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第10話 赤髪の剣と英雄の槍・開戦

 サンガード皇国、ルベリア王国は、コルタナ山脈から流れる川を境に、互いに陣を張った。

 今、その川の三角州に、双方の戦争契約代理人と証紋官が集っていた。

 そして――契約戦争が正式に結ばれた。


 二国間で交わされた証紋契約(しょうもんけいやく)の内容は、主に三つ。

 

~~~~~~~~~~


 1.王族責任の追及、および王族血統一系のみの存続を保障

 2.戦後賠償、王族・貴族の戦争負債の確定と権利保障

 3.降伏後の人的補償とした国民の保護


 一年内を期限とし、契約が履行されなかった場合、

 戦争契約者および代理人、ならびに証紋官は

 雷の神レイナダの裁定により

 体内からの雷撃による罰が発動する。


~~~~~~~~~~



「聞け――! サンガードを護る、すべての戦士よ!」


「此度は、サンガード皇国、サンブラント皇帝陛下の報復戦!

 因果の剣(いんがのつるぎ)である!」


「悪王カラドリウス・ルベリアを討つ時が来た!」


「この男は、エルフどもと共謀し、

 調停の儀の最中、陛下を罠にかけ暗殺した!」


「やつらは統治国家にあらず!

 人族の文明に値しない蛮族である!」


「我らは、皇帝の名のもと民を救い、

 陛下の仇を討つ!」


「――大義は、我らにあり!!」


 ゆくぞー!!

 おぉ!!!


 進軍が始まる。


 ――ルベリア王国軍も進み始めた。

 もはや、誰がこの流れを止められるのか。


 この戦は、歩兵戦になる――そう教えられていた。

 湿地帯もあることから、馬を使わず、歩兵隊・弓隊・魔法隊の構成になると。

 レンドルは、グリフォート団長の言葉を思い出しながら進んでいると、

 小隊長のブルードが声をかけてきた。


「お前はまだ戦を知らん、だが加護持ちだ。

 いいな、ためらうなよ。

 まずは生き残ることを考えろ」


 そう言うと、ブルードは続けた。


「小隊行動の規約を覚えているな」


 レンドルが大きく頷くと


「よし、なら生き残れる、大丈夫だ」


 そして、他の隊員にも声をかけていった。


 戦場で声を荒げず、必要なことだけを確実に伝える。

 ――この人は、何度も生き残ってきたのだ。


 ”ためらうな”という言葉が、胸に残った。

 加護を持つ自分に向けられた言葉だと、はっきり分かった。


◆◇◆◇◆


 一日目、二日目と戦いが続き、徐々にルベリア側の被害が増えていった。

 そして明日、ルベリアとの攻城戦を迎える。


 ブルードたちの小隊は、最後まで念入りに装備を点検した。

 刃の欠け、留め具の緩み、革の擦り切れ。

 誰かが見落とせば、それは自分だけでなく、隣の命を奪う。


 やがて焚き火が起こされ、火の粉が夜空へと散った。

 赤く揺れる炎を囲み、兵たちは無言のまま腰を下ろす。

 言葉は、ほとんど交わされなかった。


 剣を膝に置いたまま目を閉じる者。

 鎧を外さず、壁にもたれて眠りに落ちる者。

 誰も深くは眠らない。

 目を閉じても、耳は音を探していた。


 焚き火がはぜる音。

 遠くで鳴る金属音。

 夜風に混じる、血と土の匂い。


「レンドル、生き残ったな。――どうだ、戦は」


「気持ちのいいもんじゃない……です」


 分かっていたことだったが、分かっていなかった。


「剣技も冴えて、身体強化魔法も馴染んでいたようだった。

 それが相まって、何人も倒していた」


「……五人から先は数えていません」


 レンドルは、視線を落としたまま続けた。


「足が、踏ん張れない場所で……

 危ういときも、あったので」


 レンドルは、指先に力を入れたまま、視線を上げられなかった。

 今は剣を持っていない。

 だが、剣を握るときの感覚が抜け切れていなかった。


 言い訳だと、自分でも分かっていた。

 訓練では、倒れた相手は立ち上がった。

 戦場では、倒れた相手は動かなかった。

 その違いを、レンドルは今になって本当に理解した。


 進め、と身体が命じた。

 止まれ、と心が答えた。

 その一瞬の遅れが、いくつもの形になって、体に刻まれていた。

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