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~Samon Hearts~  作者: 厄猫
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第5話 「クライアントオーダー」

無理矢理にでも帰ろうとする俺を引き留める声。

その主から持ちかけられた”取引”。

そして、俺はこのわけのわからない戦いに巻き込まれることとなる…。

「我が城の兵士が無礼を働いたようで申し訳ない。どうか今一度落ち着いてはもらえんか? ”代表者”殿」

テラスからこちらを見下ろす彼女は、微笑を浮かべながらそう言った。

周囲の人間も、兵士たちも、そんな彼女を前にして緊張した雰囲気を漂わせていた。

わざわざあんなとこから見ていて、なおかつあの服装や振る舞い…。

俺はその一瞬で、あの女こそがこの国においての”重要人物”なのだと理解した。

「もう少し我々のことを知ってもらいたい。…少なくとも、このように我らが争う必要はないだろう?」

そう言って、一瞬だけ俺の周囲を囲んでいる兵士たちに視線を移す。

「…俺にどうしろと?」

俺の問いに、彼女は微笑を崩すことなく

「できれば私の話を聞いてもらいたい。もちろん説得…というのもあるが、私は単純に貴公に興味があるのだ」

そんなことを言った。

「姫様!?」

兵士たちがそんな彼女の言葉を聞いて動揺している。

…なるほど、やっぱり”姫”なんだな。

「できれば城まで来てほしい。待っているぞ」

彼女はそう言いながら俺の周りの兵士に目配せをする。

その”目配せ”の意味をすぐに理解して、俺は笑いながら言った。

「何が”来てほしい”だ。俺が断ったら無理矢理にでも連れてこさせる気なんだろ?」

俺の指摘に、彼女は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに軽く笑って

「そうだな。…できれば、そうならないようにあってほしいものだ」

それだけ言うと、テラスの奥へと姿を消した…。




「流石というか、なんというか…」

わざわざ揉め事を起こす必要はない。そう判断した俺は、とりあえず彼女の提案を素直に受けることにした。

兵士に案内されて謁見の間へと向かう途中、俺はこの城の装飾や雰囲気に感嘆していた。

流石に元の世界むこうでも城の中にまで入ったことはない…というかそんなものは無いからなぁ…。

「ここが謁見の間です」

兵士が立ち止まる。と、俺の目の前には大きな扉が現れた。

「…ホント、流石だわ…」

俺は小さく呟きながらも、扉を開けて奥へと歩みを進めていった…。


「来てくれたか、”代表者”殿」

謁見の間には、既にあの女が玉座に座って待っていた。

周囲にはなんとも上等な服を着た連中が数名いる。…恐らくは、外の連中と同じような理由で集まった野次馬連中だろう。

…玉座の陰に人の気配がするな。護衛か…?

「私の名はアリエルという。一応は”この国を治める立場の人間”…ということになるな」

改めて見てみると想像以上に若い。この若さで女性が王になったあたり、なにかワケアリなのかもしれない。

「…シンでいい。その呼ばれ方はあまり好きになれない」

今現在───少なくともあの少女の話を聞いた時点では話に乗る気はなかった。

「ふむ…確かに突然異世界の住人である貴公を呼び出した事に関しては国を代表して謝ろう」

…俺の言わんとしている事を察している辺り、どうやら少しは話せる相手らしい。

いや、そうでなくては一国の姫は務まらない…か?

「だが、こちらとて事情があったのだ。そうでなくては、未だ”存在が不確定”な世界の住人を呼び出して頼る…などということはせん」

「まて、”存在が不確定”ってどういうことだ?」

こいつらは”俺のいた世界”があるとわかってて俺を呼び出したんじゃないって事か…?

「…現在、この人界、神界、魔界の3世界で確認されている種族はいくつかある。その中でも我々に協力してくれた種族は全部で6つ。…つまり、代表者は6名いた」

俺の疑問に、アリエルはぽつぽつと語りだす。

「今までは6名でも何とかなったんだがな…。”影の異形”は徐々に力を増幅させ、次第に6名では手に負えなくなりつつあった」

そこまで話して、彼女は俺を見る。

「我々の世界から見て、貴公の世界───異世界の存在は、一応は”存在する”とされている、が、未だ推測の域を出ない”不確定”なものだったのだ」

…”あるかもしれない”レベルの話だったってか…。

いや、それはこちらも同じか。

”こっちの世界”において、こういったファンタジーの世界ってのは誰もが夢見る世界である。

ゲーム、マンガ、小説…。そういったものを介して俺たちはその世界へ”入り込む”わけだ。

”こちら側”と違う事といえば…まぁ、こういった世界は”幻想”と呼ばれる夢物語に過ぎない…という認識だということか。

こちらの世界においても多少の差異はあれど、少なくともこういった一大事に持ち出すべきじゃない事柄だったのは同じらしい。

だが、そんな”夢物語”にすらすがり付かねばならないほどこの国は…いや、”この世界”は切羽詰っているようだ。

「今回の”召喚の儀”もまた、成功するかもわからん賭けだったが…こうして無事に成功した」

そこまで言って、アリエルは立ち上がり、一歩前に出る。

「私からもお願いする、”代表者”…いや、シン殿よ、どうか我々に力を貸してはもらえないだろうか」

そう言って、頭を下げた。

一国の姫が頭を下げる。この状況に、周囲の人間も動揺を隠せなかった。

そこまでする彼女に、俺は半ば呆れながらも言った。

「…何度も言うが、俺は”異世界からやってきた勇者様”じゃない。”ただの便利屋”だ」

どいつもこいつも”救世主”扱いだが…そんなのは柄じゃない。

「さっきのアイツは交渉下手だったが…何度も言うが、俺は”便利屋”なんだから、そんな役回りなら他を当たってくれ」

断る理由として”唐突過ぎる”というのももちろんだが、とにかく”柄じゃない”というのもある。

”報酬が割に合わない”という事もあるな。

しがない便利屋が命がけで世界平和のために化け物と戦えって? ギャグだろ…。

「…やはり、金か?」

「もちろんそれもある」

報酬云々に関してはこういう職業では特に重要だ。

「先ほど聞いたと思うが、単に名声だけを得られるというわけでもない。名声だけ…と聞こえはいいが、結局のところ我々から”個人的な褒美”という名目で金銭を渡すのは当然の事だ」

最初っから金銭をちらつかせてたら世間体的によろしくないってか。

そういう苦労は凡人の俺には理解できんが…”政治の世界”というものが一筋縄ではいかないということはどこの世界でも同じらしい。

「…別に俺じゃなくてもいいんだろ? その”素質”とやらがあれば」

”心器”…だったか? 用はそれが扱えるなら俺である必要は無い。

…というか、”素質”がある奴に片っ端から使わせりゃいい気もする。…それは何か事情があるのかもしれないが。

「…簡単に言ってしまえばそうだ。だが、ただでさえ不確定要素の多かった試み。もう一度成功するとも限らん」

…まぁ、あるかどうかもわからん”異世界”から”素質”のある人間を呼び出す…なんてのはなかなかに骨が折れるだろうな。

呼び出されたのが俺だったことを抜きにするなら、まさに奇跡に近い確立だったのかもしれない。

「…悪いが、俺の返事は変わらないぜ? そっちの事情に関しては同情するしかないが…」

それでも、俺の返事は変わらない。

俺は”便利屋”。

正義の味方には成り得ない…というより、”便利屋”という職業に善悪の概念は存在しない…と思う。

俺の返答に、アリエルは思案する素振りを見せる。

「ふむ…あまり使いたくは無い手だったが、仕方ないか…」

…なんだ? 実力行使でもしようってか?

危険を察知して身構える俺に、アリエルは苦笑して

「いや、別に実力行使をしよう、というわけでもない。…ただ、少し卑怯な手になってしまうが」

どうやら彼女の性格的にあまり気に入らない方法らしい。

…だったら使うなという話だが。

「では、”便利屋”であるシン殿よ。私と取引といこうじゃないか」

…取引?

残念ながら、俺の経験上こういう時にはあまりいい展開にはならない。

というか今も嫌な予感がする。

「貴公を呼び出した魔術…あれは我々が独自に開発した”秘術”。それの準備も、使用される魔力もまた膨大なものだったのだ」

…あれか、大掛かりな機械を動かすのに大量の電気や費用が必要な感じか。

「祭壇が大気中の微力な魔力を集め、それを何日も集め続け、初めて魔術が使用できるというものなのだ」

…あれ? ”何日も集め続け”? おい、ちょっと待て、それってまさか───

俺の言わんとしている事を察したのか、アリエルは頷き、告げた。

「そうだ。あの祭壇を使用し、魔術を発動させなければ貴公を送り返すこともできない。…そして、魔力が完全に集まるまで数日かかる。つまり…」

今すぐ帰れないってか!!

ああチクショウやられたよこの野郎!!

「別に時間の経過は気にしなくていい。貴公がこちらにやってきた直後の時間軸に送り返すと約束しよう」

ありがたいのはありがたいが、そういう問題じゃない。

「…で、取引ってのは?」

もう大体察しがつくが、俺は一応確認のために聞いた。

「うむ。今現在あの魔術を発動できるのは、先ほど貴公と話したレフィリナ、あるいはエンフェルだけだ」

…用は、あんたの命令ひとつで俺をここに留め続けることも出来るってか?

…いやらしいなぁ、オイ…。

俺の視線に、彼女は気まずそうに目を伏せて

「無理強いは正直言ってしたくは無い。だが、今は最早手段を選んではいられない状態。国を治める立場として、民を不安にさせるわけにはいかないのだ…」

「…」

その気持ちはわからなくもないが…。

「つまり、俺があんた等に協力しないと、俺は帰れないって事か」

どうやら彼女は本当にこういうやり方が気に入らないらしい。本当に不本意そうに頷いた。

…すっごい面倒ごとに巻き込まれちまったなぁ…。

「貴公が”便利屋”というのであるならば、我々への協力を”依頼”したいのだが、…どうだろうか?」

言い回しを変えただけで本質的には同じだが、彼女なりに俺に気を遣ってくれているのだろう。

俺は少しだけ思案する。…選択肢なんて最初からないようなものなのだが。

「…依頼内容は”影の異形の殲滅”。報酬は金品と”元の世界へ送り帰す事”。…でいいのか?」

彼女の話が本当なら、現時点ではこの”取引”に乗る他なかった。

俺の問いに、彼女は頷く。

だが、このままでは俺にも意地というものがあるわけで。

「一つだけ条件がある。俺は”代表者”としてではなく、あくまでアンタに依頼された”便利屋”として戦う。…いいな?」

”救世主”とか”英雄”とか”勇者”なんて肩書きは柄でもないし興味もない。

俺は、あくまでコイツに雇われた”便利屋”として参戦する。

「ああ、それでいい。協力に感謝する」

アリエルはそれで十分だとばかりに頷く。

彼女はそれで納得したようだが、周囲にいた連中は動揺を隠せていなかった。

まあ、そうだよな…普通はこういう態度なら誰もが驚くだろう。

だが、彼女はそんな周囲の雰囲気も気にせずに微笑を浮かべている。

「これから先、よろしく頼む。シン殿」

「…ああ」

…ホント。面倒なことに巻き込まれちまったなぁ…。


”元の世界に帰る”。それを報酬として、俺は”影の異形”と呼ばれる化け物との戦いに巻き込まれた。

場所は異世界。右も左もわからない土地、環境での初仕事。

おそらく、今までの常識なんてものは通用しないだろう。

…なかなかに、一筋縄ではいかない”依頼クライアントオーダー”になりそうだ…。


 …こうして、俺の”便利屋”としての”仕事”が始まったのであった。

嫌々ながらも”便利屋”として参戦することとなったシン。

次回は他の”代表者”との初顔合わせ…の予定です。

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