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スーパースターな男II  作者: 柿井優嬉


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韮沢隆治と杉森圭吾の話④

「そういうわけでして、本当に申し訳ございません!」

 圭吾は、日本でやっていた活動がストップしてしまうことを、関係する人々に詫びたが、その理由がプロ球界への復帰、しかもメジャーリーグへの挑戦と聞くと、皆、許すどころか、表情を明るくした。

「そうですか! 全然構いませんよ。私たちだけでできることは、続けてやっていきますので、いつ戻ってこられても大丈夫です。どうぞ思う存分頑張って、向こうで暴れてきてください!」

「いってらっしゃい。アメリカに、その名をとどろかせてきて」

「やったー! いつかこの日が来るんじゃないかと待ち望んでいたんですよ。日本のプロ野球界へ戻るのではなく、メジャーリーグに乗り込むのを!」

 誰しも、あれほどの野球の才能を持った圭吾の、あまりに早過ぎる引退を、もったいないとずっと思っていたのだ。

 もちろん芽生にも報告すると、彼女はこう言葉を送った。

「頑張ってね。圭吾くんのプロでのプレーをまた観られるなんて、夢みたい。とっても嬉しいよ」

「そう言っていただいて、俺も嬉しいです。ありがとうございます」

「そうだな。韮沢くんと対戦できて、もしホームランを打ったら、しょうがないからー、一度くらいならー、デートをしてあげてもいいぞ♡」

 告白されて、フった立場とはいえ、完全に上から目線である。しかも、彼女は三十代だけれども、十代の女のコでもしないような、かなり可愛いコぶった言い方で、冗談でやったという感じでもなかった。

「……はあ」

 柳野さんも大概だけど、この人もちょっと変わってるよな。交際を申し込んだとき、OKの返事をもらえなくて、よかったー。

 圭吾は密かにそう思ったのだった。


 メジャーリーグでプレーをするとなると、交わす契約の項目が山のようにあり、かつ、複雑なために、代理人をつけることが必須だ。まずはそのエージェント探しから始めねばならない。

 だが、響壱が、圭吾のために、それはもちろん隆治のためというのが本当のところなのだけれども、すでに腕のいい代理人を何人かリストアップしており、その情報を提供したのだった。

「どうぞお使いください」

「うわっ。すみません、ありがとうございます」

「いえいえ」

「それにしても、ずいぶん用意がいいですね」

「こういうこともあろうかと思いまして」

 そして、その候補のなかからチョイスした代理人を通じて、圭吾はメジャーリーグの各球団との交渉を開始した。彼としては、「お金はいくらでもよい。ただし、二つあるリーグのうちの、隆治と同じエキサイティングリーグ所属のチームであること」が、唯一の条件であった。

 しかし、いくら圭吾の実力が並外れているといっても、プロの世界では七年以上のブランクがあるのだ。それでも、日本の球団ならば、彼のすごさを嫌というくらい知っているので、おそらく、どこか、それもいくつものところが、手を挙げるが、以前にスカウトを送り込んでいるためにデータは十分に揃っていても、実際に目にしたスカウト以外、肌感覚ではその力量を理解できていないメジャーリーグの球団である。

 通常交渉を行うシーズンオフからそれほど経っておらず、各チーム戦力が整っている開幕直後というタイミングも良くなく、どこも獲得に積極的ではないとの連絡が代理人からもたらされたのだ。

「そうですか。まあ、しょうがないですね。くり返しになりますが、エキサイティングリーグでありさえすれば、お金はいくらでもよいですし、他に注文もないので、引き続きよろしくお願いします」

 そのように伝え、しばらくして、ようやくテキサス・パイオニアーズというエキサイティングリーグの球団との間で契約が合意に至ったものの、マイナー契約であり、つまりは下部のチームでの出発を余儀なくされた。

 しかも、送られたのはダブルAだった。マイナーリーグは上から、トリプルA、ダブルA、シングルA、ルーキーリーグとある。日本のプロ野球選手が海を渡った場合、マイナーリーグでのプレーとは、ほとんどがトリプルAを指す。ダブルAとは要するに、日本だと三軍に該当する組織である。

〈日本の野球界のスーパースター 杉森圭吾 なんとダブルA行き〉

 日本国内の新聞やテレビといった各メディアは、ショッキングな出来事として大々的に報道した。

「なんでー?」

「ふざけるなよ」

 それを知って、さすが圭吾は実力があるだけでなく愛されるプレイヤーなだけあって、怒りや悲しみをあらわにする人が少なくなかったのだった。


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