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コイマン水槽移動

翌日の夕方、弘樹は昨日と同じ場所へやってきた。

手には水槽を持って。

「コイマーン。」話し声程度で弘樹は呼んでみた。しかし、コイマンは現れない。

「あれ~?おかしいなぁ・・・。コイマーン!!」大きな声で呼んでみた。

「なんやなんや!大きい声で~。びっくりしますがな~。」コイマンは両方のむなびれを左右に動かし、弘樹に訴えた。

「いや、だって普通の声で呼んでもコイマン出て来なかったんで。」

「あ、そうでっか?いや~すんません。ちょっとフナと喋ってたもんで。気の合うやつやからついつい熱中してしまいますねん。」

「まぁいいですけど。出てきてくれましたし。」水槽を地面に置きながら弘樹は言った。

「あ、その水槽で意中の子の所へ行くんですな?」

「うん。よろしく頼みます。コイマン。」

「はいな。ほな~まずは、水槽に移る前に、おにぃさんの気持ちをワイに入れてもうていいですか?やっぱり水槽は息苦しくなりますんで、少しでも水槽の中にいる時間を短くしたいんですわ。」

「わかった。」

「ありがとうございますぅ。ほな、気持ちが整ったら言うて下さいね。」コイマンは岸に近づいて、弘樹の手の届く位置まで移動した。水面にコイマンの頭だけが出ている。

「・・・・・・。うん。大丈夫。」弘樹はしゃがみ込んでコイマンを見ながら言った。

「お~えらいはやいですなぁ。ほなやりましょか。手を頭に乗せて気持ち全部入れてください!」

「うん!」そう言うと弘樹は目を閉じて、右手の手の平をコイマンの頭に乗せ木村への想いを全部コイマンに注ぎ込んだ。

「むむむ~。はいオッケーです~!いや~おにぃさん、このくらいの気持ちがありましたら絶対成功出来ますわ!」ものすごい口をパクパクさせながらコイマンは言った。

「ほんと!?やった~!」

「ほな、さっそくその子の所へいきましょか。」

「うん。」弘樹は大きなかばんからポンプを取り出して、川の水を水槽にシュコシュコと移しだした。水槽の6割くらいまで水が入るとコイマンはむなびれを動かした。

「そのくらいでいいですわ。そんなに長旅にもなりそうもないでしょ?重たいやろうし、そのくらいで。」

「わかった。」そういって弘樹はかばんから網を取り出した。

「おにぃさん用意がいいですなぁ。ほなどうぞ。」コイマンが言い終わると、弘樹はゆっくりと網ですくい上げて水槽に移した。

「じゃあ、行こう。よろしくお願いします。コイマン。」

「はいな。こっからどれくらいかかりますの?」

「歩いて5分くらいかな。結構近いでしょ?」しっかり水槽を両手で持って弘樹は歩き出した。

「お~意外と近いですな。あ、せや、おにぃさんは何て言うてその子を誘いはったんですか?」

「え!?」弘樹は動揺して水槽を少し揺らしてしまった。

「おっとっと。」コイマンはすべてのひれを上手く使ってバランスを取った。

「あっ、ごめん!コイマン。」上から覗き込んで弘樹は言った。

「いや、唐突にあんな事聞いたワイも悪いんですわ。すんません。」コイマンは水面から口を出してパクパクした。それからしばらく歩いて、またコイマンは質問した。

「あ、待ち合わせ場所はどこですの?公園とかですか?」

「家だよ。」

「家?」

「そう、木村さんの家。」

「うそーん。まさか家まで押し掛けるとは。やっぱり想いの大きさがすごいですなぁ!」

「いや、僕だってもう1度話したいから公園でもって言ったんだけど、今日は家庭教師が来る日だから家にいなきゃ駄目だって言われまして。それかまた違う日にするかどうかって。」

「あ~そうやったんですか~。」

「うん。でも、コイマンと約束してたし、少しの時間だけだから家に行かせてってお願いしたらオッケーもらえて、それで家に押し掛けるみたいになっちゃいました。」

「なるほど~。でも、なんか話を聞いてる感じでは嫌われてそうでもないですし、フラれた理由がわかりませんなぁ。」独り言のようにコイマンは呟いた。

「あぁ。う~んとね、野球部の人に3日前に告白されて、まだ返事してないんだけど、前からちょっと気になってた人だから付き合おうと思ってるんだ。って言われたんだ。だから、僕の方が先に告白してたら、また違ってたかな?って思って、そしたら余計に悲しくなってきて、昨日の感じになっちゃったんですよ。」

「ほうほう。そうでっか~。」とコイマンが言い終えた時に弘樹の足が止まった。

「着いた。」そう言って水槽をそっと地面に置いた。そして、深呼吸をしてインターホンを鳴らした。

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