第43話 冒険者都市ダルトハット――銀貨十枚の依頼
ダルトハットの冒険者ギルドは、もはや城のように思えた。
高く吹き抜けた天井、整然と並ぶいくつもの受付窓口。
忙しなく書類を捌く職員たちの制服は、機能美を極めたこの街独自の意匠だ。
巨大な組織の威容が、そこにはあった。
「黒曜石級のレンドル様ですね。
護衛の依頼完了です、お疲れ様でした」
窓口の職員がにこりと笑って告げた。
提示された報酬額から、税金や諸費用を差し引いた硬貨がジャラリと革袋に流し込まれる。
続けて、レンドルは窓口の女を見据えた。
「あと、伝言を頼みたい。
それから、仲間の遺品を持ってきた」
懐から取り出したものをカウンターに置く。
「……こちらの冒険者章は青玉級のルテウス様ですね。少々お待ちください」
そう言って職員は奥へ下がり、台帳のようなものを持って戻ってきた。
ぱらりと紙をめくる音がする。
「ルテウス様にはご家族がいます。
預かり資金から、遺品届けの謝礼として銀貨一枚をお支払いします」
カウンター越しではよく見えないが、何かを確認したようだった。
「いや、いい。
ルテウスにはいろいろ教わった。
それはそのまま家族に渡してやってくれ」
職員は頷き、ペンを動かした。
「伝言のほうをお願いします」
職員はペンを止め、書き留める体勢に入った。
「俺を訪ねてくるものがいたら、『錆びた盾と子羊亭』にいると伝えてくれ」
「お名前は?」
レンドルは一瞬だけ考えた。
バルザード本人が来るとは限らない。
「……エルフなら、だれでもいい」
職員はレンドルを一瞥し、無表情のままペンを走らせた。
「かしこまりました。他にございますか」
「大丈夫だ、ありがとう」
用を済ませ、踵を返そうとしたその時だった。
「おい、そこの赤髪」
背後から投げかけられた重い声に振り返ると、そこには使い込まれた鎧を纏った男が立っていた。
「俺はサロドってもんだ。
ルテウスが死んだっていうのは本当なのか?」
サロドの問いに、レンドルは短く応じた。
「……ああ。
槍で傷は負わせたが、魔法には勝てなかった」
サロドは吐き出すような溜息をついて天を仰いだ。
「……そうか。教えてくれて感謝する」
「家族がいるって聞いたが、サロドがそうなのか」
「俺じゃない。
ルテウスには妹がいる。
あんた、名前は?」
「レンドルだ」
「レンド……ん? お前、まさか『赤髪のレンドル』」
サロドの目が、レンドルを頭の先から足の先まで品定めするように眺めた。
すぐに興味を失ったように細められる。
まだ少年らしさが残る風貌。
装備も特別目を引くような業物ではない。
――と、そう判断したのだろう。
「……いや、俺は冒険者になりたてで、騎士くずれだ」
もし肯定すれば、どこでラクアたちの耳に入るかわからない。
ここで目立つのはまずいと考え、そう答えざるを得なかった。
「そうだよな。
英雄なら今頃サンガードにいるはずだしな。
なあ、レンドル。
お前に頼みがある」
「頼み?」
「妹のところに行って、ルテウスの最期を話してやってくれないか。
俺が依頼を出す、銀貨十枚だ。
妹はルヴィーダ。
ドワーフのところで鍛冶をやってる。
依頼に期限はない」
レンドルは少しの間、沈黙した。
「悪い話じゃないと思うが、どうだ」
静かにかぶりを振る。
「すぐに街を離れるつもりなんだ」
「どこへ行くんだ?」
「……エルフの森だ」
その瞬間、サロドの顔が劇的に変わった。
「なら丁度いい。
ルヴィーダは、今そこにいるんだ」
白い歯を見せられては、とても断れる感じではなかった。




