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銀と氷のジークリンデ  作者: 四十早
第1章 赤髪の騎士と青き月
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第11話 赤髪の剣と英雄の槍・黄金騎士

 ルベリア王国の主要防衛地点、コルタナ要塞の外門前。

 破城槌が打ち付けられ、要塞門は今にも破れそうだった。

 東の空に朝日が照り出し、それが攻撃開始の合図となった。

 

 叙任の間での一件を経て、レンドルはブルード侯爵の隊に編成された。

 破城槌が城門を打つ鈍い音に耳を立てながら、あの場で交わした約束を反芻していた。



 騒ぎを聞きつけた騎士たちが駆けつけ、事態は速やかに収束した。

 上級騎士ランパルザは、治療室へと運ばれた。

 意識はあったが、重傷だった。


 グリフォート団長は、最初から見ていた。

 ――レンドルが剣を抜く、その直前から。


 すぐに、責任の所在が問われた。

 だが、単なる不始末として片づけられる話ではなかった。

 上級騎士の中でも精鋭と呼ばれた男が、

 訓練生によって、戦闘不能にされた。


 それが何を意味する出来事かを、そこにいた全員が理解していた。


 加護の力。

 それも、扱いきれていないはずの若い訓練生が、振るった。


 ブルードであればどうなったか。

 そう問われ、彼は短く否定した。

 自分でも無理だ、と。


 結論は、即座に出された。


 公式には、先に剣を抜いたのは上級騎士ランパルザである。

 なぜ剣を抜いたのか、相手がレンドルであったかどうかは、名誉のため非公開とされた。

 だが、それだけでは足りない。

 貴族社会は、事実よりも「納得」を求める。


 だから、条件が付けられた。


 懲罰兵として、最前線に出ること。

 それだけでは足りなかった。

 誰もが認めざるを得ない成果を、示す必要があった。

 そうでなければ、騎士団とて責任を免れなかった。


 敵を倒すだけでは足りない。

 求められたのは、象徴だった。


 ――英雄の排除。


 それが、叙任の間で静かに決まった結論だった。


◆◇◆◇◆


 要塞門が破城槌に砕かれ、サンガード兵が雪崩れ込む。

 そこに侵入させまいと、外郭内庭――下ベイリーで敵の大盾兵が構える。

 盾と盾の隙間から槍が突き出され、槍衾となり、何人かが倒れ込んだ。

 上ベイリーからは弓兵の攻撃が降り注ぎ、それに合わせて、味方の兵士たちは大盾の下に身を隠した。


 盾兵同士の押し合いが始まり、戦線は膠着した。

 その瞬間を見計らい、味方の魔法使いが火の柱を発現させる。

 爆音とともに、十数名が炎に巻き込まれた。


 突破口となった傷口にまたサンガードの兵が流れ込む。

 大盾一列目、二列目、三列目と繰り返され、とうとうルベリア王国の防衛線を突破した。

 

 城内の段差から、弓兵の集中砲火が魔法使いに放たれる。

 その矢は魔法使いに届く前に、味方の盾兵に防がれる。

 魔法使いは希少だ。

 一度の魔法で十数名を無力化できるが、それゆえ真っ先に狙われる。

 それを囮に、味方の兵士たちは次々と進軍していく。

 だが、通用しないと分かると、敵の魔法使いから氷槍が放たれ、盾も魔法使いも貫かれた。


 まさに、乱戦だった。


 だが、その停滞する戦線の只中を、幾重もの防衛網を文字通り貫通して突き抜け、上ベイリー――居館キープを擁する城の最奥区画へと最短距離で肉薄する一団があった。 


 敵の包囲を正面から打ち破る。

 そこに空いた穴へ、さらに味方が流れ込む。

 それを数度繰り返しても、勢いは止まらない。


 ブルードが率いる小隊。

 戦線が止まったとき、真っ先に放り込まれる役目を負った部隊だ。


「まずいな……あれは加護持ちの集団だ。

 ほう――刃を合わせたら楽しめそうな相手がいる。俺が出る」


 敵兵が、海が割れるように道を空けた。

 その不自然な静けさに、レンドルは異変を悟った。


「俺はエリク・ヒューリッド――

 王より賜った黄金の称号を持つ騎士だ!」


 騒乱の中でも聞き取れる大声とともに、

 鍛錬鋼で作られた大槍を頭上で大きく振り回すと、周囲の動きが止まった。


 黄金の騎士鎧に純白のマントを羽織った騎士が、レンドルの前に現れた。


 ルベリア王国建国の雄。

 この戦で、知らぬものはいない。


 その名が出た瞬間、

 サンガードの兵たちの動きが、わずかに止まった。


 英雄騎士だ。


「……本物か」

「黄金騎士……エリクだ」

「前線に姿を見せた。――本気だぞ」


 低い声が、ざわめきとなって広がっていく。


「撤退戦で、上級騎士を五人落とした」

「それだけじゃない。矢を何本も受けて、まだ前に出てきた」

「……王を拾って帰った、って話だ」


 言葉が落ちるたび、空気が重くなる。

 剣を握る手に、無意識の力がこもった。


「貴様、騎士の果たし合いの作法もしらんのか。

 サンガードは猿を戦に放り込むのか?」


「レンドル!名乗れ!お前の名誉のためだぞ!」


 ブレイズ家の恥になる。

 何のためにここにいる――

 そう言わんばかりに、強く背中を押してきた。


 勝手に最前線に送っておいてなんてことだ、と思いながらも――

 レンドルは兜を投げ捨てた。


「おれは、ブレイズ家ファレンの息子――レンドル・ブレイズだ!

 これでいいか!ばか野郎!」


 一瞬、誰も声を出さなかった。


「ほう、ばか野郎とは楽しませてくれる。

 言葉を操る赤毛の猿はレンドルと言うのか。

 これは受けて立たねばならんな」


 敵も味方も、沸いた。

 どよめきが膨れ上がり、

 やがて大歓声に変わった。


 英雄騎士に先に名乗られた。

 そして、一騎打ちを受けた。


 ――それが、どういう意味か。

 分からぬほど、俺は愚かではない。


「それではレンドル、騎士の作法は、知っているな」


 レンドルはまだ、荒い呼吸を整えながら、自身の剣を鞘へと戻す。

 それを待つように、エリクは静かに前に出た。

 流麗な動作で大槍を構え、穂先を天に向ける。


 数瞬前までの喧騒が、断ち切られた。

 二人の間に、峻烈な静寂が降りる。


 レンドルの呼吸は、ようやく戦えるところまで戻っていた。

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