第七話『記憶の代償と貴族の闇』
「まさか、この数のモンスターを...... それに、しかも【レイブンクイーンアント】ダンジョンマスターを倒したのですか......」
バティアさんが言葉を失っている。 俺はダンジョンからなんとか帰ってきた。
(契約を拡張して、地面を油と交換することで女王アリ──レイブンクイーンアントを炎に包んでなんとか倒せたか......)
そして俺は報酬を貰い、Bクラスへと昇格した。
「くそっ......」
ダンジョンマスターの死によって、ダンジョンは崩壊した。 その報酬は100億に相当した。 しかし拡張の借款は300億だった。
(せめてアリたちを売り払えればよかったが、全部燃えて売り物にならなかった。 十日で一割の利息だ。 払えないとその分は生命力から天引きされる)
「つまり十日で利息が30億。 払えないと間違いなく即死。 100億じゃ1ヶ月の利息分しか払えない...... つまり一ヶ月ちょいで死ぬ!!」
(利息を払えても、元金を支払わないとこの地獄が続く...... 300億、後200億を十日以内で手に入れるしかない。 ダンジョン二つ破壊でもしないと無理だろ)
俺はBクラスの掲示板を諦めながら探す。
「やはり、ダンジョン破壊の依頼はないか...... Aクラスの仕事だと言ってたな。 それに問題は拡張だ」
契約、拡張は左手と右手のものを交換する。 契約のインターバルはなくなり、元の価値を越える量も交換できるが、量を増やせばその分の【記憶】を消費する。 逆に拡張契約では生命力を消費する。
(壁を剣に、地面を油に変えたとき、どの程度記憶を失ったかわからないが...... 少なくとも幼少期の大部分は失ったな、なにも思い出せない。 範囲をちゃんと決めないと俺の記憶がなくなってしまう)
「くそっ...... 最悪、記憶を失っても、高価なものを大量に複製してそれを売却するしかない」
「すみません」
後ろから呼び掛けられた。 そこにいたのは俺と同じぐらいの年齢の鎧姿の品のいい少女だった。
「俺に用?」
「あなたがカイトさまですか」
「そうだけど...... 今は仕事を探すのにかなり忙しいんだ。 またにするか、そこで用件を言ってくれ」
美しい少女だが、命がかかっているため、必死に掲示板を調べる。
「仕事を探しているのですか...... かなり高額のものがありますよ」
「えっ!?」
俺は少女──【イオリシア】の話を聞くことにした。
「俺に貴族の悪事を暴けってことか」
彼女、イオリシアからそんな依頼を受けた。
「そんなのギルドに頼めばいいだろう?」
「正直、かなりの力を持つため、依頼を大勢に知られるわけにはいかないのです」
(まあ、掲示板に張り出されるからな。 息のかかったやつや、密告するやつもいてもおかしくない...... ただ俺は金が必要なんだ。 正直この子の身なりや口調からお金持ちだとは思うが、とてもあの大金を払えるとは......)
「俺を雇うにはかなりの額が......」
「悪事を暴いていただいたあかつきには、100億お出しします」
そう少女はこともなく言った。
「はぁ!? い、いや、そんなに払えないだろ!」
「これはかなり希少な魔法の指輪です。 これを売ればその程度になるはず、鑑定なりをしてみてください」
そう指から紋章と宝石のついた指輪をはずし、こちらに渡した。
(高そうだけども、いくらなんでも、そんな価値あるわけ...... 【グレンベールの指輪】250億...... に、250億!?)
アプレイサルで見ると、その指輪は250億の価値があった。
「こ、こ、これをくれるのか!?」
「はい、悪事を見つけ暴いていただけたらですが」
(す、すごい! この仕事をこなせれば借金を返してお釣りまでできる!)
俺は一も二もなくその仕事を受けた。
俺たちは馬車に乗り、その貴族領主【ディセンタ】のいる。ディセンタ領に向かっていた。
「本当にそのディセンタが悪事をしているのか」
「ええ、間違いなく...... 彼は犯罪に手を染めています。 しかしその地位と根回しによって揉み消しているのです......」
イオリシアはこの【ルードランド】王国の貴族だが、ディセンタの悪事を知り今まで追いかけていたという。
(貴族として安泰なのに、わざわざヤバイことに首を突っ込むなんて理解できないな...... まあ俺は仕事しないと記憶か、命がなくなるから仕方ないが......)
街に入る。 そこは大きな建物が立ち並び、身に付けているものから、かなり裕福なものたちがいる。 イオリシアは鎧や剣を脱ぎ、普通の服装をしている。
(こう見ると、ただの令嬢だな)
「ずいぶん金持ちが多いな」
「ええ、この財力も彼の影響力を持つ理由のひとつ...... その財力を保つための悪事を行っているのです」
「具体的には」
「裏社会とのつながり、この国では違法なものを扱います。 その最大のものが奴隷売買」
「奴隷売買」
「ええ、奴隷の保有も禁止されて数百年、それを使用人名目で保有しています。 しかも奴隷を他国に売ったり、戦わせるなど非合法な賭博などで、莫大なお金を得ているとのこと......」
「奴隷か...... なるほど、かなりの犯罪だが、捕まえても証拠をもみ消すんじゃないのか」
「国も彼の悪行には気づいています。 明確な証拠さえあれば彼をとらえるのは可能です」
「それで、どうやって証拠を見つける。 仮に奴隷を見つけても、それがやつの仕業だと証明できるのか?」
「無理です。 ですから、奴隷商人と共に捕縛する必要があります。 それは【クランチ一家】、この街の顔役です」
「裏社会の人間か」
「ええ、人殺しすら厭わない人たちです......」
そう緊張気味にイオリシアは言った。
(怖いのだろうな...... 俺はモンスターと死ぬほど戦ってるから、裏社会だろうが人間だと恐怖心が薄いな)
それから裏通りへと向かった。




