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~Samon Hearts~  作者: 厄猫
10/15

第9話 「内情調査」

”心解の試練”から3日。

俺はこの国の文化を知り、この世界を知っていく。

そしてついに下された初任務。…の前に、

俺はさっそくとある人物と衝突する事となったのだった…。

「シン様。お茶をお持ち致しました」

「ん、サンキュ」

リーゼが危なっかしい手つきで紅茶を置く。

つい先日聞いたのだが、リーゼは料理───いや、家事の類が全く駄目らしい。

駄目───というのは少し語弊があるか。一応メイドなんだから家事の類は一通り出来る…らしいが、そのドジさが全てを台無しにしているのだとか。

…確かに、自分の城で迷ってたしなぁ…。

周囲から”落ちこぼれ”と呼ばれているコイツが俺の専属になったのは…やっぱ何らかの意図があるんだろうなぁ。

「…まぁ。家事は俺がほとんど出来るから、別にいいんだけどさ」

それを聞いたときのリーゼの泣きそうな顔は、当分忘れる事は無いだろうが。

「…ん、うまい」

”紅茶だけは自信がある”。…そう言ったリーゼを信じて任せてみたのだが、手つきこそ危なっかしいものの、かなりうまい。

「本当ですかっ!?」

「おう。流石にこれは適わねぇわ」

茶葉の味を見事に引き出している辺り、やはり”落ちこぼれ”とはいえ、王宮勤めのメイドというのは伊達ではないという事らしい。

「よかったぁ…私、これしか取り柄が無くて…いつも失敗ばかりなんですよ」

…それは、言われなくても想像できる。

「私、メイド長のような人になりたいと思っているんです」

「…メイド長。まだ見たことないな…」

メイド長といえば、やはり年配の婆さんを想像するんだが…。

「すごい綺麗な人なんですよ? シン様より少し年上位かと」

へぇ…じゃあ20代かね?

ちなみに俺は今年で21歳───”らしい”。


「ところでシン様、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ん?」

紅茶を飲み終え、再び本のページに眼を落とす俺に、リーゼが話しかけてきた。

「その…シン様、一昨日から体勢が全く変わっていないんですが、ちゃんとお休みになられてますか…?」

不安そうな声色で問うリーゼ。

「「…」」

俺はじっとリーゼを見つめる。交差する視線。しばらくの沈黙。

「いや?」

「シン様!?」

「この程度の徹夜、どうということはないっての」




『シン殿。貴公は本当に面白い男だな』

『褒めてるんなら光栄だな』

”心解の試練”の後、何かと話題性の合った俺の件についての処理で、アリエルはかなり忙しそうだった。

『”心器”は発動せず、予定とは違う魔物が現れ───そんな状況でも難なく勝ってしまった貴公…。予想外の事ばかりで混乱してるのは私とて同じだと言うのに…』

正直、あの化け物が予定とは違ってたってのが一番の驚きだったんだが。良く勝てたな、俺。

『”心器”は確かに生成されています。シン様が未だそれを扱えない…ということなのでしょう』

心器が使えないことをエンフェルに話したら、返ってきたのはそんな言葉だった。

つまり…結局いつも通りにやれってことか。

心器はまさに”切り札”なだけあって、アリエルも他の代表者たちも不安そうだったが、こちらとしてはいつも通り仕事をこなすだけなので

『やれるだけやってみるわ』

の一言で黙らせておいた。

別に何てことはない。俺は今までだって特別なモノに頼ってきた事はないのだから、本当に”いつも通り”なだけである。




 そんなやり取りがあったのが一昨日の出来事。

それからは指示があるまで自由にしていいとのことだったので、俺はそのまま城下へ。

目的はまず、この世界の事について知る事と、この国の”内情調査”だった。

通貨はいくらか渡されたものがあったが、これでは全然足りそうにないので、俺はまず”資金を用意する事”から始めた。

…まぁ、特に何かをしたってわけじゃない。単に持ち歩いている宝石を売っただけだ。

俺は仕事の報酬を一部宝石にしている。…それは何も隠すだけじゃない。

宝石なら小さく、持ち歩きやすい。自宅の金が盗まれていても、こうして持ち歩いておけばいくらかは確保できる。

そして、”今回のような時”に一番の利点を発揮する。

宝石の価値は万国共通。それはこの世界でも同じ、貴重なものだ。

だが、仮に俺が”あっち”での札束を持っていようが、この世界ではただの紙切れでしかない。

通貨から通貨へ換えるわけにもいかない。この世界ではそもそも向こうの通過が何の役にも立たないのだ。

だからこそ俺はこうして”宝石”を持ち歩いている。

これなら金が必要なとき売ってしまえばいい。売る場所がなくとも、宝石ならば大抵は貴重品として十分価値が通る。

この世界においてもそれは例外ではないらしく、大き目の宝石を2つ売ったら白銀貨が10枚手に入った。

通貨に関しての説明は既に聞いている。

単位が”ミル”で…紙幣流通がない。

貨幣は銅、銀、金、白銀貨の4種類で、銅貨だけ大きさで価値が変わる。

1ミルが銅貨1枚。100で銀貨一枚。1000で金貨一枚。そして10000で白銀貨1枚だそうだ。

つまり、今の手持ちは10万ミルということになる。

リンゴが1つ5ミルだったから…リンゴ2万個か。…イマイチピンとこない。

まぁとにかく、資金面では問題無くなったので、城下の見物と本屋、図書館で何冊か本を入手してこの日は城に戻った。

…で、それを一昨日から今の今まで一睡もせずに読んでいたというわけだ。

「うぅ…確かに平気そうには見えますけどぉ…」

「…昔、ある組織のトップを暗殺しろって仕事があってな」

尚も不安そうなリーゼに、ちょっとした昔話をしてやる。

標的ターゲットは山奥の廃屋である取引を行う予定だったらしく、狙うならそこだと思い、俺は狙撃銃片手に、その組織が取引を行う”3日前”から狙撃ポイントの草陰に潜んでジッとしていた。

…そうすることで、完全に”自然の一部”に溶け込んだわけだ。

無論、飲まず食わず、一睡もせずで微動だにもせずに待ち続けていた。当然だ、当日にこの辺りに来ていても、恐らくは見張りの連中だらけで狙撃どころではなかっただろう。

まさか連中も、3日前からこの場所に潜伏しているとは思っても無かったので、近くの見張りだけ始末して悠々と標的を狙撃。そのままあっという間に逃げおおせる事に成功したのだった。

…3日ぶりの食料と水は、おいしかったなぁ…。

「す、すごいです…」

「…つまり、だ。何が言いたいかと言うとだな」

俺は、壮絶な日常に驚いているリーゼにひとつ間を置いて言った。

「俺にとってはこの程度の徹夜、余裕だって事だ。心配するな」

「わ、わかりました…でも、ほどほどにしておいてくださいね…?」

流石に言っても無駄だと判断したのか、リーゼは渋々ながらも頷いた。


………。

……。

…。


「ふう…こんなもんか」

リーゼに言われる頃には読み終えかけていたので、ひと段落までにはさほど時間はかからなかった。

「お疲れ様です」

リーゼは紅茶をテーブルの上に置いた。

「ところで、何を調べていたんですか?」

「ん、とりあえず大体この世界の事についてわかったかな」

この世界の暦は神暦。

現在は神暦1900年で、1年は365日。…この辺は同じ。

時間の概念も同じ、24時間で一日が終わる。四季もあるし、そういった基本的なことは向こうと何一つ変わらない。

現在は”初夏の月”…確か6月だそうだ。

この大陸、”ローザニア大陸”は、現在確認されている中でも西に位置する大陸で、ローザニア王国が大陸全体を統治している。

首都がこの”ランブルグ”…つまり、あの姫さんがこの大陸の最高権力者ということだ。

森林地帯が多く、気候も穏やかで、生物が住むのに適した土地だと言える。

驚いたのは、この世界にも機械文明が存在している事だ。

…と言っても、まだまだ日常生活に浸透するほどのものでもないらしいが。

このローザニア大陸は、そういった部分にも力を入れており、人界でも特に発展している大陸の一つと言われているらしい。

”影の異形”はこの大陸の北東部の城を占拠し、恐らく現在そこが本拠点となっている。

ここランブルグは大陸の西端に存在しており、まだまだ侵攻には余裕があるとか。

…まあ、早く殲滅できるのならそれに越した事は無いのだが。

その他諸々、種族に関してだとか、食文化に関しても大体頭に入った。

基本は向こうと変わってない、というのが一番ありがたい。この世界の文字も、よく見るとアルファベットに形が告示しており、そのまま英語の読みで問題なかった。

どうやら異世界とはいえ、ここと向こうは細かいところがいくつかリンクしているようである。

「すごいですね…異界から来たとは思えないくらいです…」

この覚えの速さは、リーゼも感心しているようだ。

「まぁ…基本”向こう”と同じだしな」

アフリカのとある部族に潜り込むときだって、こうやっていろいろ文化を学んだんだっけか。

…ホント、色々やってんなぁ、俺…。


「…で、リーゼ。1つ聞きたい事がある」

「はい? 何でしょうか」

しばらくして、俺はリーゼに問いかけた。

「…この国、どうなってやがる?」

「え…?」

俺の質問の意味がわからなかったのか、リーゼは首を傾げる。

「あの、どういう意味でしょう?」

「城下もそうだが、この城も相当内輪揉めがひどいだろ?」

別にこの3日間延々本ばかり読んでいたわけではない。

街の構造とか、この城の事とかを調べていたりもした。

こそで一番気になっていたのが、この国の内情についてだ。

「”王女””大臣””貴族””騎士団””神殿””使用人”…色んなやつらが派閥になって水面下で潰し合いをしている。それぞれ色んな思惑があってな…違うか?」

「ぁぅ…やっぱり、わかります?」

リーゼは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

この城どころか、”この街全体”がかなり内輪揉めでゴタゴタしている。

そういう内部事情を詳しく把握するのには情報屋等を駆使したが、そもそもそういった雰囲気に敏感なため、違和感はあからさまに感じられた。

「…姫様は、結婚する気が無いそうです。御両親───先代の王様と、王妃様が亡くなられて、そろそろ後継者の事も考えなければいけないのに…」

王族ってのは面倒だとつくづく思う。

好きでもない相手との政略結婚やら、権力目当ての下種どもの悪意やら、そういった色々な思惑の板ばさみに合うわけだ。

あの姫さんも相当気苦労が絶えないだろうなぁ…。

「結婚する気が無いってのはなんとも珍しいな。”国の事を最優先に”って堅実なタイプの統治者だと思ったんだが」

「国のためを思うから…ですよ」

俺の言葉に、リーゼは悲しそうに眼を伏せる。

「姫様はわかっているんです、この国が今現在水面下で不安定になっている事を…。姫様がなぜ結婚なさらないのかは判りませんが…少なくとも、今のこの不安定な状態のままではそのような事を考えている余裕が無い…とは思うんです」

後継者云々の話が出てくれば、権力目当ての連中がまた利を得ようと群がってくる…か。

どうやら姫さんは俺が思っている以上に堅実な統治者だったらしい。

「姫様は、この国と結婚する…とも仰っていました。…あるいは、本気でそれを貫き通されるおつもりなのかも…」

国と結婚…か。

最後まで国のために生き続ける…何ともスケールのでかい話だ。

「…で? お前さんはあの王女の派閥なのか?」

「私は中立ですよ…こんなピリピリした空気には…正直耐えられそうにもありませんから…」


…現在確認したのは、王女を中心とした”王女派”。

これは王女の思想がそのまま目的になっていると言っていい。

この国のゴタゴタも、”影の異形”も何とかする…一番正統派で、マトモと言えるだろう。


次に、大臣…主に宰相が中心となっている”大臣派”。

正直こいつ等もわかりやすい。

こいつ等は女性が王である事を快く思っておらず、隙あらば足元を掠めて権力を握ろうとしている連中である。


次に、王宮に仕える貴族が中心の”貴族派”。

目的は大臣派と同じ、権力や地位だろうな。

ただ、こいつ等は大臣派と違って王宮の人間に近づき、媚を売って入り込もうとする連中が多いのが特徴だ。


次に、王宮、貴族、神殿仕えの騎士が中心の”騎士派”。

彼らは王女派と同じで”影の異形”とこの国のゴタゴタを何とかするのが目的らしい。

一つ違うところは、堕落しきった王族や権力者に頼らず勝利する事で、自分たちの存在価値を証明しようとしているところだ。


次に、神殿の導師───つまりエンフェルが中心となっている”神殿派”。

エンフェルがそういうつもりで動いているわけではなく、基本的にエンフェルの取り巻きが独自に動いているらしい。

目的や行動はエンフェルの意思によって変わるため、行動が予測できないのが難点だ。


そして、メイド長が中心に王宮仕えの使用人が集まった”使用人派”。

権力者の内部事情に詳しい彼等は、その情報操作によって権力を貪ろうとする連中を牽制しているようだ。

彼等はあくまで”使用人”。地位や権力には興味が無いらしい。


…他にも城には何か勢力があるみたいだが、それはまだ把握しきれていないのでいまは割合する。


城下にも派閥がある。


まず、街の人間が集まり、この内輪揉めでゴタゴタしている国を変革しようとしている”革命派”。

最も大きな勢力で、行動も過激。権力による力では王宮の連中が圧倒的に有利だが、決して無視できる存在ではない。


それと、街にある商人ギルドが中心となっている”商人派”。

彼らは国の行く末や内乱などには興味が無く、ただそういった事によって自らが利を得られればいいようである。

…利、というのは権力などではなく、あくまで”金”に限った事だそうだ。


「…とりあえず、こんなところか?」

「…シン様って、本当にすごいんですね」

あっという間にこの国の内情を見抜いた俺に、リーゼはとても驚いているようだ。

…まぁ、問題はこの国の派閥の数ではなくてだな…。

「今現在、俺のことを各派閥がどう思っているのか、それが重要だわな」

姫さんが認めている以上、王女派の連中は俺に協力的だろう。

古いしきたりに拘る貴族や、突然現れた異端イレギュラーを快く思っていないのは、大臣派と貴族派。

他に頼ろうとしていない騎士派も同じだな。

神殿と使用人は…まだ様子見だとして、城下の革命派、商人派も俺の行動次第…と言った所だろうか。

大臣や貴族に媚を売っても利は少なそうだから、現時点では無視しとくとして…いくつかの派閥とはコンタクトを取ってはおきたいところではある。

ただでさえ俺はこの国───この世界の事についてはわからないことだらけなのだ。ある程度信用できる人物は、多いに越した事はない。

「まぁ、こういった事は追々何とかしていくとして…俺はいつまでのんびりしてりゃいいんだろうな?」

先日の”心解の試練”について不可解な事だらけだったこともあり、その処理で姫さんも忙しいのは分かるが、いつまでものんびりさせてはくれないだろうが…。


 コンコン…


「失礼致します」

「あん?」

ノックの音と共に、1人の兵士が部屋に入ってくる。

「シン様。姫様がお呼びです、至急謁見の間に御越し下さい」

噂をすれば…ってか?

「あいよ───じゃあリーゼ、行って来るわ」

リーゼは「いってらっしゃいませ」と頭を下げて見送る。

俺はそんなリーゼにヒラヒラと手を振ると、兵士に連れられて謁見の間へと向かったのだった…。


………。

……。

…。


「来たか、シン殿」

謁見の間には、既に他の代表者が集まっていた。

…と言っても全員ではない。

確か…アゼルと…ユミル、だったか?

「先日の”心解の試練”の後処理に手間取ってしまったが、そろそろ貴公達に動いてもらわなければならない」

あー…やっぱりそういうことだったのね。

「今回の任務はここランブルグの南西に位置する森林地帯。そこに巣食う魔物の殲滅だ」

…ん? 魔物?

「はい、質問」

俺は挙手して言う。

「うむ、何だ、シン殿?」

「俺達は”影の異形”相手の切り札じゃないのか? それが魔物相手に3人も必要ってのは…何かあったのか?」

俺の問いに、アリエルは深く頷く。

「うむ。…この森林地帯は魔物をはじめ、多くの動植物が生息する地帯であり、近隣の村や町が頻繁に魔物の被害を受けていたのだ」

まぁ…魔物がいる森林の近くに集落があるならそれも仕方ねぇわな。

「それらはそれぞれの自警団や、このランブルグから派遣した騎士団によって倒せていたのだが…つい先日の報告によると、魔物の数が多く、凶暴化しているということだ」

…なるほど、そういうことか。

「確か”影の異形”の影響で魔物が凶暴化、活性化したって報告も過去にあったらしいな」

「うむ」

3日徹夜で頭に叩き込んだ知識は無駄ではなかったらしい。

「つまり、オレ達が魔物を食い止めつつ、”影の異形”がいたら叩き潰せばいい訳か」

「そういうことだ」

アゼルの言葉に、アリエルは頷く。

「ねぇ、コイツって心器が使えないんでしょ? 大丈夫なの?」

ユミルは俺を指差して告げる。

「確かに”影の異形”相手に戦えるかは分からんが…魔物が相手ならばシン殿は間違いなく戦力になる。それは貴公も十分理解しているだろう?」

おそらく、”心解の試練”のことを言ってるんだろう。

「まぁ…確かに」

あれ以降、コイツも俺の実力に関しては認めてくれているらしく、アリエルの言葉に渋々ながらも頷いていた。

「ところで、他の連中はどうしたんだ?」

前聞いたローウェルとか言う奴は、相変わらず玉座の裏に気配を感じるからそこだろう。

…と、なると残りの3人はどうしたんだ…?

「彼らには別の任務で先に出発してもらっている。セレーナはまだ合流できそうにないな」

「セレーナ?」

初めて聞く名前だな…?

「神族の代表だよ、まだ顔合わせは当分先になりそうだな?」

アゼルの言葉で納得した。

名前からして…女か?

「出発は明日の明朝とする。各自準備を整えておくように」

アリエルのその言葉で、今回は解散となったのであった…。


………。

……。

…。


「準備っつっても特にないんだよなぁ」

「え、シン様、何も持ってないのでは?」

自室に戻った俺はそのままベッドに横になる。

そんな俺の様子を見て、リーゼは心配そうな表情を浮かべる。

「持ってるさ、ホラ」

そう言って、俺はコートの裾を捲ってやる。

太股には短剣がそれぞれ身に着けてある。

ベルトには、皮製の小さなケースがいくつか取り付けてあった。

ここには”仕事柄”必要なものを入れてある。この前売った宝石もこの中に入れてあった。

召喚されるときも身に着けてあったので、これらは失くすことなくしっかりと持ってくることが出来ていたのである。

腕にはワイヤーをはじめ、色々と便利な腕輪も身に着けたままなので、これら”常備品”が全て揃っているのなら、最早何も準備する必要はないのである。

「荷物が多いと行動しにくくなる。基本的に俺は残りは現地調達する主義なんでね」

非常用の保存食と小さな水筒ならあるので、それは後で用意するが、それ以外は現地で用意する。

サバイバル技術は既に習得済みだった。

「んじゃぁまぁ…長持ちしそうな保存食でも探してくるわ」

自分で作るにしても食材を買ってこないといけないため、俺は立ち上がると、リーゼに手を振りながら部屋を後にするのだった…。


「あら、シン様」

「…っ」

「お?」

廊下で再びエンフェルとレフィリナの2人と出くわす。

…相変わらずレフィリナの様子がおかしいよなぁ…。

「お出かけですか?」

俺の向かう方向から外へ行くと思ったのだろう。エンフェルが聞いてくる。

「ん…まぁな」

「明日、出発なんですってね。いかがです? 緊張してますか?」

「まさか。俺はいつも通り”仕事”をこなすだけだっての」

向こうも俺の返答は予想していたらしく、エンフェルはクスクスと笑う。

「頼もしいですわね。…ですが、心器が出せない状態で”影の異形”を相手にするのは危険すぎると思います。くれぐれも慎重にお願いしますね?」

急に真剣な声色でエンフェルは言うが、正直”影の異形”とまだ対峙した事がないので、イマイチ実感が沸かない。

「…ま、何とかなるだろ。死にそうになったら逃げりゃあいい」

「…っ!」


 ズイッ!


「…お?」

その発言を聞いて、最近ずっと静かだったレフィリナが俺に詰め寄る。

…すっげぇ睨まれてるんだけど?

「…」

「…何だよ?」

相手は所詮少女だ。睨まれたって別に怖くはない…が、なかなかに迫力がある。

「レフィリナ、何を───」

「あなた…っ! エンフェル様にその言葉遣い…今まで我慢していましたが。せっかくエンフェル様が心配してくださっているのに、その言い方はないんじゃないんですかっ!?」

エンフェルが何か言いかけて、それを遮る様にレフィリナが叫ぶ。

初対面の時からは想像もつかない剣幕だ。

「最初に会ったときもそうでした。貴方は”影の異形”の恐ろしさに関しても、”代表者”に選ばれたことに関しても、自覚が足りないです! もっとしっかりしたらどうなんですか!?」

「…おいおいおい」

このガキ、言わせておけば…。

「テメーにどうこう言われる筋合いはねーっての。最初に言っただろうが。俺は”代表者”じゃねぇ。ただの”便利屋”だっつーの」

「それがどうかしているというんです! だから”心器”も出せないんじゃないんですか!?」

「別にんなモンに頼るつもりもねーよ。最初ッから俺は俺のやり方で何とかするつもりなんだからよ」

手段は選ぶつもりはない。俺はさっさとやる事やって帰りたいんだ。

そのための近道が非合法でも、俺は一向に構わない。

「貴方…っ! この世界の希望であるという自覚が…!」

「ホントーに言葉の通じないガキだな…」

「ガキですって!?」

「あの、お2人とも、そこまでに───」

すごい剣幕で噛み付いてくるレフィリナと、それを面倒そうにかわす俺。

そしてそんな俺達を必死に止めようとするエンフェル。

…あー。本当に面倒になってきた。

「もういい。オメーみたいな”お嬢ちゃん”には一生わかんねぇ考え方だっつの。…じゃあな」

あくまで俺を”代表者”扱いするコイツに何を言っても無駄だろう。そう判断した俺は、ヒラヒラと手を振りながらさっさと脇をすり抜けて歩いていった。

「ちょっと! 未だ話は───」

後ろでまだ何か叫んでいるようだが、聞こえないフリをして、俺は城下へと向かったのだった…。

   ~追加用語~


異界いかい

カテゴリー:世界

主な登場作品:全般


~概要~

機械と科学が発展した現代世界。

3世界でからは切り離され、観測されていない”異世界”である。

3世界でも科学と機械文明が生まれ、それと同時に”異界”の存在も概念的に存在されるようになった。

”異界から人間を召喚する”といった魔術が生み出され始めたのもその頃からである。




異界人いかいじん

カテゴリー:種族

主な登場作品:全般


~概要~

”異界”に住まう人々───つまり現代人のことである。

白人、黄色人、黒人といった様々な人種があるが、”異界”に住まう人々は全て”異界人”。または”異人”と呼ばれる。

科学と機械の文明で繁栄している為、当然ながら魔術の適正は限りなく低く、全く扱えない者もいる。

しかしながら、3世界とは全く違う”機械技術”は、時に魔術を凌駕する可能性を秘めている。




機械技術きかいぎじゅつ

カテゴリー:文化

主な登場作品:全般


~概要~

主に”異界”で発達している技術・文化だが、3世界にも神暦1800年頃から機械技術が生まれ始めた。

元々魔術万能世界である3世界にとって、”機械”という技術は受け入れがたい”異端”であり、その技術の進歩は微々たる物だが、”物”が時に魔術と同等の力を発揮する”機械”と言う存在に、多くの人々の注目が集められている。




神暦しんれき

カテゴリー:文化

主な登場作品:全般


~概要~

3世界の暦である。

1年365日で1ヶ月が約30日と、基本的には”異界”と変わらない。

それと同時に時間の概念も同じで、四季も存在する。

唯一違うのが月の名称で。1月が”初春しょしゅんの月”。2月が”常春じょうしゅんの月”。と言ったように、季節の時期で呼んでいる。




通貨つうか

カテゴリー:文化

主な登場作品:全般


~概要~

”異界”を除く3世界の通貨は”ミル”である。

紙幣流通はなく、銅、銀、金、白銀貨の貨幣通貨であり、銅貨のみ大きさで価値が変わる。

1ミルが小銅貨、10ミルが大銅貨で、100ミルで銀。

1000ミルで金。10000ミルが白銀貨である。

ちなみにミルは日本円で約10分の1の価値となる。

(例)1ミル=10円




【ローザニア大陸たいりく

カテゴリー:地名

主な登場作品:~Samon Hearts~


~概要~

”人界”の西端に位置する大陸。

大陸全体を”ローザニア王国”が統治しており、温暖な気候と森林地帯の多さから、”人間の住みやすい土地”として有名である。

大陸全土を1国が統一してあるため、戦乱が少なく、優秀な統治者のおかげで国民は平和で穏やかな暮らしが出来ている。

その住みやすい環境から多くの種族が暮らしており、総人口も多い。

神暦1890年頃から機械技術の発展にも力を入れ始め、”人界”の中でも”発展大陸”の一つとして数えられる。



最近、他の方の小説を読みながら、文章の書き方を変えてみようかなと考えております。

今の書き方だと読みにくいでしょうか…?

そういった感想も頂けると嬉しいです。

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