コイマン九死に一生
空は青く、目の前の川はゆっくりと水を運んでいた。
「はぁ。」目に涙を浮かべながら小林弘樹はため息をついた。
弘樹は足元にあった石をやや川上に投げた。水しぶきをあげて石は沈んでいった。
川上は弘樹の左側になる。その石が着水した場所の左側。弘樹からからみて川上の岸に近いところでバシャバシャと水しぶきが上がっている。そこは急激に浅瀬になっている所で1匹の魚が苦しんでいた。
「ったく、なにやってんだよ。」弘樹は小走りにその浅瀬に向かい、苦しんでいた魚をひょいと持ち上げると、川の深いところへ移動させてやった。
「もうこんな事にはなるなよ!」弘樹は魚に向かって大きめの声で言った。
「ありがとうございます~。」
「え?」弘樹は辺りを見回した。しかし誰もいない。
「こっちです~!」
「??」声は聞こえるのに姿は見えない。
「え!?何?何?」弘樹は完全にパニックになった。
「だ・か・ら・ここ!魚!」
「え?さかな・・・?」そう言って川を見るとかなり近くに魚がいた。
「おぉ!やっと気づきましたかぁ。今、助けてもらった魚です~。」
「・・・。」徐々に弘樹の顔が恐怖に染まっていく。
「え?ちょっ・・・!あかん!お礼言ってるだけやから!怖がらんといて!」
「あ、ありえない・・・。魚が喋るなんて!!うわぁぁぁ!!」弘樹は魚に背を向けて逃げようとした。
「ストップ~!!」魚の叫びに反射的に弘樹は止まった。
「お礼。お礼やから怖がらんといて。な?あと、この声は君の脳に直接届くようになってるから。」さかなは落ち着けるようにゆっくりとしたスピードで喋った。
その声を聞いて弘樹は恐る恐る魚の方へ振り返った。魚は口をパクパクさせていた。
「な?パクパクしてるだけやろ?ワイは魚やからパクパクしか出来んのよ。」そう言って右側のむなびれを水面に出して、弘樹に『おう』って感じの挨拶をした。
「気持ち悪っ!」思わず弘樹は心の声を口に出してしまった。
「気持ち悪っ!ってそれはひどくないか?いくら恩人でも言うていい事と悪い事があるわぁ。」魚はしょんぼりした。
「あ・・・ご、ごめん。」
「あ、ま、まぁええんですわ。とにかく助けて頂いてありがとうございます~。」深々と魚は頭を下げた。下げすぎて弘樹からは尾びれしか見えなくなっていた。
「ところで、おにぃさん。なんか悩んでますの?遠目からやったけど、泣いてるように見えてたからね。ワイも苦しんでバシャバシャやってましたけど、意外とねそういうの見とるんですわ。ははは。」パクパクさせながら魚は言った。声と動きが合わない為に弘樹はまだ少し混乱した。しかし、なんとか会話をしようと試みた。
「あ、まぁ・・・。さっき好きな子に告白したらフラれちゃってさ。なんか、すごい好きだったから、ダメージ大きくてね。」苦笑いで弘樹は言った。
「おっ!おおぅ!」そう言って魚はとび跳ねた。
「おにぃさん!丁度いいですわ!うん!恩返し出来ます!いや~お互い運がいいですねぇ!」
「は?」弘樹には魚のテンションの意味が全くわからず温度差を感じていた。
「あ!すんません・・・。勝手にテンション上げてしもうて・・・。こういう性格やから、空気読めませんねん。いわゆるKYですな。ははは。・・・あ、あかんあかん。またおかしなっとるわ。ふー・・・。よし落ち着いたで。おにぃさん。ワイは何に見えますかね?」
「え?魚でしょ?」
「ちゃいますちゃいます。種類ですわ。アユとかサケとかあるでしょ。」
「あぁ・・・。鯉?」
「はいきたー!正解!!そう!コイですねん!」またとび跳ねた。
「あ、はぁ。」またもついていけない弘樹。
「あ、またやってしもうた。ふー・・・。おにぃさん。何に悩んでましたっけ?」コイは落ち着いた感じで聞いた。
「あ、恋です。」
「ワイは?」
「鯉です。」
「そう。同じコイ。ワイなぁ、恋を上手くいかせる事の出来る鯉やねん。名前はコイマンって言いますねん。」
「コイ・・・マン。」なんだかよくわからない感じで弘樹はつぶやいた。
「そう。だからワイがおにぃさんの恋をうまくいかせましょう。っていうてんねん。」
「え?もうわけがわからない・・・。」
「ちょっとー。もうさ、魚の声が聞こえる時点でおかしいんやからそろそろ順応して下さいよぉ。」混乱する弘樹にコイマンは言う。
「あ、うん。・・・確かにそうですね。」うんうんと何度かうなずいて弘樹は落ち着くように自分に言い聞かせた。
「おっ!落ち着きましたな!じゃあ、もう1度言いますわ。おにぃさんの恋を上手くいかせますぅ!」
「ほんとに?どういう事なの?」しゃがみ込んでコイマンに顔を近づけて弘樹は聞いた。
3日前くらいに急に思いついたので書きました。なるべく早く続きを書きたいと思います。読んでいただきありがとうございました。




