第14話 聖樹と賢者と閃光
「じゃあ、エルフたちは、聖樹の魔物を護るために庇った」
「森の聖樹ね。
そう、エルフに加護を与えられる存在」
「昔は話しちゃいけなかった。
でも、今は違う。
それに、魔物を庇ったというのは、サンガードの口実ね。
世界樹をサンブラントが手に入れたかった」
「そうなのか」
「信じられない、でしょ?」
ジークは肩をすくめ、試すようにこちらを見た。
「いや、そんなことはないよ。
魔物と戦い続け、エルフたちはこの地を開拓してきた。
邪神信仰なんて、するわけがない。」
それは、どう考えても筋が通らなかった。
レンドルの中では、そう結論づけられていた。
「ふーん、結構柔らかい考えができるのね。
もっと詳しく知りたければ、ユグ=シルヴァンに行くといいわ。
自分で見て、調べるのが大事。
そこには、お父さんが、たくさんの本を集めていたの。
世界のことや、この大陸の歴史も、書き残していた」
「君のお父さんが?」
「そう、賢者ネオネス。
私が勝手にそういってるだけだけどね。
――もう死んじゃったけど」
「え、生きてたよ」
「どこで? ……うそでしょ」
「サンガードの神殿で、神官の補佐をしてた」
「神殿の神官?
――別人よ、エルフが人族の神官してどうするの」
「ネオネスって名乗っていたから……同じ人かなって」
「顔はみた?」
「フードを被っていた。
だけど、エルフの耳が見えたし。
静かで優しい感じがした。
話し方が、とても落ち着いてたよ」
「お父さん――
前にサンガードに捕まっちゃったの!」
ジークの声が、わずかに震えた。
「それで―――」
少女の大きな目が潤んだ。
さっきまで笑って話していた。
今は、両手で口を押さえている。
けど、きっと少し微笑んでいるんだと思った。
――なぜだろう。
どうしても、目が離せなかった。
もしかしたら、また変態って言われるのかな。
「生きている、そう信じていたほうが、いいんだよ。
国に戻ったら、君のことを伝えてみようか。」
「いいの?お願い――」
「いいよ。
あ、その、ずっと話していたけど……
名前を聞いてなかった」
「ふふ、そうね。
話し込んじゃったね」
「俺はレンドル・ブレイズ、サンガードの――騎士」
「おーい、ジーク。
そろそろ戻るぞ」
騎士風の男が、こちらへ歩いてきた。
背は高く、歩みはゆったりとしている。
だが、その一歩一歩に無駄がない。
まばらにいた兵や騎士たちから注目を浴びていた。
鎧は、実戦用だ。
装飾は少なく、傷跡の残る金属の鈍い光だけが目に入る。
腰に下げた剣も、儀礼用ではない。
使われ続けてきた者のそれだった。
視線が合った瞬間、空気が一段引き締まった。
ただの同行者ではない。
この場の主導権を握る人間だと、レンドルは直感した。
「ん、君は?
サンガードの騎士か、若いな。
ジークと何を話していたのか知らんが――
うちの子をたぶらかすなよ。」
そう言って、男は口元だけで笑った。
「え、ラクア違うの」
ジークが慌てたように首を振る。
男は何も言わず、ひょいと顎でジークを示した。
「泣いてる」
「泣いてない!」
「泣かせてません……」
思わず、レンドルは両手を上げた。
「ラクア、いこ。またね、レンドル」
「――君はレンドルというのか」
「あ、はい。サンガードの騎士です。え、ラクア!?」
思わず声が裏返った。
「あなたはラクロアンの、英雄ラクア。
あ、ラクアさん」
「ラクアでいい。
レンドル。
そうだ、そう、――閃光のラクア、だ。」
そう言って、どこか楽しそうに口元を緩める。
「ほ、ほんもの――」
「おかしなことをいうな。本物さ。
同盟のために来たんだ。
知ってるだろう、騎士なら」
「は、はい」
「君はレンドル、か。
……そうだな。連絡を受けたときに、いい加護持ちだと聞いていた。
そして――黄金騎士を屠ったのが、君だ」
ラクアは、頷きながら思い出したように言った。
「そうなの!? 本当なのレンドル」
ジークが大きな目を見開く。
「本当さ、さっき聞いたんだ」
「ラクアに聞いてない……本当なの、レンドル」
ラクアは、やれやれと言いたげに息を吐いた。
「一騎打ちで、何とか、ね」
「……優秀ってそういうこと、ね」
「そういう意味じゃなかったんだ、けど」
「いいの、強いのね」
「……ギリギリだった。」
「よし、やるか」
ラクアは足を一歩引き、腰の剣に手を置いた。
「一騎打ちやろう、俺とレンドル」
「は?」「え?」
「君は英雄騎士を倒した。
そして、俺はラクアだ。
自慢じゃないが、亜神を倒したこともある。
銀狼は知ってるな――あれも、撃退した」
そこで一瞬、間を置く。
「どうだ。すごいだろ」
口元が、楽しそうに歪んだ。
「だったら――やらない理由は、ない」
ラクアは、レンドルを指さし――
「加護持ちだろ、レンドル。
剣を抜け」
断ろうとした。
――違う。
断るべきだ、と考えた。
だが次の瞬間、その結論だけが、すっと霧散した。
なぜか、理由だけが消える。
言葉が、組み立たない。
「俺は加護集めが好きでね」
……加護集め?
意味を考えようとしたが、言葉は頭の中で滑っていった。
「ラ!? ラクア!」
ジークが声を上げる。
「君みたいな若い子が、加護を持っている。
うらやましいじゃないか」
ラクアはそう言うと、腰の剣を抜いた。
左手で柄を掴み、くるりと宙へ放る。
「なに、ちょっとした模擬戦だ。
手合わせを頼むよ。
断るなよ」
落ちてきた剣を、ラクアは右手で受け止めた。
「抜け」
――殺気。
気づいたときには、
レンドルは剣を抜いていた。




