第7話 「”心解の儀”」
夜も明けて翌日。大衆の前で俺は参戦を発表する。
そこで出会ったのは俺以外の”代表者”。
新しい出会いと共に、俺は幻想世界での”試練”に挑む事となったのであった…。
「ん…朝か…」
閉じた瞳に薄明かりを感じて、俺は眼を開けた。
昨日はあの青年に遭遇してすぐ自室に戻り、特にする事も無かったので眠る事にした。
実感は無かったものの、やはり突然の事だらけで精神的に疲れていたんだろう。まだ少し身体が気だるい。
…まあ、このやたらとふかふかで上等なベッドが落ち着かなかったってのもあるんだが…。
俺はゆっくりと上体を起こす。窓のほうに視線を向けると、まだ明け方なのか、カーテン越しに見える外の光は弱かった。
「今日は確か…俺のことを正式に城の連中に公表するんだっけか?」
なにか言わないといけないのだろうか…? こう…決意表明とか。
「…特にねぇよなー…」
あの姫さんに”依頼”されただけだから特に私情は無かったりするわけだが、はてさてどうしたものか…。
と、そんな事を考えていた時だった。
コンコン…。
という控えめなノックの音と「失礼します…」というこれまた控えめな声。
と、その直後に扉が開かれ、昨日挨拶を交わしたリーゼとかいうメイドが顔を覗かせた。
「あ…あれ? シン様、起きてらっしゃったんですか?」
俺がまだ寝ていると思っていたのだろう。リーゼは俺と眼が合うと、慌てて俺に一礼した。
「おはようございます。シン様。…あの、寝心地がよろしくなかったのでしょうか…?」
「おう、おはようさん。元々俺はあんまり寝ない人だから、気にすんな」
予想外の出来事に戸惑うリーゼだったが、俺がそうフォローすると、すぐに気を取り直して
「えっと…今日は朝食の後にシン様のことを王宮の皆さんに公表する…とのことです」
やっぱりか…。
あまり気乗りしないが…どの道顔を覚えてもらわないとこの城で自由に動けないか…。
「他の”代表者”とやらも来るのか?」
「そうですね。恐らく顔合わせも兼ねると思います」
俺の問いに、リーゼは頷く。
昨日の話を聞く限り、”代表者”という役柄はこの国───いや、”この世界”において非常に重要なポジションである。
俺はそんな役柄ゴメンだと拒否した身だが…やっぱりそういった重要人物とはコンタクトを取っておきたい。
「昨日の今日でお疲れかと思いますが、今日はシン様も忙しくなるかと…」
「…だよなぁ」
まあ、俺にとっての”忙しくなる”は、多分リーゼの言ってる”それ”と意味が少し違っているのだろうけど。
「…ま、考えても仕方ないわな。朝食の準備はできてるのか?」
「いえ、もう少しかかるかと。すぐにお持ち致しましょうか?」
「…そうだな。すぐ頼む」
俺の返答を聞くと、リーゼは「かしこまりました」と頭を下げる。
…うーむ。
「…お前、さ」
「はい?」
「なんか昨日よりかなり緊張抜けたのな?」
「はぁぅ!?」
俺が指摘すると、リーゼはいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「お、おい。どうしたんだよ?」
俺が慌てて声をかけると、リーゼは潤んだ瞳でこちらを見てきた。
…なんか、一気に昨日の雰囲気に戻ったような。
「うぅ…言わないでくださいよぉ…意識しちゃうとまた緊張してきて…」
「…」
どうやら、結構気を張っていたらしい。
…なんとなく、リーゼがどういう奴なのかわかったような気がした。
………。
……。
…。
「こちらが訓練場になります」
「お~…」
俺の目の前には、広い芝生に木でできた人形が数体置かれている…まさに”訓練場”があった。
奥に石造りの建物がある。あれは屋内訓練場…と言った所か。
あれからしばらくして、俺は運ばれてきた朝食を食べ終えた後、リーゼに城の案内を頼んでいた。
ある程度俺のことは伝達できたため、目立たない程度ならば出歩く事が許されたのだそうだ。
…ちなみに異世界の料理という事で、向こうじゃ見たこともないような食材を使用した見たこともない料理が運ばれてくるの後思いきや、いたって普通のパン、スープ、サラダの洋風朝食だった。
食材に関しても特に見慣れないものは無し。食材の名称や料理の名前を聞いても、全て向こうと同じものだった。
…どうやらそういう点においてはこっちも向こうも同じらしい。まあ、いきなり見慣れないものばかりだと自炊の際に苦労するのだが…。
…まあとにかく、しばらくはこの城が拠点となりそうなため、ある程度の構造は頭に入れておきたかった。のだが…───
「えっと…次は…えっと…───」
「…おいおい」
さっきからリーゼは何度か道を間違えたり、迷ったりしてウロウロしている。
…ていうか、この城で働いてるメイドなのに地図無いと行動できないってどうなんだろう…?
外から見た限りじゃ確かに広そうではあったが、大体似たような役割の部屋や空き部屋も多かったため構造を覚える事自体は簡単そうなんだが…俺が変なのか?
とりあえず俺は地図と格闘しながら歩くリーゼの後ろをついて行く。と…───
「あ…」
「あら、”代表者”様。おはようございます」
廊下で見慣れた顔と会った。
「エンフェルに…レフィリナだったか?」
「…」
「まあ、覚えていただけたなんて光栄です」
俺の言葉に笑顔を浮かべるエンフェル。それと比べてレフィリナの方は黙ってこちらを見つめている。
…心なしか睨まれているような気がする。
「シンでいいっつの。…ったく、ここの連中はみんな俺のことをそう呼びやがる」
「それは仕方ありませんわ。貴方の意思は別にして、この国の多くの人々がシン様に希望を抱いておりますもの」
「…そういうもんかねぇ」
まあ、俺の意思云々よりも”代表者”として呼び出された俺の存在そのものに希望を抱かずにはいられないんだろうな。
…肩書きなんつーマスコットみたいなもんで何とかなるなら、よっぽど楽なんだろうが…。
「今日の催しには私たちも重要な役割が任されているので、とても緊張しているんです」
「催し? 俺の公表か?」
エンフェルは相変わらず穏やかな表情のため、ちっとも緊張感が感じられない。
「それもありますけれど…他にもシン様にはやってもらうことがありますので」
「マジかよ…」
どうやらリーゼの言ったとおり。俺は今日かなり忙しくなるらしい。
「それほど大変な事ではないと思いますよ? …では、また後ほど」
「…」
2人は頭を下げると、どこかへ歩いて行ってしまった。
…昨日と比べてレフィリナが妙に静かだったのが気になるな…。
「シン様。そろそろ行きましょう」
リーゼに促されて、俺たちは再び歩き出した…。
………。
……。
…。
「これで大体は見て回ったかと思いますが」
「そっか。ありがとな」
リーゼの危なっかしい足取りに不安になりつつも、俺は無事に城の探索を終える事ができた。
今は中庭に設けられたベンチに2人して腰掛け、休憩している。
「城も流石に綺麗なモンだが、中庭も手が込んでるな」
花壇や噴水。そういったオーソドックスな物の組み合わせだが、広さや豪華さもあって、中庭はちょっとした自然公園のようになっていた。
昨日は真夜中で暗く、全体を見ることはできなかったが、こうして改めて見てみるとなかなかに美しく作りこまれている。
…まあ、俺は芸術の良し悪しなんてのは良くわからないから、なんとなく感じたことしか感想にできないのだが…。
「この庭のデザインは姫様がお考えになられたんだと聞いた事があります」
「あの姫さんがか? 意外だな。なんとも武人気質な奴だと思ってたんだが…」
昨日話した限りじゃ、こんな風に庭造りに力を入れる人物とは思えなかったんだが…。
俺の呟きに、リーゼは思わず苦笑する。
「姫様。ああ見えてガーデニングが趣味なんですよ。ただ花を育てるだけじゃなくて、庭そのものを誰もが癒されるような空間にしたかったそうで…」
どうやら、現在の形に落ち着くまでに何度も作り直したんだそうだ。…金持ちの感覚という奴なのかもしれないが、なんとも豪快だといえる。
だが、そういう話を聞く限り、かなりこだわりがあるのだろう。
「姫様の父である先代の国王様も同じような”こだわり”をお持ちになっていたらしく、この城の外観や構造をお考えになられたんだとか」
「まさに”親子”なんだな…」
この城を全体的に見てみたが、まず客人用の空き部屋こそあれ、それ以外に無駄な部屋が一切無い。それに構造にも無駄が無かった。
多くの人間が暮らし、出入りする場所としても快適であり、時に外敵から身を守る”軍事拠点”としても十分すぎる設備がある。
どうやら先代の国王はそういった点ではかなり優秀だったらしい。
「さて、これからどうするか…」
「まだ少し時間がありますね…」
城もほとんど見て回り、得にする事もなくなった俺達は、何をするでもなくぼんやりと中庭の風景を眺めていた。
「お? アンタが噂の”異界人”か?」
…と、不意に背後から声が聞こえてきた。
「…?」
俺達は揃って振り返る。
「お、リーゼか。おはようさん!」
そこには、1人の男が立っていた。
肌の色が若干黒く、赤くてツンツンとした髪が特徴的だ。
…が、それ以上に特徴的な点がいくつか。
まず、袖の無い服から露出した健康的な太い腕や、顔に刻まれている刺青らしきもの。
それだけでもかなり特徴的だが、その他には、レフィリナや昨日遭遇した青年ほどではないにしろ、少し尖った耳。
そして額に埋め込まれたように光る”宝石のようなもの”。
最後に、その金色に輝く瞳には、獣のような縦長の瞳孔が覗いていた。
(これまたなんとも個性的な奴が…)
「ん? オレの顔になにか付いてるのか?」
無言で見つめる俺が気になったのか、男は不思議そうに首を傾げる。
「ああ、いや…。”ここ”にはいろんな奴がいるんだなぁと思ってさ」
俺は苦笑しながら言う。
「ふむ…。”こういうヤツ”は見慣れねぇか?」
そう言って男は、額の宝石を親指でくい、と指す。
「まあそういうのも含めて…かな」
「へぇ。…オマエさんはあんま変わったところはないんだなぁ。”人族”とそっくりだが…なんというか、雰囲気みたいなモンが違う」
”人族”…昨日レフィリナから聞いた話によると、主にこの世界───”人界”に住んでいる最も個体数が多い種族…だったか?
確かにこの城の連中には外見的特徴が向こうの人間と変わらない奴も大勢いた。
ただ、”雰囲気が違う”というのは…そこまで読み取れるこの男は、優れた洞察力や感覚の持ち主なのかもしれない。
「この世界じゃアンタや…あの”神殿の巫女”みたいな奴は珍しく…ないんだよな?」
俺の問いに、男は少し考え込むしぐさを見せる。
「どうだろうなぁ…。”神族”や”魔族”はともかく。”竜族”や”エルフ”は基本的に他種族と関わりを持たねぇから…」
「ん…アンタは…?」
「ああ、オレは竜族だよ。ホラ」
そう言って、男はツンツン髪を少し分けてみせる。
見ると、確かに後頭部付近から後ろに向けて2本の角が生えていた。
…なるほど。縦長の瞳孔はそういう理由か…。
「確か、今日オマエさんの事を城のヤツらに発表するんだよな? 色々と忙しいとは思うが、まあ今日一日は我慢してくれよ」
「…あ、そろそろ行ったほうがいいかもしれませんね」
突然リーゼが声を上げる。どうやら時間が近いらしい。
「おっと…確かにもうそんな時間か。…じゃ、また会おうぜ、”異界人”」
男はそう言うと、王宮の方へと歩いていった。
「あれが竜族か…」
レフィリナをはじめ、いろんな特徴のある連中がこの城にはいたが、あそこまで特徴的な種族は初めて見た。
向こうとは違うファンタジー一色なこの世界は、いろんな意味で興味深い。
「シン様? どうしました?」
リーゼは座ったままの俺を不思議そうに見ている。
「ん、いや。なんでもない」
俺は立ち上がると、リーゼの後に続いて王宮へと入って行った…。
………。
……。
…。
「今回、新たに”異界”より代表者が選定され、この地に召喚された。我等と共にこの世界を脅かす”敵”と戦う同士を、我々は快く迎えようではないか───」
扉の向こう───大広間では、アリエルが何やらご大層な口上を述べていた。
同士だとか代表者だとか言うのは名目上勝手にしてくれて構わないが、やはりあまり良い気分はしない。
「───では、代表者”シン殿”」
俺を呼ぶ声と共に、無駄に大きな両開きの扉が開かれる。
…と、同時に、一斉に俺に集まる視線。視線。視線。
昨日の騒動を見て俺のことを知っている連中は、なんとも複雑そうな表情を浮かべ、ひそひそ話をしているし、そうでない者は、最初の時みたいに好奇の視線を俺に向けていた。
「…うわぁ…」
俺は小さくため息を吐く。…やってらんねぇよなぁ、こういう注目の的になるってのはさぁ。
俺は渋々ながらも左右に人が別れて出来た道をまっすぐとアリエルの方へ向かって歩いていく。
左右の人ごみの中には、城の中ですれ違った者も何人かいた。…奥の方にリーゼの姿も見える。
やがて、俺がアリエルの座る上座の前まで着くと、そこには数人の男女。それに、見知った顔が何人かいた。
(こいつらは…)
まず、上座の横にレフィリナとエンフェルの2人。…まぁ、この2人はいると思っていた。
だが、意外だったのは、昨夜中庭で遭遇した青年と、先ほど話した竜族の男がいたことだ。
人ごみの中にいるのなら、彼らはただの”見物人”ということだろう。
だが、この国の”要人”であるレフィリナとエンフェルもいるこの位置にこの2人がいるということは、彼らを含めこの付近にいる男女は全員何らかの”要人”ということになる。
(…)
2人のほうを見ていると、不意に目が合ってしまった。
男のほうは笑顔で軽く手を上げ、青年は相変わらずの笑顔で軽く頭を下げる。
「紹介しよう。彼が”異界”より召喚された”代表者”。シン殿だ」
アリエルの言葉に合わせ、俺は背後を振り返る。
…ここからは、周囲の人間の顔、視線が、よく見えた。
どいつもこいつも色んな感情を込めて俺を注目している。
「…」
”注目の的になる”事は、あまり好きじゃない。
別に性格とか、好みの話じゃない。
…思い出したくも無い事を、思い出しそうになる。
「…シン殿?」
「…え?」
上の空になってしまっていたらしい。アリエルの声で気を取り直した俺は、軽く頭を振って思考を中断した。
ここにいる全員が、改めて俺を注目する。
…さて、これはなにか俺が言うパターンのヤツか?
…決意表明? いやー…特に考えてねぇってのに…。
「…あー、っと」
しかし、ここで俺が沈黙していてもしょうがない。
…というか、ここにいる半分以上の人間が、昨日の俺の”決意表明”を見ているのだ。
ならば、とことん正直になってやろうじゃないか。
…っていうか、別に隠す事でもないしな。
「…成り行きでこんなクソ面倒くさい戦いに巻き込まれた”便利屋”のシンだ。はっきり言ってこの国の末路だとか大衆の命だとかには欠片も興味はねぇが、金と元の世界に返る事を”報酬”として、俺はこの戦いという名の”依頼”を引き受けようと思う。よろしく頼む」
…。
「…」
沈黙。の後に
ざわざわざわざわっ!!
一気にざわめく周囲の人。
振り返ると、アリエルは何とも複雑そうな顔でこちらを見つめていた。
…別に嘘は吐いてないぜ?
そういう思いを込めた視線を送り、俺はニヤリと笑ってみせる。
それを見たアリエルは一つため息を吐くと
「静かに!」
と、ざわめく人々を一喝した。
「ん、コホン。…さて、シン殿にはこの後、導師エンフェル殿による”心解の儀”によって心器を授かり、その後に”心解の試練”を受けてもらう」
「…は?」
何ソレ。聞いてないんだけど。
試練? あ、ソレで忙しいの?
…えぇ~…。
「改めて、”異界の便利屋”。シンだ」
あれからしばらく見物していた連中との挨拶云々があるそうなんだが…どうやらさっきの俺の発言で挨拶に来るような物好きは消えたらしく、省略してさっさと”心解の儀”とやらの準備に取り掛かる事となった。
正直、心にも無い”社交辞令”のやり取りなんざ俺は死ぬほどゴメンなので都合がいい。
今大広間に残っているのは、レフィリナとエンフェルを除く上座の前にいた男女数人と俺。
もちろんあの2人も含めてだ。
「エルフ族の代表者、エリオル・ユレイユといいます。改めてよろしくお願いしますね。シンさん」
昨夜遭遇した、金髪に尖った耳の青年が、相変わらずの笑顔で頭を下げた。
…なるほど、やはりここにいる連中は俺以外の”代表者”ってことか。
「竜族の代表、アゼル・クロウフォードだ。お互い頑張ろうぜ、シン」
先ほど中庭で会った竜族の男───アゼルは、そう言って手を差し出した。
俺はソレに無言で答え、握手を交わす。…見た目通り力強い。
さて、ここからは初顔合わせの面々だな…。
「ねぇ…2人とも…コイツ、さっき無茶苦茶な事言ってたけどさ、ホントに信用していいわけ?」
2人の間を飛び交う小柄な…というか俺の脛ほどの大きさしかない羽の生えた”何か”が、2人に話しかけていた。
「…なんだ? このちっこいのは…」
「小さいですってぇ~!?」
その小さいやつは、俺の発言が気に入らなかったのか、瞬時にこちらに向かって飛んでくる。
「初対面のレディーに向かって失礼じゃない? アンタ!」
「まあまあ落ち着いてください、ユミルさん」
「で…でもさぁ…」
ユミルと呼ばれた小さいやつは、不服そうにエリオルに振り返る。
「なんでコイツ、こんなに小さいんだ?」
「アンタ、また…!」
「まぁ、落ち着けって。な?」
「彼女はユミル・フィール。妖精族の代表です」
”妖精”…なるほど、それでこんな格好なのか。
「言っとくけど、アタシはアンタの事まだ信用なんかしてないんだからねっ!」
そう言って、ユミルはぷいっとそっぽを向いてしまった。
「…で? 向こうにいるのは?」
俺は向こうで背中を壁に預け、ただ無言でこちらの様子を伺っている尖った耳に褐色の肌、そして銀髪の女に視線を向けた。
「アイツはレク。魔族の代表だ」
「ふぅん…」
レクと呼ばれた女は、その真紅の瞳でただじっとこちらを見詰めている。
「「…」」
しばし、交差する視線。
…不思議と、俺と似たような雰囲気を感じた。
…さて、今ここにいるのはこれで全員なわけだが…。
「…代表者って俺入れて7人だろ? 後2人はどうした?」
そう、後2人…話の通りなら神族と人族の代表者の姿が見えない。
「ああ、1人はさっきまでいましたよ。人族代表のローウェルさんです」
「ん…”いた”?」
謎の過去形に、俺が不思議そうに問い返す。
「ローウェルさんはアリエル様の護衛なんですよ。だから一緒になって出て行きました」
「ああ、なるほど…」
初めて謁見の間に入ったとき、玉座の後ろに感じた気配は、おそらくそいつだったのだろう。
これで疑問が一つ解けたな…。
「どんなヤツなんだ?」
俺の問いに、気まずそうな顔をする一同。
「…どうした?」
「それが…───」
「ローウェルは、レク以上に無口でなぁ。普段もフードと仮面で顔を隠してるんだよ」
「…は?」
何その謎人物。そんな怪しいやつが護衛で代表者でいいんだろうか。
「でも、剣の腕は一流よ。実力に関しては十分信用してるわね」
「ふぅん…」
フードに仮面。そしてアリエルの護衛、か…。なら姫さんと会ってりゃ自然と見る機会もあるかな。目立ちそうだし。
「もう1人は今は私用で隣国に行ってます。ついこの前出たばかりなので、もうしばらくは帰って来ないかと思いますが…」
「なるほどね…」
つまり、その1人を除いて、ここにいる4人とさっき出て行った1人が俺以外の”代表者”なワケだな。
これから先、様々な場面で顔を合わせるであろう面々を、俺はしっかりと記憶した。
「…それで、”心解の儀”って何なんだ?」
自己紹介も終わり、俺はこの後の予定である”心解の儀”とやらの詳細を聞いていた。
「簡単に言うと、エンフェルの魔術で”心器”を創る儀式…だよな?」
アゼルが隣のエリオルに聞く。
「ですね。正確には”心器”を対象の心に創り出し、いつでも取り出せる状態にする…のだそうです」
何とも複雑な話だ。だがまぁ、用はエンフェルの力で”心器”とやらが使えるようになるらしい。
「じゃあ”心解の試練”は?」
「あれは単純な話、城下町の人々の前でのお披露目会…といったところですね。大衆の前で心器を用いて魔物と戦い、勝利する事で新しい代表者の存在を発表するんです」
”心器”のテスト、とも言えそうだな。その程度の敵も倒せないのなら、代表者である資格は無いと、恐らくそういう意味合いもあるのだろう。
…俺から言わせてもらえば、それが今日一番疲れるイベントに他ならないのだが。
「…」
「まぁ、みんなもやった事だ、チャッチャと済ましちまおうぜ?」
見るからに面倒くさそうな俺を、アゼルは背中をバンバンと叩きながら励ました。
…と、ちょうどその時、
「シン様。”心解の儀”の準備が整いました。こちらへどうぞ」
という声と共に扉が開かれ、数人の使用人がやって来たのだった…。
~追加用語~
【エルフ族】
カテゴリー:種族
主な登場作品:全般
~概要~
主に”人界”に多く住まう種族。
身体的特徴は、長く尖った耳と金色の髪。そして美男美女が多いということである。
身体能力は人族に劣るものの、魔法技術に秀で、精霊との意思疎通が可能である。
自然を重んじており、機械技術や文明の発展によって自然を破壊する人族は”劣等種”、”穢れた種族”と見下している者が多い。それ故に得る付属の多くは人里離れた森の奥に集落を作り、多種族との関わりを断っている。
例外として妖精族とは友好的で、協力関係を結ぶ事も多いようだ。
【心器】
カテゴリー:武具・道具
主な登場作品:~Samon Hearts~
~概要~
とある国で選定された”代表者”が用いていたとされる”心を具現化した武具”
その力、形状は持ち主の心情、思想を反映しており、持ち主の精神状態に応じてその能力を上昇させると言われている。
【代表者】
カテゴリー:文化
主な登場作品:~Samon Hearts~
~概要~
とある国が選定した”影の異形”を倒すため、各種族から一人ずつ集まった者達の肩書き。
彼らは”心器”と呼ばれる特殊な武具を用いて戦い、”影の異形”を退け、国を救ったものには”英雄”、”勇者”、”救世主”としての名声や地位が約束される。
【妖精族】
カテゴリー:種族
主な登場作品:全般
~概要~
主に人界に多く住まう種族。
元は神族が使役する精霊の一種だったが、その中でも特に力を持ち、人並みの知能を持った者が”妖精族”として独立した。
人間と契約する事でその者に従い、力を貸すという点では精霊との違いは無い。
マナを吸収してさえいれば老化も死ぬ事も無く、その点では不老不死であるが、戦闘によってマナが失われると跡形も無く消滅───”死”を迎えることとなる。
身体的特徴は背中に生えた半透明の羽と、その多くが人族の子供程度の大きさしかないということである。
背中に生えた羽は数が多いほどその者の力の強さを表しており、最大で8枚となる。
多種族とは関わりを断っているわけではないが、妖精族と無理矢理契約し、使役しようとする人間が多い事から警戒心が強く、人の多いところではあまり姿を見せる事は無い。
【竜族】
カテゴリー:種族
主な登場作品:全般
~概要~
主に人界に多く住まう種族。
人界に多く住まう種族の中で最も大きな力を持っており、寿命も長い。
身体的特徴は身体の刺繍と後頭部の角、そして縦長の瞳孔である。
エルフ族と違い、多種族を見下しているわけではないが、基本的に多種族の営みには無関心であり、人里離れた場所に集落を作る。
身体能力、魔力共に非常に高いが、その力の大きさは固体によって様々である。
遅れて申し訳ありませんでした。
もう今更かと思いますが、プロローグと用語集をそれぞれ独立した小説として切り離し、この~Samon Hearts~を含めて「~Hearts~」というシリーズで括りました。
突然の変更、申し訳ありませんでした。
週一更新というスローペースのため、最近は一話一話を長くしていこうとしています。
…と言っても、最近すっかり忙しくなってきたので余裕があるのかが微妙なのですが…。
次回は久々の戦闘回の予定です。
その前にキャラが増えてきたので登場人物紹介でも書こうかな…?
その辺りはまた検討します。
お楽しみに。