第九話『鉄掌の一撃と裏切りの覚悟』
俺たちの宿にクランチの手下【レンド】がついてきた。 レンドは俺とほぼ同い年で、背が高いがひょろひょろで目の下に大きなクマがある男だった。
(この男はとても監視や刺客向きって感じじゃないな......)
「なあ、カイトの旦那。 その女、イオリでしたっけ? ずいぶん子綺麗な風ですけど、本当に奴隷なんですか?」
そう静かに座るイオリシアを見て、レンドは聞いてきた。
「高値で売るには綺麗にしとかないと売れないだろ。 少しでも価値をあげるためにしてるんだ。 お前、もし傷でもつけたら......」
そう言って俺は短剣をぬいた。
「わ、わかってますって俺はただのあんたの監視っす!! ただあんたは奴隷にひどいことしないんだなって思って気になっただけです...... 他のやつは物のように扱うから......」
そう言ってレンドは目を伏せた。
(こいつ裏社会に向いてないだろ...... まあ、こんな子ともで向いてるやつなんていないだろうが......)
「そんなことより、お前らはどんなやつが顧客なんだ」
「なぜですか?」
不審げにレンドがこちらを見た。
「もし、向こうに裏切ったり、ヤバイやつがいたら、こっちが危険だろう...... 少しでも情報が欲しい。 俺もお前らを信用しきってるわけじゃない」
そう言うとレンドは納得したのかうなずいた。
「ああ、えーと、俺も一番したっぱなんでよく知らないんすけど、確か大富豪とか貴族とか、そういうやつが集まるらしいっすね」
「奴隷がそんなに必要なのか」
「まあ、飼ってるモンスターのエサとか、闘技場で戦わせてるとか、いろいろあるんでしょうけど......」
そう言いよどんだ。
「なんだ」
「なんか、俺が言うことじゃねえけど、そんなことしてゆっくり寝られるんすかね。 なんか心が痛まないのかなって......」
「お前だってその片棒を担いでるんだぞ」
「......そうすね。 だから最近ずっと眠れなくって...... 自分でも弱いことはわかってるけど......」
そう肩をすくめた
(それでクマか...... なんでクランチはこいつを監視に使ったんだ)
「そんなんで、よく裏家業に入ろうと思ったな」
「......いや、俺、ここで生まれて、学も、コネもない。 なんとか生きようとしたら、ここしかなかったんすよ。 雑用でも生きていけるだけましかと...... でも」
そう憔悴しきった顔でレンドはそういった。
「旦那はそんなことはないんでしょうね。 その若さで修羅場くぐってる強い人だから......」
そう悲しそうに笑った。
(こいつもこうならざるしかなかったのか...... 他の道も。 いや、今は対策を練るか)
そのまま時間はすぎ、一週間後、オークション当日になった。
「ここか......」
「ええ、呼ばれたのはここのはずですが...... おかしいな」
俺とレンドは街外れへと来ていた。 イオリシアは商品として先に会場に行った。 俺たちはクランチから金銭の取引をすると呼び出されていた。
木々の中から、武器を持つ者たちがぞろぞろと現れた。
「あ...... えっ...... アニキ、みなさん、なんです、そんな怖い顔して」
「どうやら、俺たちは罠にかけられたようだ」
「えっ...... 罠」
レンドは事情を飲み込めないようだ。
「くくくっ...... よくわかってるじゃねえか」
男の一人がいやな笑みを浮かべ、そう持っている剣を肩に置く。
「俺を殺してイオリだけ奪うつもりか......」
「ぽっと出のやつは信用できねえし、どうせならあの女だけもらうってボスの指令だ。 まあ悪く思うなよ」
「いや、アニキ、客にそんなことしたら誰ももう売ってくれねえでしょう!」
レンドがそう訴えた。
「......だな。 だが、それを知っているやつがいなくなれば問題ないだろ。 レンド」
その冷たい目はレンドも見ている。
「......お、俺もですかアニキ!」
「レンド、お前は弱すぎんだよ。 たかがカツアゲひとつできやしない...... 客と一緒に殺されれば、こっちの被害として言い訳もたつしな」
「くっ......」
(レンドをクランチが俺につけたのは、死んだのが客だけだと怪しまれるからの捨て駒か。 あわれだな......)
「じゃあ、死んでもらえるか」
男たちが武器を持ち襲ってきた。
レンドが俺の前にでる。
「多分、オークションはクランチの別荘です...... 俺が何とか時間を稼ぎます...... はやく行ってください!」
レンドが答えた。
「レンド、どういうつもりだ裏切られてのささやかな抵抗か」
そう男はあざける。
「裏切られたからとかじゃねえ! 本当は、お、俺は嫌だったんだ! こんなこと! もう死んでもお前らには従わねぇ!」
俺は短剣を抜く。
「だったら死ねぇ!!」
ガキッ!
俺は前にでてレンドに振り下ろされた剣を掌で捕まえた。
「旦那!?」
「なんだ! 剣を素手で掴まれた!!」
「契約、【鉄掌】《メタルハンド》」
両の掌を鉄に変える。 腕全体ではなく、一部だけなら生命力が少ないと気づいていた。
「ぐはっ!!」
「がはっ!!」
「なんだこいつ!?」
「剣が効かない!!」
俺は次々と、剣を鉄の指でつかむと男たちを拳で殴りつける。
(こいつらの動きなんて、モンスターに比べたら止まって見える)
モンスターとの戦いで、目もよく見え攻撃をつかむのも容易にできた。 瞬く間に男たちを地面に転がした。
「すげえ...... あの人数を」
レンドがそうつぶやく。
「別荘ってどこだ?」
「えっ? 助かったのに、行くんですか...... 死にますよ」
「場所だけ教えてくれればいい」
「......いや、俺も行きます。 なんか行かないといけない気がするんです!」
そう、レンドは俺の目を見据えた。




