表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茉莉花トニック  作者: 耀羽 絵空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

【エピローグ】

 それから5年が経った。


 茉莉は臨床心理士として、総合病院で働いていた。


 患者さんやその家族の心理的支援を行うのが主な仕事だった。


 大学院で学んだ理論と、これまでの実践経験を活かして、多くの人の支援を行っていた。


「茉莉先生の面談を受けると、心が軽くなります」


 そう言ってくれる患者さんが多かった。


 茉莉のアプローチは変わらなかった。


 相手の話を丁寧に聞き、すべてを受け入れ、相手の力を信じる。


 専門的な技法も使うが、最も大切にしているのは、人と人とのつながりだった。


 病院では、茉莉の提案で「患者さん同士の支え合いグループ」も始まっていた。


 同じような悩みを持つ患者さんたちが、お互いを支援し合うシステム。


 茉莉はファシリテーターとして、グループの運営をサポートしていた。


「一人で抱え込まないで、みんなで支え合いましょう」


 茉莉はいつもそう話していた。




 プライベートでは、茉莉は以前のピア・サポート・サークルのメンバーたちとの交流を続けていた。


 月に1回の同窓会では、それぞれの近況を報告し合った。


「茉莉さんのおかげで、私もカウンセラーになれました」


「私は教師になって、子どもたちの相談に乗っています」


「僕は企業で、従業員のメンタルヘルスサポートをしています」


 みんな、それぞれの場所で、人を支える仕事に就いていた。


 茉莉が蒔いた種が、大きく育って、多くの人に影響を与えている。


 翔太くんも、立派なイラストレーターになっていた。


 引きこもりの経験を活かした、心に響く作品を描いて、多くの人に勇気を与えていた。


「茉莉さんは、僕の人生を変えてくれた恩人です」


 翔太くんはいつもそう言ってくれた。


 でも、茉莉は知っていた。


 翔太くんを変えたのは、翔太くん自身の力だということを。


 自分は、ただそのお手伝いをしただけ。




 ある秋の夕方、茉莉は久しぶりに商店街を歩いていた。


 懐かしい「花想庵」の前を通りかかると、店主が外に出て来た。


「茉莉さん、お久しぶりです」


「こんにちは。お元気でしたか?」


 店主は相変わらず、温和な笑顔を浮かべていた。


「お忙しそうですね。素晴らしい活動をされているとお聞きしています」


「おかげさまで、充実した日々を送っています」


 茉莉は近況を報告した。


「そうですか。茉莉さんのような人がいてくれて、本当に良かった」


「私こそ、あの時ノートと出会えて良かったです」


 茉莉は心から感謝していた。


「あのノートは、今でも大切にしています」


「そうですね。でも、もうノートに頼る必要はないでしょう?」


 店主の言葉に、茉莉は頷いた。


 確かに、最近はノートを開くことも少なくなっていた。


 トニックも、特別なレシピがなくても作れるようになっていた。


 というより、普通のお茶でも、心を込めて淹れれば、十分に人を支えることができることを知っていた。


「大切なのは、技法ではなく心ですから」


「その通りです」


 店主は微笑んだ。


「茉莉さんは、本当の意味で成長されました」


 茉莉は店主に別れを告げて、夕暮れの商店街を歩いた。


 空には、美しい夕焼けが広がっていた。


 茉莉は満足感に満たされていた。


 長い旅だった。


 トニックとの出会いから始まり、失敗と学習を繰り返し、統合を経て、今に至る。


 一人ではできなかった。


 多くの人に支えられ、多くの人と出会い、そして多くの人を支えることができた。


 心の中には、今でも莉花と茉莉花の存在を感じることができる。


 三人で一緒に歩んできた道のり。


 そして、これからも一緒に歩んでいく未来。


 茉莉は空を見上げて、小さく呟いた。


「ありがとう、みんな」


 風が頬を撫でていった。


 茉莉花の香りがした。


 新しい明日に向かって、茉莉は歩き続けた。


 一人ではなく、多くの人と一緒に。


 希望を胸に、優しさを持って。


 そして、すべての人が持っている美しい可能性を信じながら。


【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ