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第15話 守るべき背中、戦うべき銀狼

 背筋が凍り付いた。

 ――なんだこいつ!


「ちょっと!!!!」


 ジークは困った顔をして二人の間に割って入った。

 ラクアの腕にしがみつき、精一杯引き離そうとした。


「ジーク、離れろ」


 一瞬、何か言いかけたが、腕を放し、気づけば足が後ろに下がっていた。

 自分でも理由が分からないまま、さらに距離を取る。


「ま、待って――」


 声に出しかけた言葉は、喉で止まった。

 数歩下がってから、胸の奥がざわついた。


 ――また、勝手にどうして。


 ジークの両耳は下に落ち、不安さが目に見て取れる。

 右手を胸に、緑色の服をしわくちゃになるように強く握った。

 胸の奥に、小さな引っかかりだけが残った。


「ジーク。

 安心しろ、これは模擬戦だ」


 安心なんて、どこにもない。

 声を出そうとしても、どうしても出せない、それでも――


「だめ!!」


 それが合図のように、ラクアが踏み込み、斬撃を繰り出した。


 初撃の切り込みは難なく交わしたが、体捌きが滑らかで、その後の反撃の機会を失った。


「黄金騎士、どうだった、レンドル」


 話しかけてきながら、淡々と剣を打ち付けてくる。

 躱せない、捌けないほどじゃない。


「強かった」


 短く、素直に思ったことを口にした。

 戦いの余韻が抜けないまま、腰を下ろしていたが、

 凄まじい連続の突きを繰り出されたのが脳裏に浮かぶ。


「剣はどこで覚えた」


 ラクアの放つ剣の出所が、徐々に変化しだした。

 突きも払いも分かりにくく、軌道もおかしい。


「ラクアさんこそ、どこで剣を」


「戦場」


 ――実戦の剣ということか。


「ラクアでいい、堅苦しいの嫌いでさ」


「俺は、親父から」


「名前は?」


「ファレン・ブレイズ」


「突きのファレンか!」


「親父を知ってる?」


 ラクアが一旦距離を取った。

 呼吸の乱れが全くない。

 何もなかったかのようだ。


 じっと俺を見てくるその目は、青い瞳のせいもあって、

 まるで獲物を吟味しているような、狼のようだった。


 俺は大きく息を吸い込み、ゆっくり吐いた。

 昨日、黄金騎士から受けた傷が、徐々に痛みを思い出してくる。

 思った以上に動かされていて、体力の消耗が激しい。


「知ってるさ。

 親父は話さなかったのか?

 銀狼とやったときにな――

 ファレンの突きで、隙を作ったんだ」


 そしてまた、一気に距離が詰まった。

 徐々に剣閃の速度が上がる。


 ラクアの放つ剣は、ありとあらゆる方向から来る。

 狙いも急所から外れていて、守りづらく、

 速度も軌道も違う攻撃に、対処方法を見出せない。


「そこから、俺が何度も切りまくった。

 死なないんだよ、あいつ」


 さらに、体捌きも掴みどころがないせいもあって、

 それ自体がフェイントなのか、攻撃が来るのか判断が鈍る。

 踊っているようで、でも、不規則にステップが踏まれる。


 惑わされる。

 知らない動きに理解が追いつかない。

 低くかがんで足を切ろうとする。

 騎士の剣には見慣れぬ動き。


 最初の立ち位置から、決まった大きさの円を描くように動いていた。

 それが、だんだんと小さい円に納まっていく。


 レンドルの剣はいなされ、当たりそうで当たる気配がしない。

 逆に、ラクアの剣を捌き切れなくなった。


 追い込まれていた。


 ラクアの剣は、こちらの反応を待ってから来る。

 先を読んでいるというより、誘導されているようだ。


「守りが甘いな」


 刃が、肩口をかすめた。

 鎧に当たった感触はない。だが、皮膚がひりつく。


 次は――来る。


 反射的に後退した瞬間、足元がわずかに乱れた。

 それを、見逃されなかった。


「……っ!」


 剣が、喉元へ――


「もうやめて!!」


 鋭い声が割り込んだ。


 一瞬。

 本当に一瞬、ラクアの踏み込みが止まった。


 その隙に、俺は剣を押し返し、距離を取る。

 荒く息を吐くと、肺の奥が痛んだ。


 どう戦う――

 と、その時、ラクアの背後に揺れる影が見えた。

 冷たい気配が一瞬で全身を這い巡った。

 影の奥で、青い光が瞬いた。


 ――来る。


 息が詰まる。

 一歩、判断を誤れば、全てが終わる。


 剣では間に合わない。

 ――注意を逸らせ。


 レンドルは、剣をジークのほうに叩きつけるように放った。

 ――投げた先に全力で走った。


「なに!? ジークを! おまえ!」


 レンドルは思い切り手を伸ばし、近づく影から身を護るように、

 ジークに飛びつき、抱きついた。


「きゃっ―」


 その直後、銀色に流れる黒い影が通り過ぎた。

 風を切る音が後から届き、風圧が皮膚を切り裂く。

 遅れて、心臓が跳ねた。


 ――今のは、死だ。

 息を吸ったはずなのに、肺に空気が入らなかった。


 飲み込んだはずの唾が、喉の奥で止まったまま動かない。


「――なんだと!」


 ラクアが叫び、こちらへ駆け寄ってきた。


「あぶねぇ……」


 ラクアは、口の端だけをわずかに歪めた。

 笑ったというより、危うさを噛みしめるような表情だった。


「お前が、ジークをやったのかと思ったぜ」


 投げた剣の場所を指さした。


「レンドル、ジークを護れ!」


 その声に押されるように、

 レンドルは地面に落ちた剣へと手を伸ばした。


 それに合わせて、ジークはレンドルの背中に隠れた。

 氷の礫が飛ぶ。

 だが、直前で黒い魔物の前に弾かれ、消滅した。

 ジークはレンドルの背中から、その姿を視界に入れていた。


「――銀狼」


 氷槍が続いて飛ぶが、黒い体に当たった瞬間、砕け消滅する。


 背後のジークを、一瞬振り返るレンドル。

 ――間に合った。


「氷の魔法が効かないのか」


「やっぱりだめ、加護を突破できない!」


 ――銀狼は加護を持っている?


「肩に刺さっている氷、あれは?」


「母さんの最後の魔法なの。

 氷の烙印の槍」


「効かない、わけじゃないってことか」


 銀狼が唸りながら、獲物に近づいてくる。

 体は大きく、レンドルの背丈よりも十分高い。


 動く足は音もない。

 地面をなぞりながら距離を詰める。


 鋭く光る眼光は、まさに狩人のそれだった。

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