第八話『クランチ一家との接触──裏社会の扉』
細い路地を進み裏通りにでると、この街のもうひとつの真実があった。 そこでは大勢の力なく横たわった人や痩せ細り座ったものたちがいる。
「これは......」
「これがこの領地のもう一面です。 他の街にもスラムのような場所はありますが、ここほどはひどくはない。 どこからか連れてこられた者や、流れ者、犯罪者たちが多くいます」
そう悲しげにイオリシアは言う。
「おい...... お前ら金持ってるな。 よこせ......」
そう窪んだ頬をした覇気のないボロボロの服の男がナイフをもち、こちらによろよろと近づく。
「悪いが何ももっていない」
「それなら腰にある剣でも鎧でも服でも、なんでもいい......」
そう言った男の目は虚ろで、怒りや恐怖も見えない。
(もうどうにでもなれって感じだな)
俺は剣を持つ。 男は動じず前に進む。
「ほれ」
剣を男に渡した。
男は無言でそれを掴むと何もいわずよろよろと去っていった。
「......同情ですか」
「そうだな。 かわいそうだと思った。 それはいけないことか」
「それは相手への侮辱にもなるのでは」
「かもな...... それでもかわいそうだと思うのは自然なことだ。 同情がいいことだと思わないが、同情しないで見捨てることが良いことでもないだろ。 どちらが良いとかはないなら、俺のしたいようにするだけだ」
「......あの男、あの剣でなにするかわかりませんよ」
「問題ないさ。 ただあれは刃を丸めてた模造剣だ。 殴るぐらいしか使えん。 あの男の体力じゃ、まともに振れやしない。 どうせ売って金に変えるだろ」
「模造剣、そんなもの持ってたのですか」
驚いたようにイオリシアは言った。
「ああ、護身用の短剣は持ってる」
腰につけた短剣を見せた。
(長い剣だと、もし拡張した場合、俺までダメージがあるからな。 あのアリのダンジョンのあと、身体中切り傷だらけだったし...... おかげで人に見せられない体になった、見せる相手もいないけど......)
「それで、どこにクランチ一家がいるんだ」
「この先に、彼らが使っているアジトがあるはず......」
「全員倒して、証言させるほうが早いか」
「それでは、口を割らないと思います。 なにせ領主と通じているのです。 奴隷オークションをすると聞いていますから、彼らと話をしてそれに参加しましょう」
「オークションか...... イオリシアは帰ったほうがいいんじゃないか。 危ないぞ」
「......覚悟の上です。 私も剣術の心得と魔法を使えますから、ご心配にはおよびません」
「魔法...... 具体的になにができるんだ」
「氷を撃ち出したり、防御壁を作ったり、治療もできます」
「すごいな......」
「......カイトさま、あれです」
他の建物から隠れてみると、奥に大きな建物がある。 その前には人相の悪い黒服の男たちが背を丸めて周囲を見ている。
「あれがアジトか...... でも話をするってなにを話す?」
「私に考えがあります」
イオリシアは覚悟を決めたように俺の目を見た。
「なにもんだ......」
見張りの男たちが、俺たちを囲んで凄んだ。
俺はイオリシアを連れて、アジトの前に来ていた。
「ああ、クランチに用があってきた」
「うちのボスに...... お前みたいなガキがか」
「いいから通してくれ、仕事の話だ」
「どうする?」
「こんなガキじゃ、襲撃もできねえだろ」
「だな。 まあいい、こい」
一人に連れられて、建物の中へとはいった。 そこには大勢の手下と思われる男たちがカードゲームに興じて酒をあおっている。
階段を登り、上の階へと向かう。 ある部屋の前にたつ。
「ボス...... 変なガキが仕事できたといっていますが」
「変なガキ、追い返せ」
「それが、上玉の女を連れてまして......」
「......中に入れ」
俺たちは中にはいる。 そこには強面の男がソファーに座っていた。 その周りに手下たちがいる。
(こいつがクランチか。 ずいぶん警備が厳重だな。 多くの恨みを買ってるだろうし、裏社会で生きていても自由なんかないんだな)
「ほう......」
クランチは俺を見ずに後ろのイオリシアを見ている。
「それでなんのようだ」
「俺はカイト、あんたが奴隷オークションをしてるって噂があってな」
俺がそういうと、その目を見開く。
「......どこでそれを......」
「蛇の道は蛇っていうだろ...... それより、こいつはどうだ? 没落貴族の令嬢だ。 俺が貴族の親から買った。 奴隷として売りたい」
「......ふむ、お前のようなガキが貴族から買った......」
不審そうにクランチはそのギョロッとした目を向けた。
(嘘とはいえ、奴隷扱いなんて不快な気持ちだ...... こいつらはなんでこんなことができるんだ)
「......俺は冒険者だ。 金ならある......」
そう言うと、俺は袋に入った金をテーブルにおいた。
「すげぇ......」
手下の一人が声を出した。
「確かにその体の傷から見て、それなりの修羅場を潜ったようだな」
俺の体を見てクランチは葉巻に火をつけた。
「それだけ稼げるやつが、わざわざ違法の奴隷に手を出すのか......」
「この仕事はいつも死と隣り合わせだ。 この傷だ。 正直やめたい。 残りの人生を遊んで暮らすためには、もっと金がいる。 あんたならわかるだろ」
「......まあな、金はいくらあっても、ありすぎることはないからな。 冒険者なら金目当てか...... いいだろう。 ただまだ完全に信用しているわけじゃないからな。 ウチのやつをつける。 それでいいか」
「かまわない」
商談がまとまり、オークションの当日までクランチの手下がつくことになった。




