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第18話 ラクアを暗殺する理由

 医療テントの中、意識が浮上した。


 いつも見る、青い月の夜の出来事。

 あの夢を、今日は不思議と見なかった。

 目を開けたまま、しばらく自分の身体の感覚を確かめる。

 これまで目覚めるたびに悩まされていた、あの震えがない。


 少し、心が晴れた、そんな気分だった。

 だが同時に、夢の中で逢う母と、あの歌がなかったことを、少しだけ残念にも思えた。

 ラクアに帯同していたエルフが、癒しの加護を使ってくれたらしい。

 特別に治療に当たってくれたのだと、衛生兵が教えてくれた。


 深い眠りから引き戻された時、世界はすでに翌日の夕刻に染まっていた。

 視線を落とすと、あれほどあった傷はふさがっている。

 痛みも、違和感もない。


 高位の神官なら、折れた骨ですら瞬時に治すと聞いたことがある。

 それと同じくらいの力なのだろうか。

 もっとも、神官の場合は、多額の礼金を支払わなければならないのだろうが。


 もう動けるなら、グリフォート団長のところへ行ってくれ。

 そう言伝を受け、レンドルはロングソードを腰に差し、幕僚の集まるテントへ向かった。


「レンドル、起きたか」


 短い声が飛ぶ。


「傷は……大丈夫そうだな」


 ひと目で確認し、団長は続けた。


「早速で悪いが、このあとラクロアンと同盟の証紋を交わす」


 空気が、わずかに張り詰める。


「その時にだ」


 団長の視線が、まっすぐレンドルを射抜いた。


「お前には、ラクアを討ってもらう」


 雲行きが怪しくなってきたな――。


 ブルードは、レンドルに聞こえるように声を出したが、その顔はレンドルを向いていない。


「あまり時間がないが、理由を説明せねばなるまいな」


「……」


「サンブラント皇帝陛下は、ラクアに殺された」


「エルフたちと和解するため、ユグ=シルヴァンへ向かう途中だった」


「そして、その手引きをしたのが、サンブラント皇妃フィリネアリだ」


「……皇妃様が」


「あまり知る者はいないが、皇帝と会う前、皇妃はラクアの恋仲だった」


「ある事件を境に、フィリネアリはルベリア王国の貴族に嫁ぐことになった」


 外で、雨が降り出した。


「ラクアは、ルベリアに復讐するためサンガードに来て、サンルードの加護を得た」


「ルベリアは、サンガードとの戦争が始まる直前、フィリネアリを皇妃として差し出してきたのだ」


「そして今、皇太子の血筋には疑念が残る」


「どういう意味か、分かるか」


「……まさか」


「今となっては、陛下とは似ても似つかん」


「人を引きつけ、頭も切れる。

 加護まで複数持ちだ――放置できん」


「……加護を、複数」


「加護については、エルフの協力者が助言してくれてな。人ならざる強さの、秘訣がある、と」


「そして、レンドル。お前の加護も、狙われている」


「私の――ですか?」


「皇妃がお前を騎士に任命したのは、お前をラクアに引き合わせるためだった」


「わしは、そう確信している。

 この考えに至るまでに――多くのものを失った」


 グリフォート団長の身体は小さく震えていた。

 組まれた両手の隙間から、血が静かに床へ滴り落ちる。


 幕僚たちは、誰一人として顔を上げなかった。


「ゆえに、我々はやつを討たねばならん。

 証紋にサインする瞬間、隙が生まれるその一刹那に、わしも、護衛も、ブルードも、レンドル、お前もだ。

 全員で同時にラクアに剣を突き立てる。

 一拍でも遅れれば、我ら全員が返り討ちに遭うと思え」


 レンドルは、団長の横顔に張り付いた死の色を見た。

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