか?」

「あ…れ…? 俺…え?」

エンフェルの呼びかけで我に返る。

自分の身体を色々見てみるが、特に変わったところは無い。

「できたのか…?」

俺の問いかけに、エンフェルは笑顔で頷く。

「ええ、問題なく。貴方の内には既に”心器”が形作られています」

「…」

再び、自分の身体を見てみる。

…確かに、何かが見えたような、不思議な感覚はしたのだが…。

「本当に変わったのか? その”心器”とやらの使い方すら知らないんだが…」

全く実感が沸かないので、心配になってエンフェルに問い返すが、エンフェルは笑顔のまま

「”時”が来れば、心器の方から呼びかけてくれると思います。大切なのは”信じる事”。それは貴方の”心”なのですから」

「…」

笑顔でそう説明されるが、相変わらず実感は沸かないままだった…。




   〈Another Side〉




「…まったく! 何なのだあの”異界人”は!」

ガン! とグラスをテーブルに叩き付けて、小太りの男性は目の前の男に愚痴を零した。

ここは城内の一室。多数の調度品や、豪華なベッドなどが、男の地位や性格を物語っていた。

「…今までの”代表者”とは思想も大きく違っている様子…。今までのようにはいかぬかと…」

愚痴る男を前に、静かにグラスを傾ける男は冷静に告げた。

「…フン! まったく…面倒事を増やしてくれる…」

小太りの男は、相変わらず不機嫌そうにぶつぶつと呟いている。

「…私に考えがあるのですが」

それを見かねたのか、男は相変わらず冷静に告げた。

「…考え、とは?」

「…あの”異界人”の試練。そこに細工をするのです。…何、既に手筈は整えております。…仮に失敗したとしても、”単なる事故”として済むように、ね…」

男はそう言うと、薄く笑う。

…城内の一室。そこに、確かな”悪意”が動き出そうとしていた…。




   〈Another Side Out〉




「緊張、してますか?」

「いんや、全然」

あれから俺はすぐに城外───城下町まで連れ出され、その一角にある闘技場に案内されていた。

”試練”のことは既に広まっていたらしい。観客席には既に人が大勢いて、控え室のここからも騒がしい声が聞こえてくる。

俺は心配そうなリーゼに顔色一つ変えずに答えた。

「ず、随分落ち着いてるんですね。私、何もしないのに妙に緊張してしまって…」

俺なんかよりずっとリーゼのほうが落ち着き無くそわそわしている。

そんなリーゼに、俺は軽く笑って

「まあ、こういう雰囲気には慣れてるんだよ。職業柄な」

と言って、ポンと頭に手を置いてやった。

…と言っても、別に全く緊張していないわけではない。

”戦場”特有の緊張感…とでも言えばいいのか、とにかくそういうのは感じているし、何より相手は”魔物”だ。人間じゃない。

魔物…つまりモンスターだ。向こうじゃおとぎ話の存在でしかない”化け物”…そんな奴と戦うと思うと、自然と気は引き締まる。

話じゃギリギリまで助けは無いらしいし…ヘタすりゃ死ぬとまで言われた。

用は…ここを乗り越えられなきゃ、これから先俺はマトモに戦う事すら出来ないってワケだ。

「…シン様」

リーゼは頭に俺の手を乗せたまま、心配そうに上目遣いでこちらを見る。

「…ま、軽く終わらせて帰ってくるわ」

そんなリーゼに、俺は明るく笑って答えたのだった。


………。

……。

…。


「これより、”心解の試練”を行う! ”代表者”シン。前へ!」

時間になり、闘技場にありがちの鉄格子の前で待機していると、小うるさいファンファーレと共に、姫さんの声が聞こえてきた。

…と同時に、目の前の鉄格子がガラガラと音を立てて開かれる。

さっきまでずっと薄暗い室内にいたせいで、ずいぶんと眩しく感じる。

俺は軽く目元を押さえながら、ゆっくりと前に踏み出した。


 ワアァァァァァァーーーーーーー!!


「うおう…」

俺の姿が見えると同時に、一気に耳に飛び込んでくる歓声。正直うるさくてたまらん。

次第に眼が慣れてきたので見渡してみると、周囲からの視線、視線、視線。

そして観客席よりも一段高いテラスの部分には、無駄に豪華な椅子に座るアリエルの姿があった。

近くにはエンフェルやレフィリナ。他の代表者たちの姿もある。

「”注目の的”は苦手だってのになぁ…」

そんなことを呟いていると、ゴゴゴゴゴという大きな音と共に、この広場の外周が壁に収まってしまった。

「…え、なにコレ?」

ちょうど観客席と広場の間に大きな溝が出来た感じになった。

下を覗いてみると、随分と高い。眼を凝らしてみると、底には無数の剣が上を向いていた。

「…落ちたら串刺しってか」

コレばっかりは命の保障は出来なさそうだ。


 ガラガラガラガラ…


「…あん?」

俺が溝を見ていると、不意に鉄格子の開かれる音。

見ると、俺の出てきた反対側の鉄格子が開かれている。

「…ッ」

奥のほうは暗くてよく見えないが、そこから感じる視線と、殺気。

俺はすぐさま身構える。

殺気は人間のものと良く似ている。が、それ以上に野性的で…荒々しい。

…姿の見えない相手を、俺がしっと睨みつけて、数瞬の後。


 グア゛アアァァァァァァァァァーーーー!!


という猛獣のような叫び声が響き。”ソレ”が飛び出してきた。

「…オイオイオイ…」

目の前に立ちはだかったのは、まさに”化け物”だった。

身体から角のようなものが色んなところに生えている…黒いライオン? のような生物。

その眼は紫色に光り、額には3つ目の瞳がこちらを見据えている。

「想像以上にエグイなぁ、コレは…」

現れた化け物の姿に、観客も息を呑んでいた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


再び響く大きな音と共に、二つの鉄格子まで続く最後の道も壁に収納された。

…これで完全に逃げ場はないというわけだ。

綺麗に溝で丸く区切られた広場の外周から、観客席までを繋ぐ鎖のようなものがいくつか伸びているが、これで逃げようと思う頃にはコイツの餌になっているだろうな…。

「…まぁいいさ。どうせ殺らなきゃ殺られるだけなんだからよ…!」

俺の殺気に反応したのか、化け物は再び大きな叫び声をあげたのだった…。




   〈Another Side〉




戦闘が始まると同時に再び沸き立つ観客席。

そことは区切られたテラスの上では、その観客たちとは違う意味での騒ぎが起こっていた。

「あれは…”カース・レオ”!? 姫さん、ちと強すぎねぇか!?」

「おかしい…用意した魔物はもっと低級のものだったはず…あれでは本当に…!」

「みなさん、何の騒ぎですか!?」

動揺する一同の下に、エリオルが慌てた様子で駆けてきた。

「”試練”に用意された魔物が、予定と違うんだよ!」

アゼルは早口で説明すると、すぐに闘技場───シンの方へと向き直る。

「ちょっと、どうするのよ!? 加勢したほうがいいんじゃ…!?」

「…いえ、今しばらく様子を見てみましょう」

声の主…エンフェルはそう言ってすぐにでも飛んで行きそうなユミルを制する。

その意外な発言に、一同は揃ってエンフェルに注目した。

「…どういうことだ? エンフェル殿」

アリエルの問いに、エンフェルは一礼して告げる。

「私は、彼の内に大きな可能性を感じたのです。だからこそ彼はレフィリナの”選定”によって召喚された…。彼ならば高位の魔物も、あるいは───」

エンフェルはそう言って闘技場の方へと視線を移す。

闘技場ではシンが魔物の攻撃を必死に避けて様子を伺っていた。

「…確かなのか?」

アリエルの問いに、エンフェルは再び視線を戻す。

「…はい」

その問いに、エンフェルはしっかりと頷いたのだった…。




   〈Another Side Out〉




『グアアァァァァァァーーーーー!!』


 ドガン!


「うぉっと!?」

前足が振り下ろされるのを、俺は後ろに跳んで回避する。

相手は今までの常識なんざ全く通用しない”化け物”だ。下手に突っ込んだら痛い目に合うのは確実。

かといってこのまま防戦一方ではどうしようもない…。


『ガアァァァーーーー!!』


「…っと!」

横から薙ぎ払われる爪を俺は身を屈めて避ける。

動きは野生の猛獣とかとそんなに変わらないらしい。だからこそある程度余裕を持って回避は出来る。

「こんなの…野生のベンガルトラに囲まれたときに比べた、らッ!」

割と色々危ない目に合ってる俺だった。

さて、攻撃だが…物理攻撃は通用する相手なのだろうか?

「ッ!」


 ヒュッ!


俺は前足での攻撃をかわし、ガラ空きの胴体にワイヤーを連結させた短剣を投げつける。


 ザクッ


『グ…』


短剣は化け物の胴体に突き刺さり、一瞬化け物の動きが止まった。

どうやらちゃんと利いているし、痛覚もあるらしい。

一つ、問題があるとするならば…───


『グアァァァァーーーー!!』


「…っ!」

化け物の身体は大きく、この短剣では恐らく致命傷を与えるのが困難ということだった。

俺は腕輪のスイッチを操作し、ワイヤーを巻き取って先端に連結した短剣を回収する。

…さて、こうなると別の武器が必要になってくるのだが…。

「…」

俺はそっと自分の胸元に手を当てる。

先ほど手に入れた”心器”とかいうヤツを…使うしかなさそうだ。

「得体の知れないモンはあんま使いたくは無いが…!」

俺は手をかざす。

思い浮かべるのは先ほど感じた”何か”。

さぁ、出て来い、”心器”とやら!


…。


「…ん?」


……。


腕に意識を集中させてみる。


………。


「…アレ?」

特に何も起こらない。

え、アレ? ていうかコレ…。


『ガアァァァァァ!!』


 ビュン!!


「出し方わかんねーよ!?」

叫びながら、後ろに倒れこんで爪を回避する。

…なにが”信じる事”だよクソ!! 何にも起こらないよ!?

即座に後転して距離をとる。

テラスの方が妙に騒がしいが…何かあったのか?

エンフェルの方に視線をやる…と、眼が合った。

俺は真剣な顔つきでこちらを見ているエンフェルに手を振って無理だとサインを送ってみるが、はたして通じたかどうか…。


『ガアアァァァァーーーーー!!』


 ビュゥン!!


「…っとぉ!? クソ…」

さて…”心器”の使い方がわからない以上、この短剣で戦うしかなさそうだな…。




   〈Another Side〉




「…なぜ、あの人は”心器”を使わないのでしょう?」

無言で闘技場を見据えるエンフェルに、レフィリナは訝しげに問いかけた。

「…だな。そろそろ使えるようになってもいいはずなんだが…」

「出し惜しみ…ではなさそうだな」

その問いに、他の面々も不思議そうに呟く。

「…! まさか…」

エンフェルはしばらく無言で闘技場を見据えていたが、突然はっと息を呑んだ。

「どうしました? エンフェル様」

レフィリナが恐る恐る聞くと、エンフェルは口元に手を当てたまま呟いた。

「”心器”が…使えないのかもしれません」

「なっ!?」

その呟きで、周囲が再び動揺する。

「ちょっとまて! ちゃんと成功したんじゃないのかよ!?」

「ええ、確かに…。彼自身が、心から”心器”を望んでいないから…”心器”が呼びかけに応じないのかもしれません」

「どうするのだ、エンフェル殿!? 流石にこのままでは…」

流石のアリエルも焦った様子を見せる。

「…用心は、しておくべきかもしれません」

エンフェルの言葉は周囲を緊張した雰囲気にさせるのには十分だった…。




   〈Another Side Out〉




「…ちとマズイな…」

あれから短剣で応戦しているものの、一向に状況がよくなる気配は無い。

観客も最初こそ盛り上がっていたものの、どう見ても俺が不利なのを悟ると、不安そうな雰囲気を見せ始めた。

…何が”魔物は低級なのでたいした事無い”だ。どう考えてもキツすぎるっての!!

このまま短剣でチマチマと攻撃していても、恐らくジリ貧で俺が負けるのは確実。

かといって奴に決定打を与える武器もないし…。

「…お?」

俺は再び周囲を見渡す。さっきから気になっていたのは、この観客席と外周を繋ぐ鎖だ。

これと、この落ちたら確実に死ぬであろう溝…。

「…よし!」

俺は考えをまとめると、魔物の前足を潜り抜けて後方へ走る。


『グアアアアァァァァァァァーーーー!!』


 ガザァ!!


魔物は背を向けて走る俺に飛び掛かろうとする…が、俺は横に飛んで回避。

その隙にワイヤーと連結させた短剣をそれぞれ左右に”壁に向かって”投げつけた。


 ブゥン!


壁に投げられた短剣はワイヤーが鎖に引っかかる形でUターン。こちらに飛んで来た短剣をそれぞれキャッチし、再び走る。

「次は…ッ!」

頭の中でイメージするのは、この広場と鎖の位置。

そこから一つの図面を作り出し、ただそれに従って短剣を投げ、またキャッチしてを繰り返す。


 ズドン!!


「…危ねぇなぁもう!」

化け物の攻撃は回避し、ひたすらに無視する。

幸いにも俺はまだ一撃も喰らっちゃいない。

そちらに意識さえ向けていればなんとか攻撃をもらうことはないだろう。

「ここと…ここで…後は…ッ!」

俺は2度短剣を投げつけた後、化け物の攻撃を回避。即座に広場の中央に立つ。

位置関係は…問題ない。

「さぁ…終わりにしようぜ…!」

俺は短剣を構えて挑発する。


『ガアアァァァァァァァァァーーーーーーー!!』


化け物はその挑発に乗り、まっすぐこちらに向かって走ってくる。

俺に届く直前で跳躍。斜め上から前足を振り上げ、落下と同時に大きく振り下ろしてきた。


 ズドン!


俺はそれを難なく後ろに跳んで回避。

「かかったな…!」

大降りの攻撃を外して無防備な化け物。この時を、待っていた…!


 ビュン!


俺は短剣2本を揃えて目の前に投げつける。

化け物は攻撃に備えて身を屈めた。


 ストン!


短剣は化け物には当たらず、そのまま向かいの壁に突き刺さる。

化け物は俺が攻撃を外したと思っているのか、こちらに攻撃しようと身構える。

「…バーカ。死ぬのはテメーだよ…!」

俺は腕輪のスイッチを押し、ワイヤーの巻取りを開始した。

…と同時に、今まで緩く巡らされていたために、地面に垂れていただけのワイヤーが巻取りによってピンと張り詰め、周囲に浮かび上がってきた。

その光景に、化け物は警戒したように周囲を見渡す。

…そう、今の短剣は決して化け物を狙ったものではない。

短剣じゃあ倒せない。ならば、今俺が奴に決定打を与えられる方法は限られてくる。

…やがて、地面を垂れていたワイヤーの中の一つ───俺のちょうど前にあるワイヤーが、一斉に張り詰めた。


 ビュウン!


『ガ…グァ!?』


…それは、一言で許容するならば、”網”のようなものだった。

それは俺の向かいの壁に一番近い鎖2本───つまり、目の前の化け物を外周の溝に押し出しながら張り詰めたのである。

…当然、そのワイヤーで形作られた”網”に押し出される形で、化け物は溝の中へと姿を消し、そして───


『ガ…アアァァァァァァァァァァーーーーーー……!』


大きな断末魔が響いて、それきり何も聞こえなくなった…。

「…死んだか?」

俺は化け物が落ちた辺りを覗き見る。

暗くてよくは見えないが、無数の剣に貫かれた化け物の死骸が、無残に横たわっていた。


 ………。


場内は静まり返っていた。

そりゃそうだ。本来なら代表者はこの場で心器を出して戦い、勝利しなければならない。

それが、心器を全く使わずに化け物を倒してしまったのだ、正直自分でも驚いている。

「…あー…っと」

さて…じゃあやっぱりこういうときは俺が何か言わなきゃいけないのかな?

…じゃあ、まあ。

俺はテラスの上───エンフェルのほうへと向き直る。

エンフェルはもちろん、そこにいた面々は揃って驚いた顔をしていた。

「…おいエンフェル! 話が違うじゃねーか! 心器なんて出せなかったぞコノヤロー!」

「…!」

まさか名指しされるとは思ってなかったのだろう。エンフェルは気まずそうな顔をする。

そんなエンフェルにも…ここにいる奴ら全員にも向けて、俺は叫んでみた。

「何が”化け物”だよ。影の異形だかなんだか知らねーがな、この程度だったらさっさと片付けて帰るからな!? アリエル! 山ほど金用意して待っとけよ!!」

ビシ! と指を突きつけ、ニヤリと笑って見せる。

一同、沈黙…。の後に、


 ワアァァァァーーーーーー!!


 「あれが新しい”代表者”様…。心器も使わずに魔物を軽々と…!」

 「黒い帽子と黒い外套コート…それにあの強さは…」

 「心器が使えない代表者…本当にあの男が…?」


巻き起こる歓声。なぜかウケが良かったのか、はたまた俺の発言の物珍しさか。…まぁいい。

今日は慣れない事をやって疲れた、早く帰らせてくれ…。

俺は一仕事終えた感覚と共に、大きくため息を吐いたのだった…。




   〈Another Side〉




「…クソ! 失敗か!」

闘技場の観客席。特に上流階級が座る特別式の中で、あの小太りの男が忌々しげに広場の黒い男を睨んでいた。

「完全に誤算でしたね…まさか心器を使わずに高位の魔物を倒してしまうとは…」

隣に座っている男も感心したように呟く。

「感心している場合ではないぞ…! これからどうするのだ!?」

あくまで冷静な男に、苛ついたように男が詰め寄る。

「…今しばらくは様子を見ましょう。何、時間は十分にありますよ。”彼”にも、十分に働いてもらわないといけませんね…」

男はそう呟くと、ただじっと広場にいる黒い男を見据えていたのだった…。




   〈Another Side Out〉

   ~追加用語~


心解しんかいの儀】

カテゴリー:魔術

主な登場作品:~Samon Hearts~


~概要~

とある国の導師が生み出した秘術。

対象の精神世界に”心の力”を付与させる”器”を生成する。

誰にでも可能と言うわけではなく、何者にも揺らがない不屈の精神と強い意志のある人間にのみ効果がある。




心解しんかいの試練】

カテゴリー:文化

主な登場作品:~Samon Hearts~


~概要~

とある国で行われていた”試練”。

これに挑戦する人間は”心解の儀”によって生み出された”心器”を用い、現れる魔物を倒す事でその存在や強さを証明する。

魔物は低級だが、”心器”を使いこなせず、敗北するようなものには容赦なく”死”が訪れる可能性もあることから、残酷な一面も持ち合わせていると言える。



受験関係はひと段落。

中間テストも乗り切って、ようやく少し落ち着いてきました。

次回からはペースアップを目指して頑張りたいと思います。

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